1-4【初戦闘と初勝利】
俺が、だだっ広い大草原を全裸で黙々と歩いていると、一体のスケルトンに出くわした。
ホネホネロックなスケルトンである。
下級アンデッドってやつだ。
とにかく初めて見た。
まあ、当然か……。
普通はスケルトンなんて歩いて居ないものな。
しかも、真っ昼間からよ。
とにかくだ、最初は遠目に見ていて人が歩いているのかと思って喜んだが、近付いてみると、それは骸骨だった。
真っ昼間の大草原を節操もなくスケルトンが一人で野外をぶらぶらと放浪していたのだ。
本当にガッカリである。
「なんとも非常識な話だな……」
どうやら女神も空気が読めないが、スケルトンも空気が読めないらしい。
異世界ってやつは空気が読めない輩が多いようだ。
とにかく今の俺は人間と出会いたいのである。
見知らぬ土地で一人は寂しいし、喉が渇いたので水を分けて貰いたいのだ。
まあ、スケルトンとはいえ出合ってしまったのは仕方がない。
これも運命かくだらない定めだろう。
俺はスケルトンの様子を草葉の陰から見守った。
スケルトンは俺に微塵も気付いていない。
草むらをガサガサと進むスケルトンは俺に背を向けている。
後方から近付いた俺にはぜんぜん気付いていない様子だった。
俺は少しばかりスケルトンを観察しながら後を追う。
スケルトンの数は一体だ。
しかも尾行が素人な俺にすら気付かないボンクラのようだ。
昼間だからかな?
アンデッドだから昼間だといろいろと鈍いのだろう。
それにスケルトンはボロボロの服を着ているだけで、武器や防具は一つも身に付けていない。
丸腰ってやつだな。
冒険者風の死体ではないようだ。
生前は平民だったスケルトンなのかな?
ならば勝てるかも知れないぞ。
素手同士だ。
しかも今はアンデッドが弱まる昼間の時間帯だ。
背後からの不意打ちを仕掛けられそうだし、きっと勝てると思う。
何せザコでも経験値になる。
少しでも強くなれるチャンスだ。
それよりも、服が欲しい!
スケルトンはボロボロの服を着込んでやがる。
残念ながら靴は履いていないがズボンは履いてやがる。
アンデッドが着ていたボロボロの服でも、この際だから構わない。
とにかく全裸よりマシだ。
俺は死者からだって追い剥ぎが出来る鬼畜の心を宿した男である。
だって、微風すら寒いんだもの……。
全裸だと心も冷えるのだ。
キャンタマ袋も冷えて縮こまるのだ。
決意を固めた俺は、背後からスケルトンに忍び寄った。
奇襲を仕掛けてやるぞ。
不意打ちだ。
もう少し、もう少し近付きたい。
あと、一歩だ。
もう少し……。
あと、半歩だ。
良し、今だ!
あと3メートルの距離まで近付いたところで俺は攻撃を仕掛けた。
ダッシュで飛び掛かる。
無言のまま走り寄りスケルトンの後頭部にラリアットをぶちこんでやった。
「おらっ!」
全力で振り切られる自称豪腕の右腕がスケルトンの後頭部を打ち殴った。
「奇襲、成功なり!」
すると俺の細腕に殴られたスケルトンの頭部だけが飛んで行って、近くの岩に当たって砕け散る。
頭を粉砕してやったぜ。
「勝った!」
っと、思ったが、頭部を失ったホネホネボディーがクルリと振り返る。
「えっ、動けるの!?」
どうやら動けるようだ。
なんか無くなった頭の辺りにモヤモヤと黒い影が浮かんでいる。
魂の形だろうか?
しかも、悪霊っぽいよね。
とにかく理由は分からんが、なんかおぞましい魔力を感じ取れた。
影の中央には、とてもおどろおどろしい人の顔が浮かんで見えるしさ。
瞳の部分が赤々と光ってやがる。
「怖ッ!」
そして、頭を失ってもスケルトンは動き続けた。
しかも、俺に殴り掛かって来る。
頭蓋骨が無くても俺が見えているようだ。
そして、スケルトンの反撃だ。
素早い速度の大降りフックだった。
いや、平手打ちである。
「げふぅ!」
そして、頭無しスケルトンのピンタが俺の頬にヒットした。
肉が付いてないのに重いピンタである。
俺はピンタのダメージに仰け反ってからダウンした。
背中から倒れて少し後頭部を打ってしまう。
その倒れた俺の上にスケルトンが飛び乗って来る。
「なぬっ!」
そして俺はスケルトンに腹を跨ぐ体勢でマウントポジションを取られてしまった。
「ええ、マジですか!?」
ピンチだ。
これってピンチだよね!
