8-22【ガチムチ娘】

多くの町のほとんどが入ってすぐのメインストリートは広くて人々だけでなく、馬や馬車が目立って行き来している。


だからメインストリートは人の往来が多くて並ぶ店も大きいか老舗の店舗が多いのだ。


それだけ繁盛するってわけだろう。


ここサザータイムズの町も、それは例外ではない。


普段の俺は町に入る前にアキレスから下りてゲートをくぐるのだが、今日は違っていた。


アキレスでくぐれば目立つのもあるのだが、馬や荷物があると通行料が増えるのだ。


それをケチるために、普段の俺はアキレスを仕舞ってからゲートを潜るのである。


しかし、今日は違った。


今日は目立ちたかったのだ。


何せやっと手に入れたパンダの剥製があるのだから。


これを皆に見せびらかしたかったのである。


しかもパンダの剥製は、ハート型のアイパッチに、棘付きショルダーアーマー&赤マント付きと、世紀末風のバーションアップまでしているのだから、これを皆に披露しないわけにはいかないだろう。


俺はパンダの剥製とアキレスにニケツしながらサザータイムズのメインストリートを優々堂々と闊歩していた。


まだ時間は昼前だ。


メインストリートには人が多い。


往来する人々が俺とパンダを見てやがるぜ!!


なんかとても優越感に浸れますがな!!


なんか気分がとてもいいわん!!


第一目標だったパンダの剥製を手に入れたのだ。


このぐらいのことはいいよね!?


いいさね!!


いいともさ!!


ご褒美だよね!!


わはーー!!


そんな感じでウキウキ気分の俺は、完熟フレッシュ亭にやって来た。


アキレスをトロフィーに戻して異次元宝物庫に仕舞うとパンダの剥製と手を繋いで酒場へ入る。


「うぃーーす、デカブツ女!」


店に入るなり俺はミニスカメイド服で酒を運んでいたガチムチ娘のユキちゃんに挨拶を飛ばした。


どうやら今日はメイド服の日らしい。


店内にはミニスカメイド服のお客が数人居たが、視線はすべて俺とパンダの剥製に集まった。


「あら、アスランおかえり、なにそのパンダ?」


「かっこいいだろ~」


「んー、かっこいいのか?」


「えっ、かっこよくない……?」


「すまん、男の子のセンスは良くわからんな」


ミニスカメイド服のガチムチ娘は柔らかく微笑むと残酷な感想を述べた。


あー、女の子には、このセンスが分からないんだろうな~。


世紀末パンダだよ?


普通は心踊るだろう。


するとカウンターの中から頭だけを見せていたハウリングママが大きな声で俺に行った。


「アスラ~ン、店内に堂々とダッチワイフを持ち込まないでくれないか。うちはそういう風俗店じゃあないんだからさ!!」


「ダッチワイフじゃあねえよ、ちびっ子ババァ!!」


ユキちゃんがパンダの剥製を興味深く見回しながら言う。


「へえ~、パンダのダッチワイフなんて初めて見たぞ」


「ダッチワイフじゃあねってばよ!!」


ユキちゃんはパンダの剥製が背負っている赤マントを捲り上げながら言う。


「お尻に穴でもあるのか?」


「だからダッチワイフじゃあねってば!!」


「あれ、この子……」


「どうしたユキちゃん……?」


「チ◯コ付いてるよ」


「雄なのか!?」


俺はあまりにもパンダの剥製の評判が悪かったので異次元宝物庫に仕舞うと、店の奥の着替え室に移動した。


そこで用意してあったミニスカメイド服に着替えるとホールに戻る。


そしてパンダの剥製が座っているカウンター席の横に座るとハウリングママに昼飯を注文した。


「で、あんたさ、ミノタウロスの首はどうなったのさ」


まだ店が暇なのか、暇を持て余したユキちゃんが、俺の隣に座って訊いて来た。


俺は詰まらなそうに答える。


「ミノタウロスは倒したけど、首は取れなかったぜ……」


「本当に倒したのか?」


「ミノタウロスがさ、依頼人の兄嫁だったんだよ」


「いや、言ってる意味が分からんな?」


「だろうな……」


説明していて理解して貰えるとは俺も思っていなかったもんな。


まあ、詳しく説明してやるか……。


俺は昼飯を食いながら、今回の事件に付いて詳しく説明してやった。


ユキちゃんがどれだけ理解してくれたかは分からなかったが、彼女が楽しそうに俺の話を聞いてくれていたのは分かった。


これでガチムチ娘じゃあなければ口説いてたんだけどな~。


何せ顔だけはタイプだもの。


俺はどちらかって言ったら、スレンダーで巨乳な娘さんがタイプなんだよね~。


性格は穏やかで優しくってさ、礼儀正しくて家庭的な女性だよ。


結婚するなら、やっぱりそう言う女の子とだよね~。


そして毎晩イチャラブぶぷブブっつううぶぶぶぶうううう!!!


