3-13【リボンの娘さん】

今回の話は前回の終わりから随分と飛んで始まる───。


「おい、まだ開かないのかよ。馬鹿娘が!?」


俺は暗い部屋の中でイラつきを怒鳴りに変えた。


暗くても一つ一つの姿がハッキリと見えている不思議な部屋だった。


この異空間の部屋に閉じ込められて、もう丸一日が過ぎている。


腹が減った。


とにかく、空腹だ。


喉も随分と乾いている。


それがイラつきの理由であった。


そりゃあ、育ち盛りの若い俺が、三食分何も食べてなければイラつきもするさ。


健康的な成長の妨げになるぞ。


丸々一日間に飯抜き飲み水もなしはキツ過ぎる。


まあ、そんな感じで俺がイラついていると、若い娘さんが特徴的な口調で怒鳴り返してきた。


「ちょっとちょっとちょっと待ってなさい! 何をイラついているのよ!」


「腹が減ってんだよ! この部屋に閉じ込められてから、何も食ってないし、水すら飲んでないんだぞ!」


「何を何を何を言ってるの、あんた。普通は一ヶ月二ヶ月は飲まず食わずでも死にはしないでしょう!」


「死ぬよ! 人間はその程度で死ぬんだよ。そのぐらい脆い生物なんだよ!」


「なによそれ! ただただただ脆弱なだけでしょう。もっともっともっと遺伝子レベルから鍛えなさいよ!」


「無理を言うな!!」


俺は現在のところ、四畳半程度の狭い部屋に、この馬鹿娘と一所に閉じ込められている。


全方向の壁は艶光りする淡い不思議な壁で、普通の次元に存在しない材質で出来ているようだった。


そして、馬鹿娘が睨み付けている扉も薄く光を放つ特殊な扉だった。


魔法感知スキルを使うと、部屋全体が反応を見せる。


この部屋全体が魔法の力を放っているのだ。


そして、眼前の扉を小さな拳で叩きながら馬鹿娘が怒鳴り散らす。


「あーー、もう、もう、もう、なんでこんなに丈夫なプロテクトが掛かっているのよ。前より頑丈になってるじゃないの!」


「なんだよ、デカい口を叩いていたわりには、やっぱり結界を破れないんじゃあないか!」


「うっさいわね。 そもそもそもそもあんたの実力だと、結界を破れる可能性が皆無のくせに、うだうだうだうだと五月蝿いわよ!」


馬鹿娘は拳で光る扉を叩きながら吠えている。


しかし俺はフードを深く被って彼女の姿を見ないように心掛けていた。


何故なら彼女の成りは、チラ見しただけで糞女神の呪いが発動するほどの際どい衣装を着ているからだ。


疎らに赤いリボンを全身に巻いて、それだけで大事なところを隠している。


てか、ほとんど隠れていないぞ!


これは衣装とも呼べないかもしれないな。


破廉恥である。


これで外を歩いていたら痴女と疑われても可笑しくない身形であった。


いや、疑いどころか痴女確定だろう。


そして、彼女の外見の年齢は、俺より2~3歳ぐらい下に見える。


まだ若くて、出るところも出きっていない幼女的なロリ娘が、そんなアホでエロイ衣装を身に付けて俺の前に立って居るのだ。


しかも、四畳半程度の狭い部屋で二人っきりで閉じ込められている。


俺にエロイことをしたら死ぬ呪いが掛かってなかったら、全損事故が間違いなく起きていただろう。


過去の俺なら免停をも覚悟をして事故りに行っていたシュチエーションである。


まあ、俺の中では、犯罪にならないのなら、ロリはロリでありである。


なんにしろだ。


リボンの馬鹿娘は、それだけ魅力的な美少女だった。


しかし、人ではない。


人外だ。


人に近い変化の魔法を施しているが、ところどころ術がお粗末である。


ピンクのロングヘアーの隙間から珊瑚のような角を二本生やし、お尻からは赤い鱗が鮮やかな爬虫類の尻尾を生やしている。


人間と上級爬虫類のハーフのような成りである。


このぐらいならまだ可愛さが勝るだろう。


行ける!


俺なら行けるはずだ!


