5-13【プリンセス•ポラリス】

俺はパーカーさんと一緒にスパイダーさんを、城内にある礼拝所に連れて行った。


スパイダーさんは椅子の上に縛られて、決して脱出出来ないほど厳重にロープでグルグル巻きにされている。


口には猿轡をされ、目隠しまでされていた。


まるでマフィアに拉致されてきた人質のようである。


万が一にも逃げられて俺やパーカーさんに伝染屁を移されたらたまらんからな。


故にこの人の自由は許されないのである。


このぐらいの拘束は当然であろう。


まあ、そんなこんなで俺とパーカーさんとでスパイダーさんを担いで運んでいるのだ。


勿論ながらスパイダーさんのお尻からは屁が漏れている。


しかも、プリップリッと屁が五月蝿い。


そして、呪われたスパイダーさんを椅子ごと祭壇の前に置くと俺とパーカーさんは司祭さまを待った。


「へぇ~、ここが教会かぁ~。豪華だな~」


よくよく考えたら、この世界にやって来て一度も教会とか礼拝所に訪れたことがなかったな。


まあ、信者でもないしね。


そもそも俺は神様を信じていない。


クリスマスや正月は祝うが、それとこれとは別の話である。


更に言うなら女神なんて絶対に信仰したくないのだ。


それだけは絶対にゴメンである。


まあ、それは置いといて──。


この教会は城内にあるんだから、相当お金が掛かってるんだろうけれど、それにしても豪華だわ。


俺が豪華な教会内をキョロキョロ見回している横で、スパイダーさんは項垂れながらプリップリッとしていた。


なんだか暴れる気力すら失せたようだ。


するとパーカーさんがドヤ顔で話し掛けて来る。


「どうだ、豪華だろ。この礼拝所は、この城の中でもとびっきり資金が費やされた施設なんだぜ」


「へぇ~。確かに豪華ですな」


「俺の家と、スパイダーやピイターの家などが数年前に資金を出して改装されたばかりの礼拝所なんだぜ」


「へぇ~、そりゃあ凄いや。だから役立たずの次男でも、城内に囲ってもらえてるんだね」


「正直、その通りだ」


そして、しばらくすると司祭さまがやって来た。


モッチリと腹を出した髭面の老人で、人は良さそうな感じである。


その後ろに、きらびやかなドレスを纏ったお姫さま風の女性と数人のメイドを連れていた。


なんだろう?


屁が止まらない野郎を、面白半分に見に来た野次馬なのか?


それにしても美人揃いだな。


メイドたちも美人ばかりで可愛らしいが、きらびやかに着飾ってるお姫さま風の女の子も美人だった。


髪型が縦ロールだよ。


リアルで縦ロールとかを初めて見たぜ。


宝塚やベルサイユ以外にも縦ロールって生息してるんだな。


それにしてもこの美人は、可愛い度が三割で、美人度が七割ぐらいの配分ですな。


年頃は俺と代わらない。


ちょっと強きなところがチャーミングですわ。


そんなことを俺が考えていると、髭面司教さまが慌てながら話し掛けて来る。


「屁の呪いだとか? それはそれは大変ですな!?」


俺は受け応えをパーカーさんに任せる。


俺みたいな無礼者が出て行って、話が揉めたら詰まらなかろう。


何よりだ、さっさと話を終わらせたいのだ。


「はい、司祭さま。このスパイダーが屁の呪いに落ちました!」


「屁の呪いとは、おそろしや!」


皆が耳をすませば、スパイダーさんからプリップリップリッと、はしたない音楽が聴こえて来る。


やべぇ~な。笑っちまいそうだわ!


真面目に屁の屁のって五月蝿いよ!


ほら、後ろの女性人たちも笑いを耐えているのがやっとじゃあないか。


お姫さまなんて扇子で口元を隠しているけれど、頬を膨らまして笑いを耐えているよ。


肩が小刻みに震えているもの。


パーカーさんが真顔で問う。


「司祭さま、どうやったらこの屁の呪いは解けるのでしょうか!?」


「聖水ですな!」


「聖水、ですか?」


「そう、聖水です!!」


そう述べると司祭さまは袖口から瓶に詰まった聖水を取り出した。


「これを頭から思いっきりかけてみなされ」


「はい、分かりました」


パーカーさんが司祭さまから聖水の入った瓶を受け取る。


瓶の口はコルク栓で塞がれていた。


「あ、あれ~……」


パーカーさんが瓶のコルク栓を引き抜こうとしていたが、なかなか栓は引き抜けない。


「か、固いな、この栓……」


「え、そんなに固いのですか?」


パーカーさんと司祭さまがあたふたしているので俺が出て行く。


「まったくもう、手際の悪い連中だな。ちょっと貸してみな」


「す、すまない、アスランくん……」


俺はパーカーさんから聖水の瓶を受け取ると、コルク栓を引き抜こうと力を込めた。


よーし、女子たちに俺のかっこいいところを見せちゃうぞぉ~。


ぬぬっ!


あれれ……。


思ったより固いぞ。


もう一度だ!


「おぉぉらあああ!!」


かーてーえーぞー!!


何これめっちゃ固いじゃんか!?


