6-12【エクスフロイダー・プロミス】

今俺はワイズマンの屋敷に居た。


二階の応接間でマヌカハニーさんと一緒に、ワイズマンが着替えて来るのを待っている最中だった。


「遅いな、あの変態オヤジは──」


俺はソファーセットの向かいに座るマヌカハニーさんに訊いてみた。


「なに、最近はいつもああなの?」


「はい、ワイズマン様は日々病んでおりますわ」


「まあ、ありゃあ病気かもね~」


マヌカハニーさんは暗く俯いた。


「マヌカハニーさんは、ああ言うの嫌いなの?」


「まあ、私は変態ではありませんから……」


「ところでさ。さっき結婚が、なんたらかんたらって言ってたけど、もしかしてワイズマンと結婚する予定があるの?」


「はい、本来なら今月の予定でしたが、いろいろありまして延期となりました」


うそぉ~~~ん。


普通さ、あのモッチリワイズマンと誰が結婚するんだよ。


やっぱりこの人も変態なんじゃあないのか?


デブ専のドSかよ。


変態と結婚できるんだもの、やっぱり変態だよね。


「私はいつでも良かったのですが、延長するとは思ってもいませんでした……」


あー、やっぱり相手はマヌカハニーさんかよ。


なんであんなモッチリ変態と結婚する気になったのだろうか。


この人なら別の相手が幾らでも居そうなんだけれどな。


胸だってデカイんだしさ。


まさに世界の七不思議に数えられそうだぞ。


もう、世も末だわ……。


「じゃあ、一つ訊いていいですか?」


「何かしら?」


「あいつの魅力は何さ? どうして結婚を決心できたの?」


「すべては財力ですかね!」


「財力がチャームポイントですか~……」


や、やっぱり……。


この人ならワイズマンと上手くやってけそうだわ。


もしくは新婚早々に、旦那を完璧な計画で殺害するかもね。


まあ、結婚したら幸せを祈ってあげますともさ。


そんなことを俺が考えていると、ワイズマンが部屋に入って来た。


ちゃんと服を着ているが顔は真っ赤に腫れている。


かなり八股ウイップでぶん殴られてたもんな。


あれは未来の夫に対しての仕打ちじゃあないよね。


──面白かったけれどさ。


そして、ワイズマンは何気無い仕草のままにマヌカハニーさんの隣に座った。


「やあ、すまなかったね、アスランくん。まさかキミが来ているとは思わなくて恥ずかしいところを見せてしまったよ。はっはっはっ」


何が、はっはっはっだよ。


笑いながら余裕こいて見せても遅いわ。


もう完全に無様なところを御披露しましたよ、あんたはさ。


「で、今日はマジックアイテムの売買かね?」


「ああ、そうだ」


俺は異次元宝物庫からマジックアイテムを取り出すとテーブルの上に並べた。


レザーアーマー+1、スケールメイル+1、強固な皿、銀のスプーン、燭台。


まあ、今回はこんな物かな。


ワイズマンもマヌカハニーさんも、やはり異次元宝物庫には驚いているようだった。


マヌカハニーさんは見るのが二回目だが、ワイズマンは初見だから目を剥いている。


ってかさ、もう隠すのが面倒臭くなってきたのよ。


身近で信用できる人物だけには見せてもいいかなって思い始めたのだ。


そして、仰天しているワイズマンが質問してきた。


「今のは、なんだね……?」


「異次元宝物庫だ」


「異次元宝物庫……とわ?」


「とある者から、かなり前に譲り受けた物だよ。まあ、マジックアイテムだな」


そう言いながら俺は指に嵌めたドラゴンルビーの指輪をチラリと見せた。


ワイズマンは子供のように目を輝かせながら懇願してくる。


「それが欲しいな、是非に売ってくれ!」


俺は即答であっさりと断った。


「無理だよ」


「お金ならなんぼでも払うぞ!」


「これは俺専用に調整されているから、俺を殺しても奪えないマジックアイテムだ。だから俺以外が仕様できないんだわ」


まあ、ちょっぴり嘘も混ぜました。


てへぺろ。


「欲しいなら、その者から作ってもらいな」


「その者とは誰ですか?」


「グラブルって言うドラゴンだよ」


「ドラゴン!?」


ワイズマンは浮いていた腰をソファーに戻すと顔を青くさせた。


マジックアイテムを作ったのがドラゴンと知れば更に驚いても無理はないだろう。


でも、そこまで喋ってよかったのかな?


