8-27【梁山泊】
旨いな!!
自分の手でちゃんと食べる飯は、本当に旨いぜ!!
そりゃあ女性にあーーんしてもらうのも悪くないが、ヨボヨボの年寄りじゃあないんだから、ちゃんと飯ぐらい自分の手で食べたいわ。
そんなこんなで完熟フレッシュ亭の一階で昼飯を食べ終わった俺は自室に戻った。
ところでなんでこの部屋の扉は壊れているんだろう?
だいぶ前から壊れているような??
あ、思い出した。
俺が突き破ったんだ。
まあ、いいか。
俺が部屋に戻ると、椅子に座ったスカル姉さんが、窓から外を眺めながら一人で酒を飲んでいた。
魔法で作った氷をグラスに入れている。
「ウィスキーか。昼まっから酒とは優雅だな、スカル姉さん」
スカル姉さんはグラスの中の大きめな氷を揺らしながら答える。
「たまには別の町の景色を眺めながら酒を飲むのも乙だなって思ってさ~」
「スバルちゃんはどうした?」
「仕事でソドムタウンに帰ったぞ。魔法使いギルドのはずせない仕事があるって言ってたかな」
あの子はあの子で忙しいようだ。
次の目標は薬店を開くことらしいから、お金を稼がないとならないのだろう。
まったく働き者の娘だよね。
歓心である。
「そうなんだ~。スバルちゃんは帰ったか。ちょっと残念だな~」
俺もスカル姉さんの横に立って窓の外を眺めた。
「人が多いな~」
俺が呟くと、スカル姉さんが別の話を訊いて来る。
「あんた、本当に旧魔王城に秘密基地をって言うか、町を作る気なの?」
「あたぼ~よ」
「まあ、それで、住人としてゴリたちを拾って来てるんだもんな」
「あいつら、行き場所が無いって言うからさ」
「ゴリはともかく、バイマンとオアイドスは犯罪者だろ?」
「オアイドスが何をしたか聞いたのか?」
「ちょっと締め上げたらゲロったぞ」
「そうですか~……」
バイマンは放火魔だし、オアイドスは居眠り強盗だ。
どちらも人は殺めていないが、罪人なのは間違いない。
「俺の住んでた故郷の隣の国で、こんな物語があるんだ」
スカル姉さんは、酒を飲みながら黙って俺の話を聞いてくれた。
「湖に浮かぶ島を難攻不落の要塞に仕上げたヤツらが、国中から罪人英雄を集めて正義の軍隊を作るって話なんだ」
「罪人英雄ってなんだよ?」
「まあ、犯罪者だけど心の奥に正義を宿しているヤツらかな~。人食いも混ざってたけれどね」
「ダメじゃんか……」
「その辺は見逃してくれ……」
「で、そいつらがどうした?」
「そいつらは段々と勢力を広げて、やがて王国に隠れる腐敗を正すために戦ったんだ」
「それから?」
「最後の結末は分からない」
「なんでだい?」
「物語が長すぎて、最後まで読まれないんだよ。ちなみに俺も最後まで読んでない……」
「なんだそれ」
「みんな面白いところだけ読んで終わりなパターンが多いんだ」
「そんなに長い物語なのか……」
「でも、その話に登場する男たちは、本当に英雄揃いなんだ。男過ぎて憧れるんだよ」
「その話のタイトルは?」
「水滸伝っていう、超長編物語だ」
「スイコデン?」
スカル姉さんは首を傾げながら言う。
「聞いたこともないタイトルだな……」
やっぱりこの異世界には無い物語なのかな?
椅子から立ち上がったスカル姉さんが言う。
「あんたは、あいつらにチャンスを与えたいんだな」
「そんな感じかね」
「それと、お前がやろうとしていることと、スイコデンって話には共通点がまだあるぞ」
「共通点? なにさ?」
スカル姉さんは部屋の隅に敷かれた転送絨毯に歩み寄りながら言った。
「旧魔王城ってね、湖の上に建っているらしいわよ」
「マジか!?」
「あと、これを返しておくわ」
スカル姉さんが俺に向かって小さな物を放り投げた。
それを俺は片手でキャッチする。
「これは?」
指輪だった。
「あんたの心臓に引っ掛かってた指輪だよ。カースアイテムだったから始末に困っていたが、要らないなら自分で捨てな」
スカル姉さんが指輪を俺の掌に落とす。
俺が掌の指輪を眺めると、銅製の古びた指輪だった。
外見からして安物である。
「あんた心臓がどうとかって言ってたじゃんか。なんでそんな物が心臓に引っ掛かるのさ?」
俺は掌の上の指輪を握り締めると微笑んだ。
「まあ、いろいろとあって魔女の嫌がらせだ」
「嫌がらせ?」
「とにかく、これを外してくれてありがとうよ、スカル姉さん」
「あんまり変なものに関わって寿命を削るなよ、アスラン」
「分かってるよ」
「お前は何も分かってない。はぁ~……」
ため息を吐いたスカル姉さんはグラスを置くと椅子から立ち上がる。
「じゃあ、私もソドムタウンに帰るからな。アスラン、無理すんなよ。あと、いつでも帰ってこれるんだから、ちょくちょく帰ってきな」
「へいへい……。まるでオカンだな」
そしてスカル姉さんは、髑髏のマスクの下でウィンクをすると、転送絨毯でソドムタウンに帰って言った。
「旧魔王城って、梁山泊なのか……」
なんか俺の中でやる気が湧いてきた。
これはナイスなステージがゲット出来そうだぜ。
それに魔女の指輪を心臓から外せたぜ。
これは難関だと思っていたが、第一段階を難なくクリア出来た。
あとはどこかに捨てるのみだ。
「さて、俺も旅立とうかな~」
そう言い俺が転送絨毯を畳もうとすると、ユキちゃんが部屋に入って来た。
「よう、ユキちゃん」
「ごめん。盗み聞きする気はなかったんだけど、ほら、扉が壊れてるから……」
「別に構わんよ」
なんか今日のユキちゃんは、しおらしいな?
ガチムチ特有の暑苦しさが少ない。
「もう旅立つのか?」
「うん、俺にはビックな目的があるからな」
「その魔王城に秘密基地を、町を作るって話か?」
「ああ、そうだ。知ってるのか?」
「アスランが動けない時に、スカル姉さんやスバルちゃんからも話は聞いていたんだ。凄いな、町を作ろうなんて……」
「そうかな?」
「私もその町に住んでもいいか?」
「なんで?」
「そこに私が宿屋を作ってやるよ!!」
「この店はどうするんだ?」
「ママに任せる。もうママとは話してあるから!!」
「ハウリングママ一人で店をやれるのか?」
「私の代わりに人を雇うってさ!」
あー、そう言う手もあるか……。
「でも、まだまだ先の話だぞ。だって旧魔王城まで旅をしないとならないし、たぶん旧魔王城の大掃除もしないとならないしな」
「大掃除?」
「おそらく旧魔王城には何かモンスターぐらい巣くってるだろう。その退治をして、周囲の安全を確保しないと人すら呼べないだろうさ」
「じゃあ、ソドムタウンで待ってるわ!!」
「な、なんでぇ……」
「だから私が魔王城に宿屋をオープンさせるからよ!!」
おいおいおい、やっかいなのに絡まれたな……。
まあ、いいか……。
旧魔王城を無事に占拠できたら、酒場はストレス発散の場所として必要だしな。
それを運営できる人材も必要か……。
「でも、俺は約束なんて出来ないからな」
「大丈夫だ! 貯えはあるからさ!!」
そう言うとユキちゃんは廊下から二つの大きな鞄を取って来ると転送絨毯に乗った。
既に荷造り済みかよ!!
マジですか、こいつ……。
そして真っ直ぐ俺を見るとユキちゃんは言った。
「じゃあ、ソドムタウンで待ってるからな!!」
「う、うん……」
「チ◯コ!!」
その言葉を最後にユキちゃんは消え去った。
「本当に行っちゃったよ……」
俺は一人でサザータイムスの町に残された。
じゃあ、次の目的地に旅立とうかな……。
「その前に」
俺は片手にある指輪を見詰めながら意地悪く微笑んでいた。
「魔女の野郎、覚えてろ」
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