夢か現か

ユウヤミ

駅前の女性像

 最寄り駅前に、美しい女性像がある。僕はこの像をえらく気に入っており、毎日仕事帰りに話しかけるのが日課となってしまっている。

 両手を胸の下あたりで軽く重ね、両足の踵がぴったりとくっついた綺麗な姿勢。整った顔立ちをしているがどこかもの悲しげな女性像を見ていると、僕はとても恍惚とした気分になるのだ。

像に話しかけるなんて、そんな姿を見られてしまったら間違いなく頭のおかしい人間に思われてしまうだろうが、幸いこの駅周辺には飲み屋やコンビニ等もなく、駅の利用者も多くないため日中でも非常に閑散としている。終電近い時間にもなれば全くと言っていいほど人の姿はなくなるため、僕は安心して女性像に話しかけることができるのだ。


 「やあ、今日も綺麗だね」

こんな風に、まるで愛する妻や娘にそうするように話しかけると、目の前の女性像が返事をしてくれるように感じるのだ。ほら、今日も像の中の奥深い所から聞こえる。彼女の声が聞こえてくる。


 おねがい、たすけて

 ここからだして


 そして僕はいつも決まった答えを返すのだ。

 「それは、駄目だよ」


 残念ながら、今日はもう彼女の声は聞こえないようだ。

さて、明日も早い。そろそろ家に帰らなければ。そうだ、冷蔵庫に昨日作りすぎた煮物が残っているから、食べ切ってしまおう。ビールはあったかな、朝家を出る前に確認しておくべきだった。

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