第44話 これから

「とりあえず……俺はこれで自由って、ことだよな」


 謎の空間から解放されたことで現実へと帰還したかのような感覚に陥る俺。

 そこには俺だけではなく、他の面々もいた。


「はははははは!! 儂に恐れをなして逃げたな!! 儂の勝ちじゃあ!!」


 ゼノはそう言って得意げに笑った。

 あまりにも調子と都合の良い解釈過ぎてツッコむきにもならない。


「スパーダ」

「……シェイズ」

「経緯はどうであれ、俺たちはお前の実力を確認することができた。お前が【竜牙の息吹】に加入する資格は十分にある……だが、この一連の行為で、お前が俺たちに対して不信感と怒りを抱くのも十分に理解している。だから、せめてもの償いとして……お前をすぐにSランクへと昇格するように取り計らわせてくれ。お前の力と、Sランクである俺の口添えがあれば、すぐにSランク冒険者になることが可能だ。そうすれば他のSランクパーティーからも声が掛かるだろう」

「……」

「それでも足りないというなら、【竜牙の息吹】リーダーとしても俺のできることなら何でもする」


 シェイズは真摯に、誠実にそう告げた。

 正直なところ……冒険者として、彼の提案はとても魅力的だろう。

 どんな冒険者も、こんな話を持ち掛けられれば首を縦に振るのは目に見えている。

 だが、


「いや、別に構わねぇよ」


 俺はシェイズの申し出を断わった。


「理由を、聞いても良いか?」


 俺の返答が予想外だったのだろう、シェイズは恐る恐る聞き返す。


「実力を示さないと入れないのは、お前ら【竜牙の息吹】だけじゃない、他のパーティーにも言えることだ。あの段階で、実力を示していない俺は仲間として不適格だった。お前らの信頼を得られていなかった。それだけの話だ。それに今回のことは【慟哭の宴】からの依頼でもあったんだろ」


【慟哭の宴】はギルドの最高執行機関。その依頼を無碍むげにすることなどできない。冒険者として最高のSランクであるシェイズたちならなおさらだ。

 加えて、今回のクエストに魔人が絡んでいたことはコイツらも知らなかったんだろう。

 あの時の反応が良い証拠だ。

 つまり……あれだけ危険なクエストだったにも関わらず、そのことを伏せられていた。そう言う意味では、シェイズたちも【慟哭の宴】に騙された被害者と言える。


「お前らの行動は筋が通っていないかもしれない。けど、それは全て理にかなった仕方のない事だ。多分……俺がお前らの立場でもそうする」

「だ、だが……」

「しつけぇぞ。騙された俺が良いつってるんだ」


 あれ、俺今すごい恰好付いてる……?


 シェイズと言葉を交わす中俺にそんな思いが浮上する。

 後はこのまま颯爽と立ち去ればさすらいの冒険者って感じじゃないか!

 そうと決まれば……!