「ぉぉおおおらああ!!」


マジで抜けねえ!?


俺が必死に栓を抜こうと力んでいると、お姫さま風の縦ロール女子が近寄って来る。


「貸してみなされ」


「えっ?」


俺は隙をつかれて瓶をお姫様に奪われる。


そして彼女は軽くコルク栓を引っ張ると、容易く栓を抜いた。


「「「ええっ!」」」


男子三人が顔を青ざめながら驚いていた。


なんだ、このお姫さまはよ!!


怪力お姫さまかよ!!


「だらしない殿方だこと」


お姫さまは冷めた眼差しでそう述べると瓶を俺に手渡す。


そして元の位置に戻って行った。


その表情はドヤ顔そのもので、なんだかスゲームカつく感じでしたわ。


なんだ、この女はよ!


俺はイライラしながら聖水をパーカーさんに渡した。


司祭さまが述べる。


「パーカー殿、それでは聖水を呪われし者にお掛けになってくださいませ」


「は、はい……」


パーカーさんは言われるがままにスパイダーさんの頭に聖水をドボドボっとぶっかけた。


するとスパイダーさんの身体から、ジュワジュワっと白い蒸気が上がり出す。


それと同時にスパイダーさんが酷く苦しみだした。


「ぐぅぁあああ!!」


それを見ていた女子たちから悲鳴が上がる。


「えっ、マジで呪いだったの? 聖水が効いてるのか?」


すると見る見る蒸気が人の形に変わって行く。


そして、その蒸気の人型は、禍々しい怨霊のような姿を形取る。


「マジ者の屁の霊ですか!?」


蒸気の怨霊は苦しみながら叫び出す。


『おのぉ~れぇ~! 屁で祟り殺してやろうと思ったのにぃぃいいい!!』


マジですか!?


面白い爆笑幽霊の登場ですか!!


でも──。


俺は腰の鞘からロングソードを引き抜いた。


アンデッド特効の力が宿るマジックアイテムだ。


「おらっ!!」


俺は問答無用で斬りかかる。


白い蒸気の霊体に鋭い袈裟斬りを放った。


「ウェポンスマッシュ!」


ロングソードの切先が『斬っ!』と風を切る。


『ぎぃぁあああ!!』


おお、効いたぜ!


流石はマジックアイテム+2だな!


攻撃速度の向上&アンデッド特効すげ~。


白い蒸気の霊体は、その一撃で消え失せた。


あっさりと決着が付く。


【おめでとうございます。レベル18になりました!】


おお、ここでレベルアップですか。


ナイスだね。


俺が歓喜していると後ろから声を掛けられる。


「あなた、なかなかやりますわね」


背後から話し掛けて来たのは、お姫さま風の縦ロール女子だった。


俺が踵を返して見ると、ふてぶてしく微笑んでいやがる。


なんだかやっぱりこのお姫さまは気に食わねえな。


とっても態度が大きいぜ。


そしてお姫さまは高飛車な口調で訊いて来た。


「あなたは、どなたてすの?」


「ああ、俺か?」


「彼は冒険者ギルドのアスラン殿です」


俺が名乗ろうとしたらパーカーさんに先を越された。


するとお姫さまの形相が怖いものに変わる。


持っていた扇子をパーカーさんの顔面に投げつけた。


「どぁっ!!」


飛ん出来た扇子を額に食らったパーカーさんが、ドスンっと重々しい音を立てて吹っ飛んだ。


扇子の一撃とは思えない衝撃である。


「えっ、なにこの扇子……」


俺が扇子を拾い上げると重々しい重量が感じられた。


扇子の重さは20キロぐらいはありそうだ。


これは扇子の重さではないだろう。


鉄扇だわ。


完全な武器である。


「有り難うございます、冒険者さま」


お姫さまは俺から高飛車な態度で扇子を受けとると踵を返した。


そのまま出口に歩み出す。


「今日は面白い物を見せてもらいましたわ。また明日にでもお会いしましょう。それでは──」


そう述べるとお姫さまとメイドたちは、さっさと礼拝所を出て行った。


呆然とする男子全員。


俺は司祭さまに訊いてみた。


「あのお姫さまは誰なの?」


「し、知らんのかね!?」


「知らんから訊いてるんだよ」


「この城の第三プリンセスのポラリスさまです」


「プリンセス・ポラリスかぁ……。怖いな……」


このお姫さまとの出会いが、この城での俺の暮らしを大きく変えるのであった。


そして、俺はよろめきながら立ち上がるパーカーさんに声を掛けた。


「大丈夫か、パーカーさん?」


「だ、大丈夫だよ……」


そう言うパーカーさんの顔面には大きな痣が残っている。


それで鉄扇の重さが鑑みれた。


「ア、アスランくん、帰ろうか……」


「そうだね」


俺とパーカーさんが教会を去ろうとすると、司祭さまが声を掛けて来た。


「忘れものですよ……」


司祭さまは、椅子に縛られたままのスパイダーさんを指差している。


そのスパイダーさんは白目を剥いたまま気絶しているようだった。


ああ、完全に忘れていたわ。


でも、もうどうでもいいや。


スパイダーさんなんてよ。


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