第二章【最臭兵器スバル編】
2-1【ソドムタウン】
俺は悪魔のような殺人鬼である少女Aから一晩中野山を走って逃げきると、当初の目的地だったソドムタウンを目指して歩いていた。
そして、草原の向こうに目的地の町ソドムタウンが数百メートルほど先に見えてくる。
「あれが話に聞いたソドムタウンか~」
荒野の向こうに丸太を縦に突き刺して並べただけの高い壁が見える。
その木製の壁の向こうに赤い瓦の屋根が何軒も見えていた。
俺が知っている街の規模としては小さい町なのだが、この世界なら千人二千人と言う町は大きいのだろう。
「なんか、ワクワクしてきたな~」
貧乏そうな村の住人が話してくれたソドムタウンの印象は、冒険者と風俗嬢の町だそうな。
おそらく想像するからに、吉原のような大人のピンク色なネオン街ではないだろうか。
まだ俺は未成年だから風俗がどのようなところかは良く知らない。
春を買ったこともなければ、当然ながら売ったこともないお子ちゃまなのだ。
なので、風俗に行ってみたいが、行ったことがない。
だから、このソドムタウンに来るのは凄い楽しみだった。
もう、ドキドキとワクワクが肩を組ながらスキップで歩み寄ってきてくれたようなものである。
冒険は冒険で大好きだし、風俗は風俗で楽しいだろうからだ。
もう、楽しみだらけで先っちょがヌルヌルしてきそうである。
あた……あたたた……。
やべぇ、糞女神の呪いで心臓が痛みだしたぞ……。
ちょっと気を付けないと……。
転生時に食らったエロイ事を考えると死んでしまうペナルティーは、本当に困ってしまう。
煩悩真っ盛りな年頃の青少年には厄介すぎる呪いだぞ。
そもそも異世界転生したのにエロイことの一つも考えられないなんて、残酷な拷問よりもたちが悪いんじゃねえか?
マジでペナルティーの解除方法を早めに探さないとならないだろう。
まあ、そんなこんなを考えながらも俺はソドムタウンに向かって草原を歩み進んだ。
すると段々と町に近付くにつれて人影も見られるようになって来る。
旅をする商人の馬車だと思える姿も見えた。
どうやら、あっちのほうにちゃんとした道があるようだ。
俺もそちらに向かう。
道無き平原を進むよりましっぽかった。
そして俺は、徒歩で町を目指す一団に混ざりながら先に進んだ。
おそらく旅商人の一団だろう。
馬や馬車を持っていないところから、そんなに繁盛していないグループだと思えた。
俺が愛想良く商人に話しかけると、向こうさんも明るく応対してくれた。
案外とこの世界の人間は気さくである。
そして旅商人に訊いて見ると、やはりあの町がソドムタウンらしい。
どうやら俺は無事に目的地に到着したようだ。
魔女に再会して、その後に遭難した時にはどうなるかと思ったが、これで一安心である。
そして俺は旅商人たちと一緒にソドムタウンの壁に近付いて行った。
壁の高さは5メートルほどある。
それに頑丈そうな大きな門。
上のほうには櫓も見えた。
その向こうに建物の屋根が、何軒も見える。
おそらく三階や四階建てはありそうだった。
あの貧乏そうな村とは比較にならないな。
モンスターの襲撃にも、ちゃんと備えている様子であった。
入り口の門前には、ハルバードを持った警備兵も二人居るし、櫓から見張っている弓兵も数人見えた。
門前の警備は万全だと感じられる。
そして、門を通過する際に受付所があり、町に来た目的地を役人が検問所の事情聴取のように訊いていた。
商人たちが受付を終えて、順々に町の中に入って行く。
その列に俺が大人しく並んでいると、直ぐに俺の順番が回って来た。
鉄格子のような窓口の向こうに陰気臭い役人が一人居る。
少し垂れた目の下に隈がある痩せたチョビ髭のおっさんだ。
どの角度から見てもザ・不良公務員って感じのおっさんだった。
その役人に俺も町に来た理由を問われたので「観光で~す」と適当に答えると役人が入場料を請求して来た。
俺の前に入場しようとした商人もお金を取られていたので、それが当たり前のようだった。
窓口の上に料金を表示した看板も出ている。
【商人150G。観光客100G。風俗嬢30G】と書いてある。
どうやらこの町は余所者が入るだけでお金を取られるようだ。
これだと下手な遊園地やスーパー銭湯と一緒だな。
役人がぶっきらぼうに言う。
「ビジネスだと150Gだ。レジャーだと100G だぞ」
なるほどね。
更に役人が訊いてくる。
「あんた、冒険者かい?」
俺は「イエ~ス」と答えた。
「ならば町の外での冒険で仕入れた物は、観光ビザじゃあ売れないぜ」
え、そうなの?
まだ、魔法のランタンを持ってたから売ろうと思ってたのにさ。
じゃあ、俺も商人料金の150Gなのかな。
それでランタンを売っても元が取れるかな?
そもそも魔法のランタンがいくらで売れるかも分からないから、元が取れるかも分からない。
これは少し困ったな。
更に役人が言う。
「でもな、マジックアイテムとか高価な物は別だ」
「べつ?」
俺が疑問そうな顔をしていると、役人が手を出してくる。
とにかく入場料を払えと言っているのだろうか。
俺は手の平から100Gを召喚した。
ここに来るまでにいろいろと試して、吸い込んだコインの出しかたは、何となくだが研究して分かっていた。
ただ出したい金額を念じれば手の平に沸いて出るのだ。
仕組みは良く分からないが、とにかくそう言うことなのだ。
しかし、他人に見られると異世界転生者だとばれそうなので気を付けないとならないだろう。
たぶんなんだけど、異世界転生者とばれれば面倒臭いことになるんじゃあないかと思っている。
異世界転生者なんて、どんな世界でも異物だろう。
下手すりゃあ厄介者かも知れない。
だから知られないほうが静かに暮らせるのではないかと思う。
それは、さて置いてだ。
俺が役人に100Gを渡すと、役人はテーブルの上で硬貨の枚数をダラダラと数え始めた。
そして、硬貨の枚数を数え終わってから役人が呆れ顔で溜め息を吐く。
「はぁ~……。違う、違うって……」
何が違うのだろう?
そう言いながら役人は手の平でちょうだいのポーズを繰り返した。
あー、なるほどね。
俺はピィーンと来た。
訊きたいことがあるなら、ワイロをよこせってか。
スマートに言えばチップを要求しているのだろう。
俺は更に10Gを渡した。
どうやらそれで不良役人は満足してくれたらしい。
「マジックアイテムだけは、冒険者ギルドで買い取ってくれる。観光ビザでもな。それ以外で売買したら、牢獄行きだからな」
なるほどね。
役人が陰気臭い笑顔で言う。
「それじゃあ、たっぷり遊んで、たんまりと 娘たちにお金を落としていってくれよ、坊や」
そう言いながら町の中に通してくれた。
俺は役人の言葉の意味が良く分からなかったが、町に一歩踏み込んだだけで理解できた。
ゲートを潜ると、そこはメインストリートだった。
町の中は、凄く賑やかである。
そして、艶やかで華やかだ。
昼間っから男たちがスケベそうな顔で闊歩して、昼間っから女たちが色っぽいセクシーなドレスを纏い、あちらこちらの街頭に悩ましく立っている。
それに客引きだろうチンピラの声が小五月蝿い。
漂う酒の臭いもキツくて鼻に来るが、その中に甘い官能的な匂いも混ざっていた。
「な、なんか、スゲ~……」
ソドムタウンの主な産業が風俗であるのが町の賑わいからハッキリと分かった。
この町はピンクな町なのだ。
ピンク、ピンク、ピンク、一つ飛ばしてまたピンクなのだ。
まさに煩悩全快の天国だ。
それすなわち、俺にとっては地獄の誘惑都市なのだ。
決して俺は、この町で堪能できないだろう。
すべては糞女神の呪いのせいである。
こうして俺は、煌びやかな花園を目の当たりにしても、少しどころかだいぶ複雑な思いになってしまう。
心から楽しめば呪いのペナルティーで死んでまう……。
俺は、どうしたら良いのだろうか。
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