まあ、隠すことはないだろう。


俺もヤツがどこの山に住んでいるかも分からないし、冒険者でもないワイズマンがグラブルに出会える機会もなかろうからさ。


「なるほどね。となるとだ。私がそのマジックアイテムを入手できる確率は低いと言うことだね」


「うん、途方もなく低いだろうな」


流石はがめつい大商人だ。


分かってるじゃあねえか。


「まあ、これも奇跡の冒険者が得た報酬だからな。凄腕冒険者の特権だよ」


「なるほどね……」


言いながらワイズマンは、テーブルの上から銀のスプーンを摘まみ取り、自分の眼前に翳した。


「じゃあ、現実的な話に戻しましょう。譲り受けられるマジックアイテムの話をしましょうかね~」


あっさり諦めるんだな。


まあ、引き際も心得ているってことか──。


そして俺は銀のスプーンを眺めるワイズマンに向かって言った。


「その銀のスプーンは、ワイズマンからマヌカハニーさんに買ってあげるといいぞ」


「何故かね?」


「あんたら近々に結婚するんだろ?」


「おやおや、もう聞いたかね。アスラン君は耳が早いねぇ」


「ワイズマン。いい歳こいて、こんな若くて豊満な嫁さんを貰うなんて犯罪だぞ。年の差が広すぎて逮捕されるんじゃね。ロリコン罪だわ」


俺は何気無く言ったつもりだったが、ワイズマンは額を押さえながら俯いた。


隣に座るマヌカハニーさんは横を向いてクスリと笑っている。


どうして?


マヌカハニーさんが俺の言葉を軽く笑いながら否定する。


「アスラン様。ワイズマン様は、私と同い年ですよ」


「えっ? 言ってる意味が分からないですが?」


「だからワイズマン様は、まだ23歳ですよ」


「ええっ!!」


マジですか!?


俺はてっきりワイズマンは完璧な中年エロ親父かと思っていたぞ。


あれだけオープンな変態なんだし、モッチリしたお腹と、タプタプな二重顎なんだから、50歳ぐらいだと思ってたぜ。


それが23歳だと!?


マジで信じられないわ。


俺は真剣な表情でマヌカハニーさんに言う。


「マヌカハニーさん、騙されてますよ。このモッチリワイズマンは、絶対に50歳過ぎですぞ!!」


絶対に年齢を偽造してるに決まってる。


「いや、私は同い年だから、子供のころからワイズマン様を知ってましたから間違いないですわ。幼少時代は一緒の保育園でしたし、学校も同じ学年でしたわよ」


「マジ、幼馴染み!?」


まさかのレジェンダリー・オブ・幼馴染みですか!?


「馴染みってわけでも友達ってわけでもないですが、幼少から知ってましたからね。何せワイズマン様は大商人家の御曹司でしたから。かたや私は貧乏冒険者の娘ですよ」


「な、なるほど……」


なんか幼馴染みとか御曹司とか言う幸せワードを聞いたら怒りが沸いて来たな。


もしも時間が戻せるなら、先程のSMシーンに戻って、もっと過激に豪快に残酷に絶頂にワイズマンを痛ぶってやるのにさ!!


