第21話 父と娘の気持ち
部屋に戻った君は眠りに付いた。
深い眠りだったのだろう。夢も見る事はなかった。
目を開けると、どこからか音が聞こえた。
君は部屋から出ると、音のした方へ向かうと声が聞こえてきた。
それは、ブラウズとシェルの会話だった。
◇◇◇◇
ブラウスが部屋に入ってきた事に気付いたシェルは少し驚く。
「どうしたのですか、お父様。どうしてそんな悲しそうな顔をしているのですか」
ブラウズは黙ったままだった。
まだアンジェリカの姿と重なって見えるシェルを見ると辛いからだ。
扉を背にブラウズは動けずにいた。
「お父様、こちらに来てください」
言われて渋々とシェルの近くまで歩くブラウズの足取りは重い。
少しでも到着するのを遅らせようとする歩みだ。
ブラウズは椅子に座るとシェルを見る事ができずにいた。
「私は……今までずっとお父様に嫌われているものだと思っていました」
静かに優しくシェルはブラウズに語り掛ける。
「でも、アッシュが教えてくれました。お父様はちゃんと私の事を気にかけてくれていると。気持ちがすれ違っているだけだと」
ブラウズの身体が少し動いた。
シェルの目から見てもブラウズが葛藤しているのが分かる。
今、自分自身の言葉で気持ちを伝えないといけないとシェルは思った。
「私は、普通にお父様と向き合ってお話がしたいです。嫌われていないと、そう思えるように」
ブラウズはシェルを抱きしめると、声を押し殺すように伝える。
「すまない、シェル! お前の事が嫌いな訳がないだろう! 辛かったんだ……アンジェリカを失って、忘れたいと思っていたのに……ここに、目の前にアンジェリカに似ているお前がいる。辛くて……見ていられなかったんだ!」
シェルは涙を流した。
アッシュの言っていた事が本当だったと。
嫌われていなかったのだと、ブラウズからその言葉が聞けた事が嬉しくて。
「嫌われていなかったのですね。私は、ちゃんとお父様に愛されていたのですね」
「ああ、愛しているとも。辛かったよなシェル……俺は父親失格だ!」
「いいのです。それが分かったから……他の人が何を言ったとしても、お父様は……私のお父様です」
アンジェリカを忘れようと、シェルとの関わりを最低限のもので済ましてきたブラウズ。
そんなブラウズの態度に嫌われているものだと思い、向き合う事ができなかったシェル。
長年のわだかまりが解け、二人は本当の親子となった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます