3-11【ドラゴン】
レッドドラゴンの登場により今までの冒険の中で、現在が最大のピンチだろう。
てか、今までゴブリンとかコボルトとかの定番な雑魚モンスターとしか戦っていなかったのにさ、急にモンスターランクがメチャ上がりすぎじゃあねえ!?
最弱モンスターから最高位モンスターにランクが飛びすぎじゃあないかい!?
間を無視し過ぎじゃないかな?
とにかくさ、急展開過ぎね!?
これは大苦戦しそうだわ……。
でも、最悪はミッション失敗を自分から告げれば良い……。
諦めれば良いのだ……。
相手がドラゴンならギルガメッシュも理解してくれるだろうさね。
だが、何もしない段階で諦めて、白旗を振るのは嫌だな。
やれることは全力でやってから諦めたい。
死なない程度にだ……。
俺は一旦ソドムタウンに帰った。
最初っから作戦を立て直す。
これは本腰を入れて立ち向かわなければならん案件だろう。
だとすれば、まずは情報収集からだな。
情報は大事だ。
情報がすべてを左右しかねない。
この世界においてのドラゴンの存在と、その強さを知りたいのだ。
モンスターの中でも最高位なのは、俺が知ってるドラゴンと同じだろうさ。
知識が高いか低いかでも対策は大きく異なる。
それもこれもまずは情報収集からだぜ。
手っ取り早いところで、元冒険者のスカル姉さんに訊くのが一番早くて賢明だろう。
俺はソドムタウンに到着すると、直ぐにスカル姉さんの診療所に戻った。
もう空は夕暮れである。
スカル姉さんは診療所の机で居眠りをしていた。
コクリコクリと頬杖をついて頭を揺らしている。
「居眠りしてるよ」
しめしめと俺はこっそりと近付いた。
そして、「わっ!」っと大きな声を出して驚かせた。
スカル姉さんが「うひゃ!」っと驚いて椅子から滑り落ちる。
「ま~ぬけ~。大成功~。てってれえー♪」
俺がゲラゲラと笑っているとスカル姉さんが全力で俺を殴り付けて来た。
コークスクリューストレートパンチだ。
「この戯け。何をしやがる!?」
グーで顔面を殴られた。
スカル姉さんの拳が俺の顔面に深く深くめり込んでいる。
それと同時に鼻からミシッと歪な音が鼓膜に届いた。
「あべしっ!」
痛い!
メチャクチャ痛いぞ!
「は、鼻が曲がったぞ!」
鼻血がブーっと飛び散ったよ!!
「クソガキ、何してくれるんだ!」
「ご、ごめんなさい。あまりにもスカル姉さんが無防備に寝ていたから脅かしたくなってさ……」
「女の子の私が無防備に寝ていたのなら、優しくキスの一つぐらいしろや!」
「なんで?」
「素に戻って首を傾げるなよ、アスラン。そんなに不思議がるな……」
「も~、鼻の骨が骨折してるんじゃないかな……」
そう言ってから俺は回復魔法のセルフヒールで鼻の傷を癒した。
緑色に視界が染まると鼻の痛みが消えてなくなる。
それを見ていたスカル姉さんが驚きながら言う。
「おまえ、ヒール系の魔法が使えるのか?」
「ああ、まだこれだけだけどな」
「じゃあ、ヒーラー志望の冒険者なんだな。昔の私と一緒だな。ならばこれから私のことを先輩と呼べよ」
「俺は今のところ9種類の魔法が使えるぞ」
「それは凄いな──」
あー、スカル姉さんは信じていない様子だった。
ませたガキの戯言だと思ってやがる。
そして、俺の話を受け流したスカル姉さんが、手を振って出入り口に進むと、診療所の看板をclosedに裏返す。
どうやら診療所の営業も終わりらしい。
「じゃあ、夕飯にでもするか、アスラン。これから支度をするわ」
「手伝おうか?」
「邪魔だからいい」
「そうですか……」
しばらくして夕飯の支度が終わる。
俺はスカル姉さんとテーブルに向かい合い夕飯にした。
俺は不味い食事を食べながらスカル姉さんにドラゴンについて訊いてみる。
ちなみにスカル姉さんの作った食事が飛び抜けて不味いわけではないのだ。
この世界には調味料が一般でも塩かハーブぐらいしかない。
砂糖も胡椒も高級品なのだ。
ほとんど一般人の口には届かない代物である。
だから誰が飯を作ってもほとんどが不味い。
冒険者ギルドの酒場で飯を食べても不味い食べ物しか出て来ないから間違いないだろう。
それはさておき、スカル姉さんがドラゴンの話をしてくれた。
俺は不味い塩スープを啜りながらスカル姉さんの話を聞く。
「お前はドラゴンを見たことがないのか?」
「遠目に見たことはあるけど、詳しく知らないから訊いているんだよ。そもそも俺の故郷にはドラゴンなんて居なかったからな」
嘘ではない。
遠目には見た。
それに前の世界には、そんな化け物的な怪獣なんて存在しなかったからな。
テレビや映画で怪獣のような作り物を観るのが関の山だ。
「それで、ドラゴンの何が知りたいのだ?」
「元冒険者としてスカル姉さんが知っているすべてが知りたい」
