2-16【交渉心理戦】

「じゃあ、今度は商売の話を始めようか、アスラン君」


ゾディアックさんが話を切り替えた。


これから商売の話しになるようだ。


だが───。


ちょっと納得が行かないんだよね。


なんで急にこの人が、俺に噛み付くような発言と態度を見せたのか?


違和感があるんだよね~。


そこを突っ込んでみようと思う。


「ゾディアックさん、商売の話の前に、俺からも質問していいかな?」


言いながら俺はフードを深く被って視線を隠した。


ブラフな雰囲気作りである。


そんな分かりやすいブラフにゾディアックさんが容易く引っ掛かる。


「な、なにかね?」


うし、少しどもったぞ。


それに乗ってきやがった。


ここからは心理戦だ!


「ゾディアックさんって、スカル姉さんと知り合いなんだよね?」


「ああ、そ、そうだけど……」


分かりやせー!


コイツ分かりやすいぞ!


「じゃあ、どう言う間柄なんだよ?」


「ん、ん~……」


考えてやがる。


言葉を選んでやがるぞ。


迂闊な表現は出来ないってか。


「私も引退したんだが、昔は冒険者でね。そのころ、よくさ、ドクトル・スカルとはパーティーを組んだ仲なんだよ」


なにコイツ、強がってるの?


口調に虚勢がはっきりくっきりばっちりモッコリと出てやがるぞ。


ああ、モッコリはよけいか。


とにかく俺はここぞと攻め立てる。


「よく組んだ?」


「ああ、良くね……」


「毎回ではなく、よく、なんだ?」


「ああ……。よく……だ……」


「レギュラーパーティーじゃなくて?」


「ああぁ……、うん……」


ゾディアックさんは、弱気に俯いた。


ウィーーーーークポイントを発見!!!


コイツ絶対にスカル姉さんに惚れてやがるぞ!!


間違いない!!


コイツは小学生かよ!


何を初に照れてやがるんだ!


てか、これはコイツが自分を好いていることをスカル姉さんも気付いてないパターンだな!


あの薮医者女医BBAならあり得るぞ!


てか、ラブコメかよ!


三流のラブコメパターンだわ!!


これは使えるぞ。


これで商売が有利に進められる。


分かったぞ!


それで俺に噛みついていたんだ。


スカル姉さんのところに転がり込んだ間男と勘違いしてさ。


納得だぜ。


合点が行ったぜ。


ならば商売の話に入ろうか!


武器は揃った!


時は来たりだ!


「じゃあ、そろそろ本題に入ろうか。今回見て貰いたいのは、この杖ですわ~」


俺主導で話を進めてやるぞ!


主導権を取ってやる。


「どれどれ、ちょっといいかな。鑑定魔法を掛けさせてもらうから」


「ああ、わかった」


何?


鑑定魔法だと?


俺は鑑定スキルだぞ。


鑑定魔法なんてのもあるのか。


「なるほどね。【ムーンワンド+1】月夜の晩に魔力の大向上とは珍しい効果だね」


「やっぱり珍しいのか?」


案外とレアなのかな?


「なぁ、アスラン君。これをゴブリン退治後に発見したんだね?」


「ああ、ゴブリンシャーマンが装備していたやつだ」


ゾディアックさんは自分の顎を摘まみながら考え込んでから話し出す。


「他にもウルフファングネックレスも拾っているんだよね?」


「ああ、そうだけど。さっき売っていたウルフファングネックレスって、スカル姉さんが持ち込んだ物なのか?」


「ああ、そうだよ」


やっぱりか!


あの糞女め!


俺がプレゼントした品物をあっさりと売りやがったな!


「んんー……」


なんだ?


ゾディアックさんが考え込んでいる。


ちょっと予想とは違う展開だぞ?


買い取るか買い取らないかの話しじゃあないんかい?


「他には何かマジックアイテムを拾っているかい?」


ここはある程度は正直に話そう。


何か新情報か、勉強になることが聞けそうだ。


「あとはファイヤーシャードのスクロールと、ホブゴブリンから【バトルアックス+1】で、装備者のみ、この斧の重量軽減効果ってやつをゲットしているぜ」


「ほ、本当かい!?」


うわ、目を剥いて驚いちゃってるわ。


なんでなの?


