第6話 廃業説明会

 令和4年10月1日。受講生への一斉送信LINEにて「本日の10:00より説明会を実施いたします。先日お送りしたURLからご参加いただけると幸いです。参加できない方も多くいらっしゃいますので、動画の録画もおこない、弁護士確認のもと共有可否を判断させていただきます。そのため【カメラなし】【音声なし】でご参加いただくよう、お願いいたします」


 私は確実に説明会を視聴するため、15分以上前に入室しました。しかしY氏のZoomが無料版だったようで、開始5分前には入室できない人が続出していたそうです。

 後からTwitterを見ると、「説明会に入れない」「Zoom見れない」という呟きであふれていました。


 最初の5分は入室者待ちで、さらにY氏側が音声を切っており話し始めても何も聞こえない状態でした。アクションでたくさんの人が反応したため、彼もようやく音声が切れていることに気付いてマイクをオンにして話し始めましたが、手際が悪く不誠実な印象がぬぐえませんでした。


 説明会の内容は29日の一斉送信とほぼ同じ内容で、唯一融資詐欺を行ったとされる会社が株式会社Dだったということだけが新しい情報でした。ただ、Y氏は話し始めから終始画面の右側を見て、怯えるような表情を見せていたのが、カラスの鳴き声とともに妙に印象的でした。

 説明会は10:15には終了しました。正味はわずか10分ほどです。

 SNS上に入室できなかったとの投稿が溢れていたためか、LINE上で「説明会にこちらの不手際で参加できなかった方が多数おられましたので、弁護士判断を待たずアーカイブ動画を共有いたします」との説明とともに動画のダウンロード用URLが知らされました。


 10月2日。事前に質問した内容について、動画内でもLINEでも全く回答がありませんでした。私は焦りと不安でいっぱいで、少しでも情報がないかSNSで探していました。

 そしてSNS上で情報共有と公的機関への相談を呼びかけていた方に思い切って相談のDMを送ったのです。


 10月3日。相談に乗っていただいた方のアドバイスに従ってM社所在地を管轄するN税務署に電話してみました。M社が破産手続き申請する予定らしいが、未納の税金などはないか調査した方が良いのではないかと。幸い、担当の方は丁寧に話を聞いてくださった上で、「犯罪に近い気がするので警察に電話してみては」とご提案くださいました。


 そのアドバイスに従い、続いてN警察署に電話。特殊詐欺の被害に遭ったかもしれないので担当する部署につないでほしいとお願いしました。繋いでいただいたのは組織犯罪などを担当する課のKさんです。

 Kさんのお話では、奈良県警からはスクールに依頼していた会社が存在しない可能性が高まれば受講生に報酬は支払えないから詐欺として調べられる可能性はあるという事でした。

 「とりあえず資料を持ち込んでください」と言われたのですが、さすがに遠方なので私は持ち込めていません。近県の方がお持ち込みいただければ捜査も進むと思うのですが。

 10月4日、このまま泣き寝入りしてはならないと元受講生が情報交換しているグループに参加。みなさんとお話して、困っているのは自分だけではないと、少し気持ちが落ち着きました。それと同時にふつふつと怒りが湧いてきます。

 そこで、情報交換しているグループの協力者さんと相談の上でスクールLINEに質問を送ることにしました。


「警察や報道機関に対して、既に情報提供が始まっています。9月29日までは普通に営業していた会社が、電話すら10月4日には繋がらず、そこもおかしいのではないですか?管財人は誰ですか?」


 しばらくすると既読がつきましたが返答はありません。仕方がないので、Y氏ではなく講師がLINEを見られていた場合を想定して書きました。

「講師の方、なにも知らなかったのであればそれを教えてください。以下に私の電話番号を書きます。LINEでもいいですし、直接電話いただいても構いません。講師の方が、Y氏から何も聞かされずに29日まで働かさせられていたことを証明する最後の機会になるのではないでしょうか?」


 やはり今回もしばらくすると既読がつくのですが、一向に返答はありません。


「9月17日の卒業を9月10日に繰り上げてくださった女性講師の方へ。あなたのおかげで、フォローアップ代金33000円も無駄になりました。あなたが加害者でないとするならば、連絡をして事情を説明してください」


 最後にこう書き送りましたが、やはり回答がないままなので、スクールLINEへの問い合わせはそこで止めることにしました。


※ ※ ※


ヴォーレ「説明会、録画を流しただけって印象だったって声も聞くね」


コニー 「ああ。元受講生でも視聴できなかった人が多数いらっしゃったようだな」


ヴォーレ「そのくせ一部マスコミがちゃっかり聞いてたみたいだけど」


コニー 「それだけ注目されていたのかもしれないな。会見はお粗末だったが」


ヴォーレ「僕はカラスが印象的過ぎて他が入ってこなかった」


コニー 「俺は代表がずっと右側を見ながらびくびくしていたのが気になっていた」


ヴォーレ「それにしても、法人の破産手続が行われるとどうなっちゃうの? 代表個人の破産って一緒にできるの?」


コニー 「代表が個人的に破産してしまうと、法人の代表要件を満たさなくなるため代表が不在になる。その場合、法人の清算が円滑に行えなくなる危険性が高い。だから、代表個人が破産手続開始を申請すると、裁判所から法人も同時に破産手続開始の申請をするよう言われることが多いそうだ」


ヴォーレ「申請されるとどのくらいの期間で何がどうなるの?」


コニー 「通常は破産手続き開始の申し立てが届け出られると、裁判所の審査を経て破産手続開始の決定がなされる。審査期間は短くて1週間、長ければ2か月ほどだな」


ヴォーレ「と言ってもいきなり何の準備もなく届け出が出せるようなものじゃないよね。弁護士さんに相談してから資料作成に2~3か月くらいかかるのが普通だって聞くよ」


コニー 「ああ。さらに、破産手続きをする場合は債務超過しているわけだから清算にも時間がかかる。トラブルが多発することが予想されるので、法人の閉鎖までには2~3年かかるだろうな」


ヴォーレ「破産手続開始が決定されたら官報で公示されるね」


コニー 「同時に法人が解散されるから、清算人は債権者保護のための官報公告を掲載しなければならない」


ヴォーレ「解散した法人の債権者、つまり本来お金を受け取る権利があった人は、一定期間内に代表清算人に申し出てください、ってものだよね」


コニー 「ああ。たいていは期限を最低限度の2か月にしているな」


ヴォーレ「会社が認識している債権者に対しては個別の催告、つまりお知らせもするはずだけど、油断せずこまめに官報を確認しないとね」


コニー 「もちろん、破産手続きが始まってしまう前にも色々とやることがあるぞ」


ヴォーレ「代金をクレジットカードの分割払いにしている人は、まず抗弁書を送ってこれ以上の引き落としがないよう停止してもらわないとね」


コニー 「しかし、やみくもに抗弁書を送っても相手にされないからな。まず消費生活センターに相談に行って、どのように記入すれば良いかも一緒に指導してもらうと良かろう」


ヴォーレ「お住いの自治体の法テラスや、フリーランス110番で弁護士さんに相談するのも良いね」


コニー 「とにかく、一人で諦めずにまず公的機関に相談を」


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