ひーー、心臓がぁぁあああ!!!


やーべーー!!!


エロイこと考えちゃったァァ

あああ!!!


急に苦しみ出した俺を見てユキちゃんが心配して訊いて来る


「ど、どうしたアスラン……?」


「い、いや、ちょっと持病の癪が……」


「少し二階の部屋で休むか?」


「わおっ!!」


俺はお姫様抱っこでユキちゃんに軽々と抱えられると二階に運ばれた。


流石は長身ガチムチパワフル娘だな。


俺を軽々と持ち上げやがるわ……。


そして、俺たちの後ろをパンダの剥製が黙ってついてくる。


ユキちゃんは俺を空き部屋のベッドに下ろすと扉を静かに閉めて、カチャリと鍵を掛けた。


パンダの剥製は部屋の隅に置かれた椅子に腰掛ける。


そして、無言のまま俺たちを眺めてやがる。


それにしても、今さ、カチャリって聴こえたよね?


「なんで、鍵を閉めますか?」


ユキちゃんが振り返りながら言う。


その顔は照れていて、頬なんてピンク色に染め上げていた。


か、可愛いじゃあねえか……。


「やっと二人っきりになったな……」


え?


どう言うこと??


俺が戸惑っているとユキちゃんがゆっくりとベッドに近付いて来た。


「ママが最近さ、五月蝿いんだよ……」


ハウリングママは確かに声が大きくて五月蝿いわな。


「最近な、早く婿を取れ、婿を取れってばかりでな」


言いながらユキちゃんは俺が横になってるベッドに腰を下ろした。


すると筋肉に引き締まったユキちゃんの体重にベッドが軋む。


「それでな、アスランならどうだろうってママに訊いてみたんだ……」


どうだろうって、なんだよ!?


「そしたらママもさ、あいつは変態だから私に丁度いいんじゃあないかって言うんだ……」


「基準がそこ……」


ユキちゃんは視線をそらしながら自分が着ているブラウスのボタンを外し出した。


いやいや、待ちやがれ!!


俺の童貞は国宝級なんだぞ!!


そりゃあ顔は可愛いが、お前のようなガチムチ娘が食べていいもんじゃあないんだ!!


俺は瞬時に立ち上がるとベッドの上でユキちゃんの首に両腕で抱き付いた。


「アスラン!?」


「落としてやる!!」


俺は必殺技のスリーパーホールドでユキちゃんの頸動脈を締め上げた。


俺が両腕で力むとユキちゃんの顔がドンドンと赤くなって行く。


「うぐぅぐぅくぅ……」


ユキちゃんが両手で俺の腕を引き剥がそうと力を込めた。


だが、ユキちゃんの怪力を持っても俺のスリーパーホールドからは脱出できない。


「甘いぜ!!」


するとユキちゃんが立ち上がった。


俺もベッドの上で立つ。


「ふっ!!」


一息力むとユキちゃんが俺をせおったまま前に向かって走った。


そして扉の前で深く頭を下げて、勢い良くお辞儀をする。


すると俺の体が背負い投げをされたかのように凄い速さで前に飛ばされた。


「うわぁ!!」


俺は背中で扉を突き破り廊下に飛び出て転がった。


「いたたたた………」


俺が手摺に持たれながら立ち上がると、下のホールからハウリングママや数人のお客が驚きの表情で見上げていた。


そりゃあ驚くよな……。


そして、部屋から出て来たユキちゃんの前蹴りが俺の土手っ腹に打ち込まれた。


「おらっ!!」


「げぷっ!!」


すると俺は手摺をぶち破って宙を舞う。


なんでこんなことされるの、俺!?


二階から飛び出した俺は、疑問を抱きながら一階のフロワーに頭から落ちた。


ゴンって鼓膜に響く。


後頭部を強打した俺は、不覚にも意識を失った。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る