第8話 灰
徹する、なんて大袈裟なもんじゃないけど。
傍観しようと思っていた。
闘えない少年が戦闘の場に飛び込んだって邪魔になるだけだって、下手をすれば無駄に怪我をするだけってのは、わかっていたから。
けど。
ああ、こういう感覚なのかなって。
身体が勝手に動くってのは。
たった一瞬でも、心も身体も思考もすべてが一致した上で、滑らかに動き出す。
俺は残った一つのかぼちゃのどら焼きと緑茶の小さなペットボトルを引っ掴んで、かぼちゃの保管室へと駆け走った。
「莫迦者!!何故来た!?邪魔だから戻れ!!」
「終わったら戻る」
激昂する娘さんにもっともだと思考も心も同意するが、冷静過ぎるほど冷静な、ともすれば無感情な身体はすたすたと動いて親父さんの前に辿り着き、かぼちゃのどら焼きと緑茶の小さなペットボトルを眼前に差し出した。
糸目だから見ているのかどうなのかわからないけど。
「うちのかぼちゃが使われてんだ。ここのどら焼き。だからすっげえうめえの。栄養補給してくれよ」
「私の分はどうした!?」
「ごめん。食べた」
「莫迦者!!」
激昂する娘さんにもっともだと思考も心も身体も同意しながら、認識しているのだろう。震えながら胸の上で交差させていた手を解いて前へと動かす親父さんに、かぼちゃのどら焼きと緑茶の小さなペットボトルを手渡した。
親父さんは震える手でもたつきながらも包装紙を開いて、かぼちゃのどら焼きに小さく食いついた。
味わっているのだろう。
飲み込むまで時間がかかっていた。
それからも小さく食べて、時間をかけて飲み込んでいた。
その間も娘さんと吸血鬼の攻防は続いていた。
刀と鎌の時に甲高い、時に重低音の音が、かぼちゃの保管室に鳴り響く。
嫌だろうな。
俺は思った。
かぼちゃ。こんな痛い音を聞かされて嫌だろうな。
毎年毎年毎年、聞かされてるんだろうか。
それとも今年だけなんだろうか。
今年は刀と鎌を交じらせてるけど、去年まではハリセンだったとか。
ハリセンも痛いか。風船だったらどうだろう。
あれこれ考えていた俺はふと、親父さんから吸血鬼に視線を移した。
充血した目、歪む口元、しなやかに動いているが、どうして硬直しているように見えるのだろう。
もてなせば闘わなくて済むんじゃないのか。
うちのかぼちゃを使った料理を食べてもらえばいいんじゃねえのか。
閃いた思考のままに身体が動き、保管室から出ようとした瞬間。
圧迫。
鋭痛。
焼痛
脱力。
疑問。
怒涛のようにか、順だってかはわからないが、襲いかかってきた現象。
あれ俺もしかして。
(2022.10.20)
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