「話は終わりだ。じゃあな……」


 普段よりも声を低くし立ち去ろうとしたその時、


「おいちょっと待て! 儂はまだ許しとらんぞ!!」


 俺の積み上げたものはいとも容易く崩された。


「おい!? 折角人がカッコよく決めてんのに何でンなこと言うんだよ!!」

「やられたらやり返す!! やられてなくてもムカつけばやり返す!! それが儂の流儀じゃ!!」

「清々しいほどに最悪だなお前!!」

「魔王の儂にとって最悪は最高の誉め言葉じゃ!! おいシェイズとか言ったな!!」

「あ、あぁ。何だ?」

「美味いメシを寄こせ!! それで全部チャラじゃ!!」

「……」


 ゼノの言葉に、シェイズの目は点になった。

 そして数秒の沈黙が流れると、


「くっ、くく……ははは!」


 突然噴き出すようにシェイズが笑いだす。


「む? 何がおかしいんじゃ?」

「い、いや……俺たちがしたことに対する報復が……食事って……だ、駄目だ……! こんなに笑うのは久しぶりだ……!! すまない、笑ってはいけないのに……!」

「す、すげぇ……シェイズがこんなに笑ってやがる」

「こんなにって……あんまり大爆笑って感じには見えないぞ」

「シェイズはこれが最大級。顔も相まってとても不気味だけど」


 確かに、目つきの悪さと堪えるような笑いが相乗効果を生み出し、まるで悪鬼のような笑顔がそこにはあった。


 にしてもメシか……ゼノらしいな。

 考えてみれば確かにそうだ……シェイズは今罪悪感を感じている。それはこちらが何かを要求しそれに応えなければ解消されないだろう。

 なら……。


「シェイズ」

「な、何だ?」

「俺も一つだけ……望みを言っていいか?」


 俺はシェイズ一つだけ、要求することを決めた。


「あぁ。やはりランク昇格か?」

「いや、そうじゃない」

「なら……一体」

「まず確認したい。【竜牙の息吹】への加入、俺にはその正式な権利があるんだよな?」

「あ、あぁ」

「なら、その加入……保留してくれないか?」

「保留? どういうことだ? 他のSランクパーティーにいくのではなく、このまま俺たちのパーティーに加入するということか?」

「いや、それも違う」

「あぁ。ちょっと思うところがあってな。あぁ別にお前らに不信感や怒りを覚えたからってワケじゃない。ちょっと色々、この目で見て……感じてみたくなったんだ」


 停滞していた俺がまずすべきことは、Sランクパーティーに入ることじゃない。

 俺にはまだまだ足りないものがある。それを埋めるために色々な経験を積むことだ。

 そして当然そこには、今まで目を背けていたことや逃げ続けていたことも含まれる。

 けど、俺はもう立ち止まらない。全部ちゃんと向き合って、俺の糧にしてみせる。


「……そうか、分かった。お前の席はいつでも空けておこう。気が向いたら、いつでも加入してくれ」

「そう言ってくれると助かる」

「えぇぇぇぇぇ!!?? ス、スーちゃん私のパーティーに入らないの!?」

「うわぁっ!? びっくりしたぁ!! 急に何だよリンゼ!!」

「だ、だってスーちゃんと同じパーティーじゃなかったら一緒にクエスト行けないじゃん!」

「別にそれだけだろ。これまで通りお前の家に居候は続けるから安心しろ」

「何だろう。その発言だけ聞くととんでもなくクズな感じがする」


 言うなエル。俺も今自分でそう思った。


 エルの何気ない発言は、俺の心をチクリと刺す。


「こ、これじゃあ……私よりゼノの方がスーちゃんと一緒にいる時間が長くなっちゃう。どうしよう……」

「どうもなんねぇから安心しろ」

「安心できないよ!! 私がモンスターを倒している間に、ゼノがスーちゃんと過ごしてるって考えたらぁ! あぁ駄目! 考えただけでおかしくなっちゃう!!」

「安心して下さい。リンゼさん、あなたが不在の間も私はスパーダ様とゼノ様を監視しております。何かあれば報告いたしますので」

「そ、そうだ! 良かったぁ……助かりますサイカさん!」

「お前さっきまで愛の巣に人が増えるとか言って嫌がってなかったか?」


 半眼を向け、俺が指摘する。


「何言ってるのスーちゃん! 家にメイドさんは必要だよ?」


 駄目だ……!! ゼノといい、リンゼといい、コイツら都合の悪いことは全部忘却の彼方に葬りやがる!!


「スパーダ」

「うん?」


 頭を抱えそうになっていると、シェイズが俺の名を呼ぶ。


「不義理を働いた俺たちに対し、寛大な心遣い……感謝する。虫の良い話ではあるが、もしお前が最終的に【竜牙の息吹】に入らなかったとしても、お前とは……友として付き合いたい」


 そう言って、シェイズは俺に手を差し出した。

 勿論、俺の答えは決まっていた。


「それは願ったり叶ったりだよ。こちらこそ、よろしくな」


 そうして俺もまた手を伸ばし、互いに固い握手を交わした。



「さぁメシじゃメシ!! 美味いものを頼むぞ!!」

「お任せ下さい。メイドとして、今日から料理も含め、家の家事は私が行わせていただきます」

「おぉ! そう言えばお前従者じゃったのう! 当然料理も出来るのだろうな?」

「ご安心を。腕によりをかけ、最高の食事を提供させていただきます」

「ほう! それは楽しみじゃ!!」


 前方を歩くゼノとサイカさんがそんな会話をする中、スパーダとリンゼはその背中を見詰めながら帰路についていた。


「スーちゃん」

「ん?」

「えへへ、何でもない」

「何だよそれ」

「……えーっとね。嬉しいんだ、私。こうやってスーちゃんと何でもない会話が出来たり、一緒に歩けるのが」


 そう言って、リンゼははにかむ。


「それに、スーちゃん昔みたいにすごく楽しそうだもん。だから、こっちも楽しい!」

「はは、そうかよ」


 純真無垢なリンゼの笑顔に当てられながら、スパーダは言う。


「スーちゃん……もう、冒険者辞めるなんて言わないよね……?」


 明るい表情から一転、不安そうな表情を見せるリンゼ。


「……あぁ。最高の冒険者目指して、前に進む気持ちはもう揺らがない。例え何度折れそうになっても、その度に立ち上がってやる……ま、根っこの部分は弱くてロクデナシのままだけどな」


 ニヤリと笑うスパーダに、リンゼはキョトンと首を傾げた。

 それもそのはず。リンゼはスパーダのことをちっとも弱いなどと思っていなかったから。

 直後、彼女は理解した。


 ふふ。スーちゃん、きっと気付いてないんだ。


 心の中で、リンゼは思わず微笑する。  


 スーちゃんは、自分じゃなくて……誰かのためになら、躊躇ためらわずに足を踏み出せる人なんだよ。


 幼い頃、リンゼは幾度となくスパーダに助けられた。

 あの時の彼は間違いなく、自分のことを顧みること無く前に進むを体現していたのだ。


 何度も自分を助けてくれたスパーダの姿をリンゼは見ていた。

 どれだけ彼が自分を卑下しても、それ以上に彼を誇り、憧れる。


 何故なら、リンゼにとってスパーダは変わらぬヒーローであり、愛する人だから。


「おいリンゼ。どうした?」


 立ち止まっていたリンゼに対し、数メートル先にいたスパーダは声を掛ける。


「ん? いや……何でもない!」


 そう笑顔で答えたリンゼは、大好きなスパーダ元へと駆け出した。




◇◇◇

小話:

これにて第一章は終わりです! 次回はキャラクター紹介です!


ここまで読んでくださりありがとうございます!

応援してくださる方は作品のフォローや★評価、感想などいただけると嬉しいです!


※現在『ギャルにパシリとして気に入られた俺は解放されるために奮闘する。』というラブコメも連載中です!

かなりとても面白い感じになってると思いますのでよろしければこちらも読んでいただけると嬉しいです!

作品URL:https://kakuyomu.jp/works/16817330649946533267

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