だが、こいつの性格が気に食わない。


ツンデレだ。


しかも、俺に対してのツンデレではないのが問題だ。


要するに、俺に対してはただのツンなのだ。


恋愛に発展しないツンなんて、ただの苦味でしかない。


どんなに外見が可愛かろうと食えたものではないだろう。


まあ、とにかく、この流れなら、説明がなくても分かるだろうさ。


こいつが、例のレッドドラゴンだ。


レッドドラゴンが人間の娘に化けている姿である。


そのレッドドラゴンと俺は、丸々一日もの間、封印の掛けられた狭い部屋に閉じ込められていた。


何故にこんなことになったかと言えば、少しばかり時間を巻き戻して説明しなくてはならない。


時は昨日の話だ。


俺がワイズマンが購入した中古の洋館に、一人で飛び込んだところまで戻らなければならないだろう。


俺は自分の行動を囮にドラゴンの次の動きを引き出そうと、リビングアーマーたちに勝負を挑んだ。


洋館のエントランスホールには、七体のリビングアーマーたちが待ち受けていた。


俺はバトルアックスを手にして大立ち回りを繰り広げる。


リビングアーマーたちには、心臓の部分に四角い魔法陣が、うっすらと輝いていたので、弱点は見て悟れた。


露骨過ぎる弱点だろう。


少しは隠せよ!


もうちょっと考えろって感じだ。


ここが弱点ですって言ってるようなものだろう。


まあ、それでもなかなか苦戦はしたが、俺が四角い魔法陣部分を破壊すると、リビングアーマーたちは力無く崩れ去っていった。


そして、俺が七体のリビングアーマーすべてを倒した時に、新たなる展開が巻き起こった。


予想通りと言うか、期待通りである。


何が起きたかと言うと、いきなりエントランスホールの天井が破けてリボンの馬鹿娘が可愛らしいお尻を向けて俺の頭に向かって降ってきたのだ。


「あっ! プリティー!!」


っと、叫んだが、それどころではない。


俺は咄嗟に飛んで、落ちてきた彼女と瓦礫から逃れる。


空から半裸の女の子が降って来たからって、受け止めてばかりもいられない。


そんなドラマチックな出会いよりも瓦礫の下敷きになるほうが怖いからだ。


出来れば、そんな詰まらないことで大怪我なんてしたくないからな。


だから俺は彼女と瓦礫を避けたのだ。


それに彼女はちゃんと着地する。


それからリボンの彼女は、自分が落ちてきた天井の穴を見上げながら吠えるように叫んだ。


「お兄様、何を何を何をするの!?」


「変な喋り方だな……」


どうやら俺は、彼女の眼中に入っていない様子だった。


更にリボン姿の娘は天井の穴に向かって叫ぶ。


「なんでお兄様はいつもいつもいつも私を拒むのですか!?」


とりあえず俺の存在を無視しているようなので声を掛けてみた。


「あのー、ちょっといいですか、娘さん?」


「うっさい! うっさい! うっさいわね!」


「牙を剥いて、こわっ!!」


しかられました……。


俺より幼そうな娘に怒鳴られましたわ。


でも、リボンの娘は踵を返すと俺のほうに歩いて来る。


ドシドシと地鳴りを響かせるリボン娘は憤怒に任せた怖い顔をしていた。


そして、俺の襟首を掴むと部屋の中央に引き摺って行く。


「あわっわっわっわぁ!!」


リボンの娘の力は凄かった。


人間の物とは思えない腕力である。


抵抗しても逃れは出来なかった。


「首が千切れる!!」


そして、俺の襟首を掴んだままの彼女は、俺の身体を片手で持ち上げると天井の穴のほうに向けた。


それからまた怒鳴る。


「なんで、お兄様は、こんな軟弱で脆弱で貧弱で虚弱な生命体がいいのですか!」


状況は理解できないが、酷い言いようである。


「この娘っ子、酷い……」


「こんなこんなこんな下等生物よりも、同族のほうがいいに決まっていますわ!」


そこで初めて天井の穴の中から声が返って来た。


姿は見えないが若い青年の声質である。


「アンは分かってないな。儚いから素晴らしいのだよ」


「分かりません! 儚いと言うことは脆いこと、弱い弱い弱いことです!」


「弱いから守りたくなるんじゃあないか」


「理解も同意も共感も出来ませんわ!」


「もう、アンは何を言っても分からないのだね。ならばまた、少しの間でいいから大人しくしていてもらおうか」


その言葉を最後に、天井の穴から四角い光が勢い良く降って来た。


その光に目が眩んだ俺が、次に気がついた時には、この四畳半ぐらいの狭い部屋に閉じ込められていたのである。


このリボンのドラゴン娘と一緒にだ。


こうして俺は監禁されたのである。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る