9-14【闇に巣くうもの】

俺はソドムタウンの直ぐ西にある洋館前で昼食を取っていた。


屋敷の玄関前でだ。


テラスのような屋根付きの玄関前から10メートルほど離れて、地面に胡座をかきながらコカトリスの肉にかぶり付いていた。


屋敷の両開きの扉が片方だけ、僅かに開いている。


隙間はほんの5センチぐらいだ。


いつ開いたのか分からない。


ミーちゃんが扉の鍵を開けた時にはちゃんと閉まっていたはずだ。


おそらく俺が、ミーちゃんを見送るのに背を向けている僅かな間に開いたのだろう。


まあ、いつ開いたかは問題点じゃあないのだ。


それよりも、何故に開いたかが問題だ。


扉の建て付けが悪くて、鍵を開けたら勝手に開いたのならば、問題無い。


問題なのは、それ以外の理由で開いたのなら問題だ。


何せここは問題のお化け屋敷だからな。


俺はコカトリスの肉を咥えながら扉の隙間を凝視していた。


一瞬も目を離さない。


警戒する。


僅か5センチの隙間から見える闇に集中していた。


何かが居るのではないかと疑いながらだ。


だが、闇は静かだった。


しかし、黙視とは別に、俺の霊体感知スキルが疼いていた。


あそこに何かが居ると言っている。


扉の隙間の向こう側に、何か霊体が潜んでやがる。


【霊体感知スキルLv1】

パッシブで霊体を感知する確率が向上する。


俺はコカトリスの肉を食べ終わると、残った骨を後ろにポイっと放り投げた。


それから扉の隙間を睨み付けながら言う。


「分かってるんだぞ、そこから見ているのは……」


そう、間違いなく何かが居るのだ。


扉の隙間からこちらを見ていやがる。


そして、やっと扉の奥で動きが見えた。


何かが闇の中で僅かに動いたのだ。


ほんの一瞬だが、俺は見逃さなかった。


「やっぱり居やがるな!!」


俺が凄んだ瞬間であった。


扉の隙間に何かが光る。


俺が何かと凝視してみれば、人の顔が隙間からこちらを除き見ていた。


血走った丸い眼球が、こちらをジィーーーっと見ていやがったのだ。


こーえーーー!!!


見てるよ、見てるっ~~!!!


やっぱり居ますよ、この屋敷!!!


やばいお化けが憑いてますがな!!!


畜生!!


ここで臆してたまるか!!


俺は異次元宝物庫からロングボウ+2を取り出した。


狙う先は10メートル先の5センチの隙間だ。


「スマッシュアロー、食らえ!!」


俺は慎重に狙いを定めて矢を放った。


放たれた矢は狙い通りに扉の隙間に飛び込んで行った。


すると───。


『ィィイアアアッ!!!!』


悲鳴!?


なに!?


女性の悲鳴!?


当たったの!?


矢が当たったの!?


スキルが乗ってたから悲鳴なの!?


マジックアイテムから放った矢だから効いたの!?


お化けにも効いたの!?


そんな感じて俺が呆気に取られていると、扉の隙間から矢が飛んで来た。


反撃だ。


「なぬっ!?」


俺は咄嗟に左腕に装着していたバックラーでなんとか矢を防いだ。


「あぶね……」


俺が弾かれて地面に転がった矢を見ると、それは俺が放った矢とは違っていた。


ロングボウとかで放つ矢よりも少し小さな矢である。


「クロスボウ用の矢か……」


ボルトってタイプの矢である。


俺が視線をトビラに戻すと、そこからは霊体反応が薄くなっていた。


先ほどまでの霊気が感じられない。


「居なくなった? 立ち去ったのか……?」


俺はロングボウを異次元宝物庫に仕舞うと代わりにショートソードを取り出した。


この前、ゲットしたばかりの宝剣だ。


【ゴールドショートソード+3】

攻撃力が向上する。命中率が向上する。魔法サンダーエンチャントウェポンが掛けられる武器。


よし、今日はちょっぴり怖いから、これで行こうかな……。


俺は宝剣の先にマジックトーチを掛けると扉に近寄った。


扉の隙間からは霊気が流れ出ていたが、直ぐ側に霊が居るって感じではなかった。


俺はゆっくりと扉を開ける。


建て付けの悪い扉がギィーーっと耳障りな音を鳴らした。


こんな時にはテンションの下がる音である。


「ちっ……」


意味もなく舌打ちを溢した俺は、薄暗い屋敷内を見回した。


そこは広いロビーだった。


空気が埃っぽい。


天井は高い。


左に二階へ上がる階段がある。


床は大理石だった。


「これは……」


俺は床に埃が積もって無いか見た。


それは足跡が無いか探ろうとしてだ。


しかし、可笑しい──。


空気は埃っぽいのに、床には埃が溜まっていない。


溜まっているどころか、散り一つ無いのだ。


まるでモップ掛けを毎日しているかのように綺麗である。


艶々のピカピカなのだ。


可笑しいな、これは可笑しいぞ。


この屋敷はしばらく人が住んで居なかったはずだ。


なのに、何故、こんなに掃除が行き届いているんだ?


これは、隈無く探索する必要がありそうだな。


それよりも、根本的な権化が出て来てもらえればらくなのだが……。


『お客様、勝手に入られますと困ります』


でーたーーー!!


権化が出たーー!!


俺が声の主を探すと、ロビーの隅にクロスボウをぶら下げた人物が立っているのに気付く。


それはロビーの隅に立っているために、マジックトーチの光が届かず顔までは見えないが、黒い服に黒いスカートを穿き、白いカチューシャに白いエプロンを締めているのが分かった。


その成りは、どこから見てもメイドさんだ。


ただ、メイドに合わないクロスボウを持っているのだけが違和感である。


おそらく先ほど矢を打ち返して来たのは、このメイドなのだろう。


『すみません。御客様が御訪問なされるとは聞いてなかったので』


言いながら彼女が闇の中から歩み出て来た。


そして、俺はメイドの顔を見て、驚愕に近い驚きを感じる。


「嘘だろ……」


俺が驚いた理由は単純だった。


メイドの顔が干からびたミイラだったからだ。


そして、それ以上に驚いたのは、その左目に、俺が放った矢が刺さっていたからである。


「当たってたんかい!!」


しかも失明してないか!?


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