「私のすべてが知りたいのか。おまえ、エロイな。ぽっ……」
「何が、ぽっ、だよ。ドラゴンのすべてだって言っているだろ!」
「私の秘められたすべてに興味はないのか、おまえは!?」
「ねぇーーよ! そんなの興味の欠片もねぇーーよ!!」
「なんだと、むきーーーー!!!」
「やるか、このーーーー!!!」
しばらくして、二人が落ち着く。
「で、なんの話だったっけ?」
「ドラゴンの話が聞きたいんだけど?」
「ああ、そうだったな──」
こうして俺はスカル姉さんが知っているドラゴンの情報をすべて教えてもらった。
やはりドラゴンは、この異世界でもモンスターの生態系で頂点に君臨している存在らしい。
しかし、その強さも生態も様々だそうな。
それに個体数も少ない。
まあ、ウジャウジャと居られたら困るわな。
そして、成長には段階があるらしい。
まず、ドラゴンは長生きしているドラゴンほど強くて賢くなるらしいのだ。
その寿命は、ほぼ無限だとか。
老衰して死ぬドラゴンの話は聞いたことがないらしい。
そして、産まれたてのドラゴンは動物並みの知能しかなく、地龍と呼ばれる。
この地龍はまだ空すら飛べずに翼すら生えていない。
だから主に洞窟やダンジョンの奥に巣くっているとか。
続いて100年ぐらい成長すると、ドラゴンに翼が生えて天龍と変わるらしい。
翼が生えたことから空を飛び交い行動範囲もかなり広がり人間の脅威にもなることがしばしば出始める。
時には害敵として人間たちに狩られることもあるとか。
ただし、人間サイドがドラゴンを狩ると言っても並みの話ではない。
人間側の損害も相当量になるとのことだ。
まあ、当然だろう。
ドラゴンの鱗は鋼鉄を超越した硬度らしく、そんなのが空を飛んで火を吐いてくるのだ。
現代世界で言うならば、火炎放射機を搭載した大型戦闘ヘリ並みの戦力だろう。
そして、更に成長したドラゴンは、神龍、聖龍、魔龍などと特殊な名前で呼ばれるようになる。
このクラスになると知能も高く人語も喋れて魔法も使えるようになるそうだ。
こうなると、もう人間の力でどうにか出来るレベルではないそうな。
彼らの怒りは神の怒りと同様で、怒らせたら最後、町や国が滅ぶらしい。
しかもドラゴンは自分たちが最強だと誇り、人間を下等生物だと見下す。
だからドラゴンと人間社会の間には、敵対関係にならなくても友好関係にも発展することが少ないらしい。
ドラゴンとは、中立で自由なのだ。
はい、ここまで聞いて、あの洋館に居たレッドドラゴンが神龍のクラスだと分かったよね。
だって魔法で小さくなったり、扉の開け閉めもちゃんとやってたもんね。
間違いなく頭もいいはずだ。
絶対に賢い子だよ。
うん、だから討伐は有り得ませんな。
むーりーでーすーー。
戦うだけで自殺行為だわ。
討伐案はなしってことで。
だとするなら、話し合いしかない。
無理かも知れないが、洋館から立ち退いて貰えるように交渉するしかないな。
こうなると、俺の交渉スキルが問われることになる。
なーるーがー!
俺にそんなスキルはない!
ないのだよ!
ゲームシステム的にもリアル的にも持ってないわ!
今までの交渉は、何となく終えているけど成功しているのか良く分からない。
成り行きでどうにかこうにか状況を乗り越えているだけだ。
今回の相手は神龍レベルだよ。
怒らせたらさ、町とか国とかが滅んじゃうレベルだよ。
失敗したら、ソドムタウンが火の海だわ。
こんな小さな町なんて壊滅間違いなしだろうさ。
これは触れぬ神に祟り無しかな?
でもさ、そこに山があれば登りたくなるのが山男の性なら、オッパイがあれば揉みたくなるのが男の子だよぉぉおおおがあがあがぉおが!!!
やーべぇ!!
詰まらない下ネタでボケようとして、呪いの苦痛に踏み込んでしまったぜ!!
反省──。
とにかく、俺が言いたかったのは、そこにドラゴンが居るのに挑まない冒険者が居るのだろうか、と言いたかったのだ。
まあ、慎重に考えてドラゴンに戦いを挑まなくても、コンタクトを試みないのは勿体無いと言うことだ。
これは依頼がどうあれドラゴンに絡まないわけにはいかんだろ。
ビッグイベントだよ!
参加しないは損だろう!
もう、完全に振りだわ!
よし、決めた!!
明日になったらレッドドラゴンに会いに行こう。
出来るだけ友好的にな。
でも、フル装備でだ。
何が起きてもいいように……。
もしもその結果でソドムタウンが壊滅的な被害を受けたら、俺は逃げれば良いだけだ。
いや~、今回はハイレベルなクエストだわ~……。
一回や二回は死ぬことを覚悟せにゃあならんかもね。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます