第39話 町の英雄

 ドラゴンが倒れた後、兵士たちが相手をしていた紫色の小鬼ゴブリンも全てが崩れて消えてしまった。

 結局、魔物の遺体が残らなかったおかげで、戦いに赴いた兵士たちやブラウズの活躍が証明されないため、討伐の報酬が出る事は無かった。


 だが、町の人々は彼らの活躍を知っていた。

 だからこそ、町を挙げて命を懸けて戦った戦士たちを酒や食事で大いにもてなしたのだった。たとえ、報酬が無くとも町を守った英雄を人々は忘れないだろう。



 ◇◇◇◇



「昨日は久しぶりに飲み過ぎてしまったな。まだ少し頭が痛いよ」

「もう、お父様は飲み過ぎだって注意したのですよ」


「悪い悪い。あんなに感謝されると思わなかったからな。久しぶりに嬉しくなったんだ」

「そうですね。ドラゴンから町を守った英雄ですものね。竜殺しドラゴンスレイヤーの称号も本来ならもらえてもおかしくないはずなのに」


 シェルが頬を膨らませて怒っているが、言ってる事は正しい。

 ただ、遺体が残らず報告を受けた側もそれだと困るのも仕方のない事のように思えた。


「シェルとアッシュも討伐に参加したんだ。二人共、称号持ちになるはずだったんだがな。遺体が残らなかったのは仕方ない。町が無事だったんだ、それでいいだろう」


 君はブラウズの言葉に頷いた。

 シェルはやや不満そうだったが、渋々納得したようだった。


「アッシュが眠っている時に、マリアが来て矢をいただいたのです。矢筒に入れられた矢は神のご加護を受けたものだから使って欲しいと。おかげでドラゴンに対して怯ませる程度の事ができて助かりました。本来であれば矢で怯む事はありえないのです」

「その矢のおかげで助かったんだ。後でマリアに礼をしないとな」


「そうですね。それに、マリアの言っていた神からの神託の言葉、全部当てはまっていました」

「『明日、水、混乱、魔物、全滅』か。水だけ分からなかったが、下水の紫色の小鬼ゴブリンの事だったんだな。予め来るのが分かっていたおかげで被害は最小限に抑えられた。一体何だったんだ、あの魔物は……」


 魔物の事は分からないが、何故か君はドラゴンに狙われていた事を思い出す。

 君はその事を……。

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