1-28【バッドエンド気味なハッピーエンド】
俺は村の老人にロングブーツに入った骨の破片を預けると、村を出で旅立つことにした。
老人にフローネちゃんの埋葬は任せたのである。
そして、この貧乏そうな村を出てソドムタウンって町を目指すことにしたのだ。
ソドムタウンは冒険者と風俗嬢の町だと聞いている。
ならば異世界転生者として冒険者を目指す俺に取っては丁度良い町だろう。
冒険とお色気が揃った素晴らしい町である。
もうワクワクとドキドキがセットで肩を組ながらスキップしているような町なのだ。
ぐふっ!
あたた……。
ちょっと胸が痛くなったぞ……。
まあ、とにかくだ。
ソドムタウンに到着すれば、数多くの冒険やロマン溢れる過激なミッションが待っていることだろうさ。
この貧乏そうな村から東に三日ぐらい歩いた場所にソドムタウンはあるらしい。
とにかく俺はソドムタウンを目指すことにした。
そして、旅立つ前に村人から余裕を持って一週間分の食事と革の水筒を貰った。
あと、毛布もだ。
それらを、一緒に貰ったバックパックに詰め込んで背負う。
これらはコボルト討伐のお礼の代わりだそうな。
まあ、ただでくれると言うのだから貰っとく。
それにしても、村人に言われなければ、また俺は旅の装備を持たずに手ぶらで旅立つところだっただろう。
おそらく、旅立ってから慌てるギャグパターンになるところだったぜ。
危ない、危ない……。
それで一話分無駄話を作り出すところだったと思う。
そもそも旅に慣れていないんだもの、しゃ~ないよね。
こう言うお間抜けハプニングだってあるだろうさ。
そんでもって───。
「じゃあな~。皆、たっしゃでのぉ~」
俺は手を振って村を出た。
鼻垂れ小僧や村人たちが見送ってくれる。
さてさて、俺の新たなる旅は、どんなスリリングな冒険が待っているのだろうか楽しみだな。
きっとロマン溢れる冒険と、昼も夜もイチャラブOKなヒロインとのエロエロな出会いがまっているに決まってっぅぅううわあああ!!!
痛いーーー!!!
呪いが、苦しい!!!
また、呪いかよ、ウザイィィイイイッ!!
糞女神が、逆に呪ってやるぞ!!!
絶対に!!!
そんな感じで俺は糞女神の悪口を口走りながら貧乏そうな町を旅立った。
そして、あっと言う間に貧乏そうな村を旅立ってから一日が過ぎる。
村を出てから気付いたのだが、あの村の名前を訊くのを忘れていた。
何せずっと貧乏そうな村って呼んでたものな。
あの貧乏そうな村は、いったいなんて名前の村だったのであろうか?
まあ、いいか。
今さらの話なので、気が付かなかったことにしよう。
もう、『貧乏そうな村』で構わんだろうさ。
てか、もう、訪れることもないかもしれないし、どうでもいいかと思う。
とにかく今は、次のソドムタウンを目指そう。
まだまだ先は長いし、まだまだ相当な距離を歩かなければならない。
それにしてもソドムって聞いたことある名前だよね。
確か有名な名前だよな。
でも、意味は分からん……。
もしもスマホがあれば、グーグル先生で直ぐに検索するんだけどな。
だって、暇だし──。
何故に暇かって?
それは、ずっと大自然の中を歩いているだけだからさ。
俺は再び大自然の大草原の中を歩き続けていた。
ソドムタウンは、この大草原を横断した先にあるらしい。
もしも車があれば、こんな大草原なんて直ぐに横断できる距離だよな、本当は──。
まあ、俺は高校生の未成年だから、車の免許どころか原チャリの免許すら持ってなかったけどね。
でも、自転車ぐらいは欲しいよな。
この異世界だと一般的な移動の乗り物は、馬が主流だと思うんだよね。
だから冒険の旅を続けるなら馬に乗る練習ぐらいはしなくっちゃならないのかな?
馬かぁ~………。
俺は馬に乗れるかな?
そもそも馬なんて、競馬中継でしか観たことないぞ。
生で馬すら見たことないのに、馬に乗らなければならないのか……。
俺、馬に乗れるかな~。
なんか馬に乗る練習とかが面倒臭いな……。
自転車でも開発して、それに乗って旅とかするの、良くね?
ほら、学生の夏休みで日本一周の旅とかを自転車でする呑気な野郎とかがいたじゃんか、あれみたいにさ。
てか、日本って……なに?
ついつい思い浮かんだ単語だったが、意味が分かんない……。
たぶん、俺が住んでいたところの地名だろう。
その内に、おいおい思い出すさ。
この異世界に来てから記憶が曖昧だが、少しずつ思い出していると思うからな。
てか、何気無く転生前の記憶のことをバンバンと口走っていたような気もするが、まあいいだろう。
気にしない、気にしないっと。
まあ、とにかくだ。
それよりも俺、自転車とか開発出来るかな?
やっぱ無理かな?
無理だよね。
自転車を開発するよりも真面目に馬に乗る練習をしたほうが早そうだわ。
まあ、馬に関しては、その内の話しだ。
今は馬も居ないんだから、歩いてソドムタウンを目指そう。
あと、この辺に旅の宿屋があるって村人が言ってたよな。
ソドムタウンまでの中間地点の宿屋らしい。
今晩は、そこに泊まってゆっくりとしたいんだが──。
村人に宿屋の場所を教えてもらうために、簡単な地図を描いてもらってるんだが、この地図がまた下手くそすぎてよく分からん。
廃鉱内のマップは完璧な地図だったのに、なんでこの地図は下手くそなんだよ?
