パーティーから追放された魔力ゼロのロクデナシ冒険者、十年ぶりに再会した高スペックなヤンデレ気質幼馴染達の求婚を回避しながら魔剣を握る!~最高の冒険者になるための魔王奇譚~
第31話 募る焦りと、不釣り合いな挑戦 【過去編2】
第31話 募る焦りと、不釣り合いな挑戦 【過去編2】
初心者パーティーに応募したスパーダは無事入団。
リーダーはリュードという名の男である。
年齢はスパーダと同じで、ついこの間冒険者になったばかりだ。
しかし、そのランクは暫定でCランクであった。
◇
リュードのパーティーに加入して早二週間。
その間にスパーダは十三歳になり、ミランというパーティーメンバーも加入した。
「よっしゃ!! 見ろよこの火力!!」
「へぇ、やるじゃない。なら私も……!」
「すっげぇ!! また威力上がったんじゃねぇか!?」
「体内の魔力の循環効率を良くしたの」
「俺にも教えてくれよ!」
「教えて上げたいのは山々だけど、魔力の流れは人によって違うから自分で何とかするしかないわ」
「なるほどな! 絶対掴んでやるぜ!」
Cランクモンスター討伐のクエスト。
覚えたばかりの魔力操作で強力な魔法を行使し、リュードたちは見る見る内に成長を果たす。
「はは、すごいなお前ら……」
才能が魅せる魔法の上達速度にスパーダは乾いた笑いを漏らした。
「なぁに言ってんだよスパーダ! てめぇだって魔力特性は無いけど無属性型の魔法すげぇじゃねぇか! とても俺たちと同時期に冒険者始めたとは思えねぇよ!」
「そ、そう言ってもらえると……助かる」
そう言った彼の顔は、どこか沈んでいた。
◇
「紹介するぜ。新しくこのパーティーに入るロイドとレナだ!」
「よろしく頼む」
「よ、よろしくお願いします……」
ロイド、レナ。
二人共ランクはBランク、冒険者歴は共に一年。
メキメキと成長し、頭角を現し始めたリュードのパーティーの噂を聞きつけ、ソロで活動していた彼らは入団を希望した。
「ロイドは重騎士、レナは付与術師。これで前衛と後衛のサポーターが一気に揃った! てわけでだ、そろそろ本格的にBランククエストでも受けようと思う!」
暫定でCランク冒険者だったリュードは、その後のクエストクリア実績によってBランクが確定した。すなわち、彼がリーダーを務めるパーティーランクも自動的にBランクへと昇格。
Bランククエストの受注は可能だった。
「えぇ、いいんじゃないかしら。私たちの力なら問題ないでしょ」
リュードの提案に、ミランは賛成の意を唱える。
「な、なぁ。ちょっと頼みがあるんだけど」
その時、突然スパーダが口を挟んだ。
「ん? どうしたスパーダ?」
リュードは不思議そうに彼を見る。
「……少し、休暇をくれないか?」
余裕のなさそうな口調で、スパーダは言った。
「休暇ぁ? 何でだよ?」
「い、いやぁあの……ちょっと、まぁあれだよ! 父さんと母さんに一回顔見せろって言われててさ! しばらく帰ってないし一回家に戻ろうかなって……!」
「あーなるほどな。なら仕方ねぇか。戻ってくるまでにどれくらいかかるんだ?」
「きょ、距離考えて……三週間……くらいか、な……?」
「三週間かぁ。まぁ仕方ねぇじゃあそれまではこれまで通りCランククエストをこなしとくわ」
「そうね。スパーダがいなくちゃBランククエストはクリアできないもの」
「は、はは……そう言ってくれると……助かる。じゃ、じゃあな」
そうして、彼は地方ギルド局を後にした。
◇
「くそ……!! くそ……!! くそ……!!」
地方局から出たスパーダは街道をものすごい勢いで走る。
先ほどの家族の元へ帰省するという話、これは勿論嘘だ。
あの場を抜け出したいがために吐いたスパーダの苦し紛れの言い訳である。
いや、そもそも抜け出したなどという体のいいものではない―――逃げ出したのだ。
あのままでは自分がどうにかなってしまう。
本能的に危機を察したからこそ取った行動だった。
四年前のあの頃、自分は何でもできると思っていた。
Eランクだと宣告されてもめげずに努力した。
その結果がこれかよ!! 俺の
スパーダは心の中でそう思わずにはいられなかった。
「ざけんな!! ざけんな!! ざけんなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
そしてそう叫ばずにはいられなかった。
目に涙を浮かべながら、スパーダは街道をひた走る。
自分の弱さを知った。
だから強くなった。
だけど世界は広かった。
俺の努力を、何でもないみたいに塗り替える奴は大勢いる。
何度も現実を突きつけられたスパーダの心は摩耗されていく。
嫌だ!! 嫌だ嫌だ嫌だ!! 俺はやれる……!! 強くなれる!! 俺はまだ……!!
