5-22【残りの経験値】

俺は裏庭の詰所に帰ってから自室でステータス画面を開いて睨み付けていた。


現在はレベル18である。


なんか長々と冒険を続けているような気がするが、まだレベル18なのだ。


レベル20になればボーナスタイムになる。


ボーナスタイムは嬉しいことだが、糞女神と会うのがムカつく話であった。


正直なところ、あの糞女神とは二度と顔を合わせたくない。


生理的に無理ですわ~。


まあ、今はそんなことを悩んでステータス画面を睨んでいるわけではないのだ。


問題は、この経験値である。


その数値とは──。


【14999経験値】


表示されている数値はこれだ。


これって、もしかして、レベルアップ寸前なのではないだろうか?


あと経験1点でレベルアップじゃあないのだろうか?


何せゴーレムやレイスを十体も倒してレベルアップしなかったんだもの。


そう考えた俺は、じっくりまじまじとステータス画面を睨み付けていたのだ。


あと1点でレベルアップだとするならば、閉鎖ダンジョンに再突入する前にレベルアップしておいたほうが良いのではないだろうか?


新スキルを確認できれば、新たな作戦も組みやすい。


それとも、ダンジョンに入ってスケルトンか何かを一体でも倒せば直ぐにレベルアップするから、あとはゆっくり進みながら考えればいいのではないだろうか?


う~~ん、悩ましい~~。


ぐぅ~~~。


あっ、腹が鳴ったわ……。


まあ、そろそろ昼飯だ。


飯を食べながら考えるかな。


そう考えた俺は下の階に降りて行った。


下の階の厨房では、まだピイターさんが料理中である。


厨房にはコーンスープの良い香りが漂っていたが、昼飯にはまだ少し早いようだ。


なので俺はパーカーさんとスパイダーさんの姿を探した。


詰所内には居ないようだ。


すると詰所の外から物音が聞こえてきた。


外に出て見ると二人の姿を見付ける。


二人は裏庭の芝生の上で木刀を持って青空稽古に励んで居た。


へぇ~~、あのぐうたら兵士でも稽古ってするんだ~。


それよりも……。


う~~ん、経験値1点ぐらいなら、この二人をぶっ倒せば獲得できないかな?


あれでも城の番兵だ。


ザコでもモブでも経験値の1点ぐらいにはなるだろう。


なるよね?


なりますよね?


俺は出入り口の横に詰まれた荷物の中から手頃な棒を取り出すと二人に迫る。


気配と足音を消して背後から忍び寄った。


「よ~~う、アスランくんじゃあないっスか~。一緒に稽古でもするっスか?」


俺の接近に気が付いたスパイダーさんが声を掛けてきた。


「ちっ、気付かれたか……」


俺は笑顔のまま近付くと、持っていた棒を振りかぶる。


「えっ?」


「おらっーー!!」


「あぶねっス!!」


「ちっ、躱されたか」


スパイダーさんぐらいなら不意を付けば簡単に倒せると思ったんだがな。


「どうしたんスか、アスランくん。急に打ち込んできて!?」


「ど、どうしたんだ、本当に!?」


突然殴りかかられたスパイダーさんもパーカーさんも木刀を身構えたまま俺に声を掛ける。


三人が向かい合い木刀で牽制を始めたのだ。


状況は三竦みである。


さて、どう答えようか?


まさか経験値1点のために襲いかかったなんて言えないよな。


ここは嘘を付くしかないか?


「す、すまない、二人とも。また悪霊に取り憑かれた。きっと閉鎖ダンジョンから出て来た悪霊だよ!」


「マジっスか、そりゃあ不味くないっスか!」


「それはヤバイな。よし、スパイダー、ここは任せた。俺は司祭様から聖水を貰ってくるからな!」


そう告げるとパーカーさんは踵を返して走り出す。


「えっ、マジっスか!!」


慌てるはスパイダーさん一人だけ。


流石はパーカーさんだな。


空気が読めている。


一目散に逃げ出したぞ。


あとはこのチャラいボケ野郎を打ちのめせばOKだ。


それで経験値1点は獲得できるだろう。


俺は棒を構えてジリジリと間合いをつめる。


隙のない本気の構えからは殺気が淀み出ていた。


殺す気満々である。


それをスパイダーさんも察したのか本気で構える。


二人の殺気と殺気が激しくぶつかり合い火花を散らす。


「すまない、死んでくれ!」


「何故っスか!?」


するとスパイダーさんは右に右にと回り俺との距離を保った。


なんだろう?


隙が無い……。


この男は、思ったより出来るのか?


足の運びかたと言いますか、間合いの築きかたが絶妙だぞ。


距離を詰めたくても詰められない。


微妙な距離感を保ちやがる。


なんともやりづらい。


それに良~~く見てみれば木刀を構えた姿勢に力強さを感じられた。


頭のてっぺんから踵の裏側までに、一本太い芯が通っている感じに伺える。


その佇まいに武が見て取れた。


もしかして、こいつ、出来る!!!


ま、まさかな……。


そんなわけがないだろう……。


こいつはチャラいだけのボケ野郎だぞ。


貴族のボンボンで三男の穀潰しだぞ。


こんな野郎が強いわけがない!?


き、気のせいだ!!


ならば、打ち込め、俺!!


何故に打ち込まない!?


何をビビってやがる!!


俺はこいつを警戒しているのか!?


それに何故にこいつは黙った!?


パーカーさんが姿を消してから、あのチャラい口が閉じたじゃあないか。


表情も真剣だぞ。


元々は残念なチャラいだけのイケメン兄ちゃんが、今は本物のイケメン風じゃあないか!?


ま、不味い……。


俺は斬られるのか……。


えっ、斬られる?


斬られるだと!?


今、俺は、斬られると思ったのか!?


持っている獲物は木の棒だぞ。


ただの木刀だぞ!


ただの木刀を持って向かい合っているだけなのに、俺はこいつに斬られるって錯覚したのか!!


俺がこいつに、斬られると思ったのか!?


まさか、そんな馬鹿な!?


だって俺のほうが強いはずだ!?


こんな城の中でも辺鄙な詰所に閉じ込められているチャラいだけの男に俺が斬られるだって!?


そんな馬鹿なことがあるわけないだろう。


俺は今までいろんなピンチを乗り越えてきた冒険者だぞ。


ソロの勇者だぞ!!


何より主人公だぞ!!


そんな俺がモブの雑魚キャラに斬られるわけがない。


ならば、斬る!!


俺から踏み込んで斬るのみだ!!


仕掛けてやる!!


仕掛けてやるぞ!!


仕掛けてやるってばよ!!


っ…………!!


な、なんでだ!?


なんで俺から仕掛けない!?


なんで仕掛けられない!?


何故に踏み込めない!?


俺はこいつを恐れているのか!?


怖いのか!?


ビビっているのか!?


そんなわけがなかろう!?


斬りかかれるはずだ!?


行けるはずだ!?


な、なのに……。


その時である。


パーカーさんが帰ってきた。


「おーーい、二人とも~。聖水をもらってきたぞ~」


その声にスパイダーさんが振り返った。


「マジっスか、パーカーさん。早く~、早く~」


あ、隙だらけだ。


「めんーーーん」


「げふっ!!」


俺が後ろを向いていたスパイダーさんに面を打ち込むと容易くヒットした。


白目を向いたスパイダーさんが倒れ込む。


【おめでとうございます。レベル19になりました!】


おっ、レベルアップもしたぜ、ラッキー。


駆け寄って来たパーカーさんが俺に聖水を差し出した。


「飲んどくか?」


「パーカーさん、有り難う」


「いやいや、どういたしまして」


俺は聖水を貰うとガブ飲みした。


「ふう~、落ち着いたわ」


流石は聖水だな。


喉の乾きも一発で吹き飛んだぜ。


「おーい、皆~。昼食が出来たよ~」


「「は~い」」


俺たちはフライパンを片手に持ったピイターさんに呼ばれて昼食を取りに行く。


すっかり気絶しているスパイダーさんのことを忘れて──。



【つづく】



ちなみにスパイダーさんを倒して得た経験値は1点だけだった。


所詮はザコである。


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