スケルトンにマウントを取られたのは初めてだった。
いや、それどころか他人に物理的なマウントを取られるのが初めてである。
俺が下から見上げると、無くなったスケルトンの首から上に人の顔が朧気に浮かんで見えた。
その形相が怪奇である。
「ひひぃ、怖っ!」
そして上からスケルトンピンタが振り下ろされた。
左右交互の連続ピンタ攻撃である。
俺は顔面を両腕でカバーしながら守りを固める。
その腕をスケルトンが何度も左右のピンタで叩いて来た。
その痛みは骨で出来た鞭でしばかれているような痛みだった。
もしも俺がM豚野郎だったら特殊な世界観に目覚めてしまうところだろう。
ヤバイ!
少し気持ち良くなってきた!?
「ち、畜生っ!!」
俺は防戦一方になっている。
ガードに固めた両腕が骨に叩かれてミミズ腫れを何本も刻んでいた。
そして、調子に乗ったスケルトンが今まで以上な大振りでピンタを振りかぶった。
それで攻撃の間に一瞬の隙が生まれる。
ほんの僅かな隙だった。
その隙に俺は頭と両足を使って体をブリッジさせて山を築く。
「こなクソが!」
するとアーチを築いた俺の腹の上からスケルトンがバランスを崩して転げ落ちた。
その隙に素早く俺は立ち上がる。
少し遅れてスケルトンも立ち上がった。
だが俺は、両足を揃えて高く跳躍していた。
そして、空中で両膝が顔に付きそうなぐらい体を丸めて全身に力を溜める。
そこから勢い良く全身を伸ばしてスケルトンのボディーを狙って背筋全開の両足蹴りを打ち込んだ。
「ドロップキックだ!!」
俺の両足がスケルトンの胸板にクリーンヒットする。
するとスケルトンの体が後方に飛ばされて、近くにあった岩にぶつかって砕け散る。
バコーーーンっと派手な音が鳴り響いた。
まるでボーリングでストライクを取った時に十本のピンが飛び散るようにスケルトンの骨がバラバラに散らばって飛んで行く。
それでスケルトンは完全に粉砕された。
今度は魔力が無くなったのか、スケルトンは立ち上がってこない。
朧気な影も消えている。
「よっしゃーーー!!」
俺はガッツポーズで自分の勝利を讃えた。
完全勝利である。
しかも、初勝利だ。
俺は溜め息の後に、早速スケルトンの遺体からボロボロの服を剥ぎ取ると、そそくさと着こんだ。
サイズは問題ない。
上着もズボンも丁度良かった。
でも、ちょっと臭い……。
それでも──。
「暖か~い」
初勝利からのお祝いプレゼントが、ボロボロの服でも侘しくなかった。
とにかく、ちょっぴり嬉しい。
全裸よりましだからだ。
そして、何気無くスケルトンの骨の破片に目をやると、金貨が一枚だけ落ちているのに気が付いた。
もしかして、これがモンスターを倒した時の報酬だろうか?
俺が金貨に手を延ばすと『チャリン!』と音を鳴らして手の中に金貨が吸い込まれて行った。
吸い込まれた?
手品かな?
いや、違うか、何かのシステムだろう。
ステータス画面をチェックしてみると、0Gが1Gと増えている。
経験値も10となっていた。
持ち金と経験値が増えたのだ。
しかし、その数値から武器無しスケルトンの経験値の低さを知る。
まあ、最初はこんなものだろう。
記念すべき初勝利に贅沢は言えないか。
みんなだってゲームで初めて倒すのはザコキャラのスライムなんだからさ。
それと一緒である。
とりあえず俺は、スケルトンの遺体から、一番太くて固そうな骨を一本拾い上げた。
太股の骨だろう。
それを何度か振るってみた。
「これ、棍棒代わりの武器になるかな?」
こんな物でも武器に使えるだろう。
アイテムスロット欄に『ボーンクラブ(装備中)』と『ボロボロの服(装備中)』と表示されていた。
どうやら骨は棍棒として認知されたらしい。
ありがたい。
それに服もズボンも手に入った。
これもありがたい。
これでやっと全裸から解放されたのだ。
チンチロリンは、隠せる時は隠しておくべきだろう。
それが大人のマナーである。
いや、人としてのマナーだろう。
とにかくだ、これで少し文化人に近付いた思いだった。
でも、ボロボロの服と骨の棍棒とは……。
これでは人は人でも原始人だな。
情けない。
まあ、いいか~。
次は水だな。
とにかく、水だ!
既に喉が渇きだしている。
早く水を見つけて休みたい。
出来ることなら乙女の膝枕でゆっくりと休みたいな。
この際だから、その乙女の聖水でも良いから喉を潤したい。
あれ、少し胸が痛むぞ……。
そして、俺が胸の痛みに俯いた瞬間である。
足元に小さな布切れが落ちているのに気付く。
「なんだろう?」
その布切れを拾い上げた俺は、何気無く両手で布切れの端々を持って左右に広げて見た。
「こ、これは!」
それは、三角形の下着だった。
ぐぁぁあああああ!!!!
唐突な胸の激痛。
どうやらあのスケルトンは女性だったらしい。
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