まあ、時間は戻らないから話を進めよう。


「ならば、そのスプーンは尚更マヌカハニーさんにプレゼントしてやれ」


俺の言葉を聞いてワイズマンが隣のマヌカハニーさんの顔を見た。


マヌカハニーさんは、ただ微笑んでいる。


そしてワイズマンが俺に問う。


「何故かね?」


「そのスプーンは一日三回だけ蜂蜜を沸き出させるんだ。マヌカハニーさんは甘い物が好きみたいだからね」


「なるほどね~。分かった、これはキミからの結婚祝いとして貰って置くよ」


「いやいやいや、勝手に貰わないで!!」


「えっ、プレゼントじゃあないのか?」


「俺から買ってマヌカハニーさんにお前がプレゼントしろって言ってるんだよ!!」


「ああ、そう言うことか」


唖然とする俺の他に、マヌカハニーさんも苦笑っていた。


そして、なんやかんやあってマジックアイテムの販売はすべて終わる。


マジックアイテムは全部で8000Gになった。


ホクホクでありますわ。


「そう言えばワイズマンの母ちゃんに出会ったぞ」


「ああ、あの妖怪婆に会ったのか……」


「なんで富豪の母ちゃんが、あんな寂れた店を営んでいるんだ?」


「うちの父と結婚する前から営んでいた店でね。今でも趣味でやっているんだよ」


ワイズマンは溜め息の後に俺に訊く。


「あの性悪婆さんは、どんな容姿だった?」


「皺だらけの老婆だったぞ」


「それは幻術だ」


「幻術……。ミラージュですか?」


「そうだ。あの婆さんは今んところ50歳前で豊満なモテモテボディーだが、店に出る時は姿を幻術で変えて嘘ばかり付いて客を騙して遊んでいるんだよ」


「えっ、豊満なの? モテモテボディーなの?」


「かなり美容に気を使ってやがるぞ。マジックアイテムで若さと美貌を強引に保っていやがるんだ。見た目的には30歳そこそこのマダムに見えるはずだ」


「マジで……」


うむ、ちょっと本当の姿を見てみたいな。


あっ、胸が痛い……。


要らん想像をしてもうた……。


我慢だ!


無を感じ取れ!


そうだ、話題を変えよう。


「話は変わるが、ワイズマン」


「何かね?」


「いつの時代の冒険者か知らないが、探してもらいたい人物がいるのだが」


「人探しもキミたち冒険者の仕事の一つだろ?」


「人探しは俺の専門外だ。俺は探検家的な冒険者だからな」


「ならば、探す人物次第だが、難しい人物なら有料になるぞい?」


「ああ、構わない」


俺は異次元宝物庫から羊皮紙を取り出した。


「エクスフロイダー・プロミスって言う冒険者の親族を探してもらいたいんだ。クラスは魔法使いだった」


俺の言葉を聞いてワイズマンとマヌカハニーさんの表情が固まった。


あれ、なんだろう?


「どうかしたか?」


ワイズマンが答えた。


「その人物がどうしたんだね?」


「閉鎖ダンジョン内で戦って倒したんだがな」


「倒した……」


「ああ、アンデッドに変わって徘徊していた。ほら、閉鎖ダンジョン内で死ぬとダンジョンに呑み込まれてモンスター化するんだろ」


「ああ、そうだが……」


そこでマヌカハニーさんが口を挟んで来た。


なんだか眼差しが真剣である。


「その魔法使いが、どうかしましたか?」


俺はマヌカハニーさんの気迫に押されながら答えた。


「いやね、そいつの遺言を見付けたから、遺族がまだ居るのなら届けようかなって思ってさ……」


ワイズマンが述べる。


「エクスフロイダー・プロミスと言う冒険者は、15年前に閉鎖ダンジョンから帰って来なかった方ですよ」


「15年前か~。ちょっと古いな。遺族は見付かるかな~」


自分で述べてから思う。


15年は長いよね。


遺族を見つけ出して遺言を届けるのは難しいかも知れないな。


ワイズマンが言う。


「エクスフロイダー・プロミスさんの本名は、マヌカランドと申します……」


えっ?


マヌカランド?


「それって、もしかして……」


マヌカハニーさんが暗い表情で答えた。


「15年前に閉鎖ダンジョンに挑んで帰って来なかった、私の父です……」


やっぱりー!!


「私も少しは魔法が使えますが、弟のビーはもう少し使えます。そして弟のビーは父に憧れて冒険者を目指したのです……」


俺は羊皮紙をマヌカハニーさんのほうに差し出した。


それは閉鎖ダンジョンで見付けた壁のメッセージをメモった物である。


それとは別に、骨粉を入れた壺も異次元宝物庫から出して差し渡す。


「これが、お父さんの遺骨と遺言です……」


なんだろう、意外だったわ──。


こんなに早く、遺族に渡せるなんてさ──。


バイバイ、爆破を究めし魔法使いさんよ。



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