「それだけの数のマジックアイテムやスクロールを一度の冒険で見付けるなんて、幸運だよ。いいや強運と言えるよ。しかも相手がゴブリン風情からゲット出来るなんてなかなかない話だよ」


あー、なるほどね。


本来ならば、そんなに落ちないのね。


マジックアイテムがさ。


これも【ハクスラスキル】の影響ってわけかな。


「そうなんだ~。俺ってば超ラッキーなんだな~」


言ってみてから自分でも、わざとらしいと思った。


「ああ、これは例えゴブリンシャーマンやホブゴブリンが居る群れでも、なかなかあり得ないほどの戦利品数だよ。それに質も良いしね」


「ハハハ、ソウナンデスカ」


やべ、棒読みになった!


「出来たらバトルアックスもちゃんと鑑定したいのだが、見せてもらってもいいかな?」


「今日は持ち歩いていないわ~」


ゾディアックさんがキョトンとしてから言った。


「え、それで大丈夫なの。ちゃんと防犯が行き届いている場所で保管しているのかい?」


「ああ、安心してくれ。管理はバッチリだからよ」


嘘である。


「出来る限り貴重品は、安全な場所に隠すか、肌身離さず持ち歩いていたほうが安全だよ。特にマジックアイテムの武具はね」


「ああ、分かってるってばよ」


俺は笑顔で返した。


がぁ─────。


嘘です!


やべー、盗まれるとか考えてなかったわ!


普段はバトルアックスなんて大きくって邪魔くさいと思ってベッドの横に何気無く立て掛けてあるよ!


日本の田舎だと、盗難とかないからな!


家の鍵とか開けっぱなしだもの。


「それにしても、凄いな。これだけの戦利品だと、ダークエルフたちや、かなりレベルの高いモンスターを倒さないと出てこない貴重な一品ばかりだよ」


「俺、ラッキーだな……」


ここで俺は【ハクスラスキル】の凄さを知ったぜ。


戦えばマジックアイテムが必ずゲットできていたから、これが普通かと思っていた。


しかし、普通の冒険ではマジックアイテムはほいほいと出てこないらしい。


まさにハクスラスキル万歳って感じである。


「で、その杖は幾らで買い取ってくれるんだ?」


ゾディアックさんは即答だった。


「10000Gで、どうだろうか?」


なぁーーーーにぃーーーーーー!!!


うっそぉ~~~ん!!


予想外な金額が出ましたよ!


お馬さんが一括払いで買えるやんか!!


「マジですか……?」


「ああ、魔法使いはマナの高い時間帯の夜に儀式やスクロール制作をするから、この杖はかなり重宝すると思うんだ。何せ魔力の大向上だからね。とても期待ができる」


「なるほど」


って、クールに振る舞ってますが心臓はバクバクですよ!


だって金額が凄いもの!


これならゾディアックさんの弱みを突くとか突かないとか、なぁ~~にも関係ないじゃんか!


でも~、ボクチンは欲張りですよ~。


「でも、それは叩きすぎじゃあないのか。俺の見立てだと、15000Gは下らないと思っていたんだがね~」


はい、駄目元で吹っ掛けて見ました!


いけるかな?


「だよね……」


えーー!


いけるの!?


考えているよ!


悩んでますよ!


正解ですか!?


欲張って正解なのですか!?


「じゃあ、11000Gでどうだろうか?」


「14000Gだな」


「12000Gで頼むよ!」


「13000Gだね。これ以上は負かりませんな」


「分かった、では間を取って、12500Gでどうだろう!」


「ゾディアックさん、こう言う提案は、どうだろうか?」


「なにかね?」


「先程、魔法のスクロールを作っているとか言ったよね?」


「ああ、魔法使いギルドだからね。当然ながら魔法のスクロールを作って販売しているよ」


「では、12500Gプラスに、スクロールを数枚ほど分けて貰えないかな?」


「なるほど。ならば12500Gと下級スクロール三枚でどうだろうか?」


「五枚だ」


「分かった、五枚だそう!」


「よし。それで、手打ちだな」


「交渉成立だね!」


やった~!


欲張って大正解である!


予想外のボロ儲けだぜ!


本当に俺ってばラッキーじゃんか!!


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