使えねーな、あの村人は……。
だからキャラ名も貰えないモブなんだよ。
ちっ、愚痴ってもしゃあないか。
俺は地図を片手に周囲の景色を見比べてみた。
え~っと、この山があの山だと思うから、この山の間を進んで、あの森を抜ければ、旅の宿屋があるはずだ。
たぶんね……。
しばらくは直感だけを頼りに森の中の道を進んで行く。
そして、やっとのことで森を抜けた。
すると少し離れた丘の上に目的の宿屋を発見する。
草原の真ん中に拓けた道が続き、その先の低い丘の上に二階建ての質素な建物が見える。
粗末な作りの木の柵で囲まれた庭の入り口に、『ウエルカム、旅の宿屋』と書かれた木の看板が出ていた。
間違いないだろう。
ここが村人が言っていた宿屋のはずだ。
建物の入口前には、空と思われる酒樽が雑に並んでいた。
庭には二羽鶏が居る。
放し飼いのようだ。
煙突からは、うっすらと煙が出ている。
そして、何か肉料理を作っているのか、いい匂いが漂ってきた。
その肉の匂いが俺の空腹を思い出させる。
「に、肉……。肉が食いたいわ~」
今晩の夕食が、とても楽しみになった。
村人は中年の夫婦が二人っきりでこの宿屋を営んでいると言っていた。
店主は気さくで、奥さんも明るい人だとも言っていたから、人見知りの激しい俺でも直ぐに馴染めるだろう。
だから俺は軽い気持ちで宿屋の扉を開いた。
ノックという文化に馴染みがないから、なんの前置きもなしに俺は扉をおもむろに開いたのだ。
そして、宿屋の中を見ると一人の女性が、俺に背を向けながら暖炉の火に掛けた鍋物を、木のお玉で掻き回していた。
後ろ姿は細身の女性で白いワンピースを来ている。
髪型はポニーテールだった。
サラサラの馬の尻尾のような後ろ髪が揺れている。
そんな彼女は、扉が開いた音に気付いたようだ。
お客が来たのかと思って「いらっしゃいませ」と明るく言いながら振り返る。
「あっ」
「ゲッ!」
彼女は振り返ると俺の顔を見て「あっ」と可愛らしく声を漏らす。
俺のほうは、彼女の顔を見て「ゲッ!」と蟇蛙のような声を上げた。
「あなた、また会ったわね」
「魔女ょょぉぉおおおだぁぁあああ!!!」
そう、女性は、あの貧乏そうな村で俺を悪魔の生け贄に捧げた後に食べようとしていた魔女っ子ガールだった。
そうなのだ、少女Aである。
冷静さを直ぐに取り戻した俺は、扉を静かに閉めた。
そして、直ぐ横に並んでいた空の樽を手際良く動かして扉にバリケードを築く。
それから走り出す。
猛ダッシュで逃走した。
俺は来た路を全力で逆走する。
「ちょっと~。まだ何もしてないのに、なんで逃げるのよ~?」
速いぞ!
もう俺に追い付いたのか!?
全力で走る俺の背後からポニーテール魔女の声が聞こえて来た。
それすなわち、追って来ている。
少女Aが追ってきてやがる。
振り向かずとも分かった。
あのサイコパスヒロインが追って来ている!!
振り返るな俺!
今は全力で走れ!
振り返る暇があったら全力を尽くして走り続けろ!!
今は逃げるんだ!!
生きるために逃げるんだ!!
「まってよ~、何もしないからさ~」
信じられるか、ボケ!
だってお前は変態じゃあないか!!
ドが付くほどにド変態じゃあねえか!!
すると俺を追い掛ける少女Aが魅惑的なことを言い出した。
「待ちなさいよ。おっぱい、見せてあげるからさ~」
え、マジ……?
俺の走る速度が僅かに緩んだ。
「ちょっとだけなら、触ってもいいからさ~」
なに!?
ちょっとだけでも触って良いのか!?
ど、どうしよう……。
変態サイコパス魔女でもポニーテールで健康的な美少女だったしな!!
そんなサイデレが、おっぱいを触ってもいいだとっ!!
あたたたっ!!
胸が痛くなってきたぞ!!
不味い!!
息が上がる!!
だ、騙されるな俺!!
止まったら殺されるぞ、間違いなく!!
「じゃあ、大サービスよ。も、もんでもいいから~」
なにィ!!
もんでもいいだと!!
しかも、少し吃りながら言ったぞ、アイツ!!
ここぞと言うタイミングで吃音を使うなんて、可愛くてズルイぞ魔女!!
お前の魅惑的な魔法に掛かっちゃうじゃんか!!
胸の痛みを耐えながら走る俺は、ちょっとだけ好奇心のままに振り返った。
そこで見たものは、既に黒山羊の頭部を被って鉈のような包丁を振りかぶりながら追っ掛けてくる少女Aの姿だった。
まさに鬼神の化け物だ。
それを目の当たりにした俺の思考が高速で正常に戻る。
だーめーだー!!
うーそーだー!!
あーりーえーねー!!
胸の痛みが瞬時に消えた。
あの魔女は俺を殺す気だ。
間違いない。
絶対にラブイチャちゅっちゅちゅうルートに進まないパターンだわ!!
絶対に残酷なバッドエンドルートだよ、これは!!
絶対に殺されるわ!!
絶対に止まれないわ!!
絶対に絶対だわ!!
俺は、このあとしばらく走り続けた。
止まることも、振り返ることもなく────。
ただ、ひたすらに────。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます