第22話 最悪の邂逅

 三日後、俺たちは王都の東城門に集合していた。


「よし、全員いるな」


 リーダーであるシェイズは俺たちが揃っていることを目視で確認する。


「では行こう」


 それ以上特に何か言うことは無く、各々は手配した馬車に乗り込んだ。



「なぁスパーダ!」

「ん?」


 馬車に揺られていると、ドミノは唐突に俺に話し掛けて来た。

 パーティーに馴染めていない俺に気を遣ってくれたのだろうか。


 一体何を聞かれるのかと思えば、


「好きな女のタイプはなんだ?」


 とんでもない質問が飛んできた。


「はは! どんな人間かを図るにはこれが一番手っ取り早ぇのよ! そいつの人間観が出るからなぁ」

『ははははは! なんじゃこいつ面白いことぬかすのう! まぁ言うまでも無くスパーダの好みなど決まっ

ているが!!』


 魔剣からうるさい声が聞こえる。


「スーちゃん!」


 そして気付けば、隣に座るリンゼが興味津々に顔を輝かせていた。


 まずいな……、この前クルシュの所で危機回避したばっかだってのに……。


 俺の頬に一筋の冷や汗が流れ出た。


「ま、まぁ……そうだな……」


 考える素振りを見せながら俺はちらりと横目でリンゼを見る。


 非常に困ったことになった。

 正直もう監禁されたりすることは無いだろうが、それでも下手にリンゼの機嫌を損ねるようなことを言いたくはない。


 ならば単純にリンゼと答えるか。

 しかしどうだろう……?

 ここでその答えはその場凌ぎに聞こえてしまわないか?

 今はそんなキラキラと顔を輝かせてはいるが、正直に答えれば即座に表情を曇らせる未来が容易に想像できる。


 そんな疑念が俺の脳内を駆けた。


 何と答えるのが最良で最善なのか。

 思考を巡らせていると、思わぬところから助け船が現れた。


「ドミノ。スパーダはリンゼの所に住んでる。彼が好きなのはリンゼでしょ」

「あぁそうか! そういやお前はリンゼの男だったな!」


 いや全くの誤解なんだが……まぁ、いいか。


「ま、まぁ……そんな感じだよ」


 苦し紛れに言葉を投げる。

 エルの後方支援があったことでこれ以上は大して言及されないだろうという推測だ。


「……」


 ちらりと、俺はリンゼを見る。


「♪」


 機嫌が良い。

 どうやらまた危機を回避できたようだ。


 ありがとうエル……!! 今度何か奢ってやる……まぁ、万年金欠だからいつ奢れるかは未定だけどな!!


「?」


 俺の熱い視線にエルはただ首を傾げるだけだった。


『なんじゃスパーダ!! 嘘じゃろ!? お前が一番に思っているのは儂じゃよな!?』


 ちなみにだが、俺の選択肢にゼノの機嫌を取るということは微塵も存在していなかった。



 俺達一行を乗せた馬車はカルー村の入り口に到着した。


 王都から馬車で半日ほどの所にあるこの村は目的地であるホウボウ山のふもとにある村の一つ。

 山に最も近いこの村は、何故かゴブリンによる襲撃を受けていない。


 ゴブリンの巣がホウボウ山にあるのなら、この村は襲撃される確率が最も高いはず。

 しかし実際襲われているのはここから数キロ離れた村。

 あえて巣の近くの村を襲撃しないことでホウボウ山への注意を逸らしていると考えると、大分知的な策略だ。


 それは一先ず置いておいて、何故俺達がこの村を訪れたのか……それには理由がある。


「そろそろかな?」


 そう言ってリンゼは周辺を見渡した。


 この言葉から分かる通り、俺達は人を待っている。

 人……というより集団、『パーティー』だ。


 会合でシェイズが言っていた行動を共にするAランクパーティー、彼らとの待ち合わせ場所がこの村なのである。

 わざわざ馬車を降りて、ここを集合地点としたのは山道が馬車を進められるような道ではないため、そしてゴブリンたちに動きをあまり悟られないようにするためだ。


「お、あれじゃねぇか?」


 ドミノが言った方向を見ると、俺たちと同じように一台の馬車が村へと入って来た。

 そして馬車は俺たちの近くで停車する。


 Aランクパーティーがゴブリン討伐か……。

 大方、シェイズたちのパーティーと関わって人脈を作りたいっていうのが本音だろうな。


 停車した馬車を横目に、俺はそんなことを考えた。


「っと」


 するとそんな声と共に、馬車に乗っていた者たちが下車する足音が聞こえる。


「初めましてだな。【竜牙の息吹】」

「あぁ、今日はよろしく頼む。名簿で既に名前や魔法は確認している。特に何か言う必要はない」

「そうかよ。まぁいい、とにかく……Sランクパーティーと共にクエストができるなんて冒険者冥利に尽きるぜ」

「それは光栄だ」


 ん……?


 シェイズと会話を交わしている男の声に耳を傾げる。

 何故だろう……その声に、俺は聞き覚えがあった。


 だから、振り向いたのだ。

 到着したAランクパーティーの面々を視界に映すように。


「……なっ!?」


 それを見た俺は愕然とした。


「あ?」


 そしてこちらに気付いた相手側も、俺の存在に目を見開いた。


「何で、てめぇがここにいんだよ」

「スパーダ?」

「あなた、なんで……」

「スパーダさん?」


 リュード、ロイド、ミラン、レナ。

 それは一週間ほど前、俺が追放されたBランク……いや、Aランクパーティーの面々だった。


 おいおい嘘だろ……。


 この前無能宣告を受けパーティーを追放されたばかりの俺にとってリュードたちは最も会いたくない人間。それが何の因果が天文学的な確率で再会を果たしたしまったという事実が俺に突き刺さる。


 まずい……どうする、メチャクチャ気まずいぞ……!!


 動揺が加速する。

 加速は心臓の動悸を早め俺の思考を乱し続けた。


 何と返せばいいのか。

 どう答えるのが無難なのか……そんな問いを刹那の時間自身に問い続ける。


 ま、待て……! 一先ず大事なのは印象だ……!! ここで悪印象を与えるのは良くない……!! なら……!!


「っ!!」

 

 意を決した俺は元所属していたパーティーメンバーの顔を見る。

  

「お、おう……一週間ぶりくらいだな!」


 ばつの悪さを必死に隠しながら苦虫を噛み締めるように無理やり笑みを作り挨拶をした。

 

 顔、声音……できるだけ相手に良い印象を与えるように喋ったはず……とりあえずこれで……。


「は? 何のんきに挨拶してんだよお前」

「ですよねー」


 至極まっとうなリュードの反応に、俺は自然と乾いた笑みを浮かべた。




◇◇◇

小話:

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