しかし、まだ諦めない。
世界一の冒険者になる―――その夢を叶えるために、スパーダは再び歯を食いしばる。
このままじゃ駄目だ!! 周りの冒険者との絶対的な差を埋められない!!
そう考えたスパーダは強くなるために、頭を回転させた。
もう一回師匠の元に行って教えを乞うか……いや、あんな啖呵を切った手前、師匠の元には戻れない。
かといってこのままいつものように訓練しても実力は伸びないのは理解している。
案を出しては消し、出しては消す。
そうしていく内に彼の中に一筋の光明が出現した。
そ、そうだ……!!
葛藤に苛まれたスパーダが出した一つの結論
それは自分を追い込むこと。
死ぬ気で、死ぬ思いでの修行がこの現状を打破できると考えた。
何とも子供のような発想だが、この時彼にとってこれは名案以外の何物でもなかった。
それならきっと、俺の真の才能が開花する!! きっと……、きっとだ……!!
そのために必要なのは死と隣り合わせの環境。
追い込むために、追い詰めるために、彼はダンジョンへ潜り込むことを決意する。
しかもよりによって目を付けたダンジョンは、ダンジョンの中でも特にSランクダンジョンとして指定されている『覇ノ墓標』。
階層構造になっており、地下へと続くそれは階層が深くなればなるほど強力なモンスターが出現する。
スパーダはそこに行くことにした。
◇
『覇ノ墓標』が唯一地上へと露出しているのは下層へと行くための入り口だけ。
そこを中心として、半径二キロメートルは立ち入り制限区域にされており、入るには四か所ある検問所のいずれかから入る必要がある。
この検問を通過するのは簡単だ。
冒険者ならばライセンスを見せれば誰でも入れる。
「おいおいマジかよお前」
「ははは!! まだガキじゃねぇか!! バカかコイツ?」
「しかもBランクだってよ。悪い事は言わねぇ、さっさと引き返した方が利口だぜ? ここはSランクダンジョン。お前みてぇな奴が来る所じゃねぇよ」
検問所の兵士三名にスパーダは笑われた。
「いいんだよ!! 俺は強くなるんだ!!」
「強くなるって……その前に死ぬぞお前」
「うるせぇ!! いいから通せ!!」
「はぁ……まぁこっちが拒否する権利はねぇ。後悔するなよ?」
「……するかよ。後悔なんて」
そんなやり取りを経て、スパーダは『覇ノ墓標』の入り口がある立ち入り制限区域に足を踏み入れた。
「おいどうする? あのガキが戻ってくるか賭けようぜ」
「俺はあのまま死ぬことに五十万ネイス」
「なら俺は死ぬのに百万ネイス」
「おい全員死ぬに賭けるなよ。賭けにならねぇだろうが!!」
ハハハハハ!! という兵士たちの笑い声を背で受けたスパーダは唇を噛み締めながら前に進んだ。
制限区域は荒野が広がっている。
ここで何かモンスターに遭遇するというのは無く、十分ほどでスパーダはダンジョン入口へと到達した。
「ここが……」
入り口は何か特殊な鉱石で人の手によって作られたような造りをしており、その正面に立ってスパーダは底知れぬ薄暗い陰気な感じを肌で感じた。
「……」
スパーダは目を瞑り、呼吸整える。
「……よし……!!」
やがて目を見開いた彼は意気込むように『覇ノ墓標』に足を踏み入れたのだ。
◇◇◇
小話:
ダンジョンにもモンスターや冒険者ランクと同様にEからSまでランクがあります。
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