2-6【チートの末路】
モヒカンマッチョのギルドマスターが奥に引っ込むと、代わりの受付嬢が俺の前に座って相手をしてくれた。
俺が記入した契約書をチェックしてから受付嬢が何かを差し出す。
それは小さなプレートがくくられたネックレスのようだった。
銅で作られた安物である。
「これがギルドの会員証なので紛失しないようにお願いします。裏に会員証ナンバーが掘られていますので───、あら」
そう言いながらプレートのナンバーを確認した受付嬢が少し驚いていた。
「あなた、ラッキーね」
「なにがだ?」
「あなたの会員証はナンバーが7777777よ」
「え、7×7かよ!」
確かにそれはラッキーかも知れない。
だが、今まで俺の先輩冒険者が7777776人居たのが凄いとも思った。
受付嬢はその番号を俺の契約書に記入してから立ち上がる。
そして奥の棚にしまい込むと言った。
「これで書類の記入は終わりですから、あとは好きなように冒険の依頼を見てください。好みの依頼がありましたら依頼受付カウンターに申し出てくださいね」
「はーい」
俺は会員プレートを首に下げると早速だが掲示板に駆け寄った。
屈強な大人たちに混ざって依頼書を見て回る。
依頼書は、とある村のゴブリン退治から熟練冒険者パーティーによるダンジョン探索のメンバー募集までと、いろいろとあった。
結構豊富な依頼内容と依頼数だ。
25件から30件はありそうである。
これだけの依頼があれば冒険者が食いっぱぐれることはないだろう。
この町ではやっぱり冒険者は安定職かも知れないぞ。
だが、レベル7の俺が受けられる依頼がどのぐらいなものかが想像できなかった。
そもそもこの世界の冒険者にレベルと言う概念があるのだろうかも不明である。
まあ、いつものパターンだが、分からない時は訊いてみることにした。
俺は隣に立つ見知らぬ冒険者のおっさんに訊いてみる。
「すんません、お兄さんは何レベルですか?」
フルプレートにグレートソードを背中に背負ったおっさんは不思議そうな声色で答えた。
「え、レベル、なんじゃいそれ?」
ああ、普通の人間にはレベルって概念が、やっぱりないのか。
今度はおっさんのほうから語りだした。
「強さってことなら俺は中堅かな。この前はトロール討伐にパーティーで参加して成功しているからよ」
おっさんは自慢げに語っていた。
なるほど、トロールを倒せれば中堅冒険者なのかと俺は知る。
更におっさんに訊いてみた。
「じゃあ、お兄さん。コボルトをソロで20匹ぐらい倒せたらどのぐらいのレベルだろうか?」
「コボルト20匹か──。戦う状況にもよるが、中の下ぐらいかな」
なるほど、少なくとも俺の強さは中の下レベルなのか。
てか、レベル7で中の下ってさ、それはそれでどうよ?
なんか低くねえか、人間のレベルって?
これなら俺がナンバーワンの冒険者になる日も近くねぇかな。
そういえば、糞女神も言ってたっけ。
『チート無双なので、勇者になるもよし、魔王になるもよしですからね。わーい、やったね♡』
あの時は糞女神が胡散臭い上に、超ムカついたから本気にしてなかったけれど、マジで頑張ってレベルを上げれば伝説の勇者も世界征服する魔王も夢じゃあないのかもしれないな。
俺がそんなことを考えているとおっさんが更に訊いてくる。
「お前さん、もしかしてコボルト20匹を一人で倒したのか?」
「ああ、倒したけど」
「若いのにやるな。もしかして、お前さんは天才なのか?」
「わけあって女神様に祝福されているからね」
まあ、嘘でもないだろう。
祝福と呪いを同時に掛けられているがな……。
「そうか、たまに居るんだよな。そんな若者がよ」
「そうなの?」
「ふらっと何処からともなく現れて、世間知らずの癖してやたらと強いヤツがな」
あー、きっと、俺以外の転生者だな。
「だが、そういった若者にかぎって冒険者としての顛末が不明だ。最期はどうなったかが聞こえてこない」
「え……、そうなの?」
「お前さんも、そうなるなよ」
そう言っておっさんは一階に下りて行く。
「顛末が不明……かぁ」
確かにそうかもしれない。
俺が知る転生者は主にアニメやラノベで観たり読んだりする主人公ばかりだ。
アニメの転生者はラノベなどで原作があることがほとんどだ。
そして原作が人気が出て連載中にアニメ化する。
だからアニメ版では、最期まで主人公がどうなったかは語られない。
ラノベ版の原作も、最終巻まで数年や、下手をしたら十数年と平気で掛かる。
だから大半は完結するまでに飽きて読まなくなる。
そのころには別の面白い作品が出てきているせいもあってか、とにかく最期までチート野郎の物語を読んだことがないのだ。
だから、チートキャラの顛末なんて俺は知らない。
ちゃんと最期まで読んだりしている人は居るだろうけど、少なくとも俺は読んでいない。
あー、俺の物語もそうなるのかなっと危惧した。
それに俺には冒険者になるといった目先の目標はあるが、最終的な目標のビジョンは欠片もないのだ。
何せハーレムを築くといった煩悩任せの単純な野望は断たれているし、惚れた美少女とスローライフを送るといった些細な願望すら無理であるからだ。
これもすべては糞女神の呪いのせいである。
だとしたら、俺の最終目標は何処に設定したらいいのか不明である。
そうなると、やはり最初は呪いのペナルティーの解除からだろうか。
結局のところ俺は結論が出ないまま掲示板から一枚の依頼書を剥ぎ取った。
とりあえずは冒険をこなして強くなろう。
難しい未来の話はそれから考えればいいだろうさ。
一つ一つ確実に今出きることを積み上げて行くしかないだろう。
よし、この方向性で行こうかな。
そして俺は手にある依頼書を見てみる。
依頼書のタイトルは『タババ村のゴブリン退治』と書かれていた。
依頼料は500G。
依頼内容は十数匹程度のゴブリン退治だ。
適正パーティー人数は一人から六人となっている。
「一人でもOKなのか──」
これなら俺一人でもやれるだろう。
ゴブリンもコボルトと強さはほとんど代わらないだろうからな。
そして俺が、依頼書を持って受付に進もうとしたら三人の若者に声を掛けられる。
戦士風の男、僧侶風の女、盗賊風の男の三人組だった。
三人とも俺と代わらない年頃に窺える。
若さが弾けてお子さまにも見える年頃だ。
戦士風の男が言う。
「もしよかったら、そのゴブリン退治の依頼で、僕らとパーティーを組まないか?」
あら、どうやらパーティーのお誘いのようだな。
俺、ナンパされてますか?
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