過去にトラウマのある真面目な俺が、水着が似合う爆乳な夏芽雫先輩とイチャイチャすることになったら、実妹と幼馴染が積極的になったんだけど⁉

譲羽唯月

第1話 真面目な俺は、水着が似合う、エッチな先輩から言い寄られたんだが⁉

 春風浩紀はるかぜ/ひろきには迷いがあった。

 それは過去から襲ってくるもの。


 いわゆるトラウマのようなものであり、いくら逃げたとしても、忘れようとしたとしても、その闇は襲い掛かってくるのだ。


 浩紀は過去の挫折から、本当の意味で、前向きにはなれていなかったのである。


「お兄さん、私、少し早めに学校に行きますからね。後はしっかりと戸締りお願いしますね」


 自宅リビング内。学校指定の女子制服に着替え、愛らしいツインテールが似合う真面目な発言をする彼女は実妹の春風友奈はるかぜ/ゆうなである。


 妹はいつも注意深く、浩紀に話しかけてくるのだ。


 食事用のテーブル前の席に座っている浩紀は、そんなことはわかっているから的な発言をした。

 すると、リビングに居た友奈は、食事中の浩紀のことをジーッと見つめた後。じゃあ、先に行ってるからと一言だけ告げ、学校用のバッグを持ち、駆け足でその場所から立ち去って行ったのだ。


 一体、さっきの間合いは何だったんだろうか?


 そんな疑問を抱いている間に、遠くの方から玄関の扉が閉まる音が聞こえたのである。


「俺も、そろそろ、学校に行く準備をするか」


 浩紀はまだ、私服である。

 これから制服に着替え、学校に行く準備をするのだ。


 浩紀は簡単に欠伸をし、今食べ終わった食器をキッチンへと運び洗うのである。


 昨日は徹夜をしていた。

 別に、ゲームをしていたわけじゃない。

 真面目に勉強をしていたのだ。


 浩紀は一応、学年の中でも常にベスト一〇に入るほどの実力はある。

 でも、それは部活をしていないから当然と言えば当然かもしれない。


 他の人同様に、部活と勉強を両立しようとすれば確実に、その上位層から追放されると思う。


 今、浩紀には、勉強することしか取り柄がないのだ。

 それが学校にいるための存在意義みたいな感じになっていた。


 だから、部活なんてやらないのだ。


 そもそも、過去のトラウマを思い出してしまいそうで、部活というものから距離を置いて、高校生活を送っていた。




「……」


 キッチンで食器を洗い終わった浩紀は、リビングにある棚に飾られたトロフィーを見やった。それは中学時代に、とある仲間と一緒に努力し、勝ち取ったものである。

 そして、トロフィーの隣には、その仲間の一人と一緒に撮影された写真があった。


「……どうして、こんなことになったんだろ」


 浩紀には納得できないことがあった。


 そんな過去のトラウマが、浩紀の心を締め付けるのである。


「……やっぱ、あんな部活なんか……でも、今通っている学校には、あの部活はないんだ」


 浩紀は過去から逃れるかのように、中学時代に所属していた同名の部活がない高校に入学していたのだ。


「そんなことより、学校に行かないとな」


 浩紀はその写真を、リビングの棚の引き出しの中にしまったのである。


 もう、あいつのことなんてどうだっていい。


 あいつとはもう絶縁した。

 だからこそ、同じ高校に入学なんてしなかった。


 今の高校に入学してから一年と数か月経っている。

 思い返してみれば、あいつとはもう一年以上も会っていないことになるのだ。


 嫌な、思い出だ。

 昔は、一番の親友と言えた存在なのに、どうしてこうなったんだろうと思う。


 そうこう考えながら、浩紀は二階の自室で制服に着替えた後、妹から指示されたように戸締りをしてから、自宅を後にしたのである。






「おはよ、浩紀君」


 通学路を歩いていると、背後から話しかけられる。その子はクラスメイトであり、小学生からの幼馴染――東城夢とうき/ゆめだった。


 彼女は黒髪のロングヘアスタイルに、少々控えめな感じの言動が良く目立つ女の子である。

 しかし、しっかりと言う時は、ハッキリとしている子であり、意外と侮れない子だ。


「浩紀って、次のテスト勉強はやってる?」

「まあ、それなりには」

「そうなんだね。浩紀君って、高校になってから結構、変わったよね」

「え? そうか?」

「うん……昔は、そこまで勉強する人じゃなかったのに……私と一緒に遊んでくれなくなったし……」

「え? なに? 最後の聞こえなかったんだけど」

「んん、なんでもないよ。聞こえていなかったら、別にいいの」


 夢の言動は少々おかしかった。

 何か、隠したいことでもあるのだろうか?


「そうだ。浩紀君って、部活とかやっていないんだよね?」

「まあ、そうだな」

「じゃあ、一緒に放課後……どうかな?」

「ごめん……俺、勉強しないといけないからさ」

「そうだよね。浩紀君、勉強しないといけないよね」

「ああ……ごめん」

「えっと……じゃあ、私の家に来ない? 私の家とかで勉強とか?」


 刹那、夢の膨らみが、浩紀の左腕に強く接触したのである。


 こ、これって……夢の……。


 おっぱいである。


 夢とは昔からの仲なのだが、柔らかさ的に、かなり大きくなっていると、本能的に察したのだ。


 ……いや、幼馴染に対して、恋愛感情を抱くとか……。


 本当は好きだった。

 昔は、夢に対して好意を抱いていたのだが、やはり、部活をしなくなってから、自分に自信を持てなくなったのだ。


 普通に部活をしている時なら、告白していたかもしれない。

 けど、情けない自分を見せたくなく、夢に告白することはやめたのである。


 それが正解だと思う。


 夢だって、どうせ、こんなトラウマ持ちの自分を好きになるわけないと思い込んでいた。


「ねえ、浩紀君? 大丈夫?」

「うん、大丈夫だけど、今日は……やっぱり」

「そうだよね、ごめんね……じゃあ、私、早めに学校に行くね」


 夢は申し訳程度に、そんなことを言うと、悲し気な瞳を見せ、背後を振り向くことなく、立ち去って行ったのだ。


 これでいいんだと、浩紀は思う。




 そんな中――


「あーあ、泣かせちゃったねぇ、浩紀くーん」

「んッ……真司?」


 二人のやり取りを遠くで見ていたのか、友人の亮仁真司りょうじん/しんじが絡んできたのである。


「そんなんじゃ、夢とは付き合えないぜ」

「そ、そんなのいいんだ」

「へえ、好きじゃなかったのか?」

「そ、それは……でも、俺みたいな奴と関わるよりも、他の奴と付き合った方がいいんだよ」

「はあー、そういうところだぜ。お前がいつまで経っても、夢と恋愛に発展しないのはさ」

「でも」

「そういう発言はやめた方がいいと思うけど。友人の俺からの忠告はちゃんと聞くもんだぜ。そんな考え方じゃさ、いつまで経ってもダメなんだからな」

「……」

「というかさ……まあ、いいや。その話は後だな」

「え?」


 急に話を終了させた友人の態度に驚いた。


「そういえば、真司は好きな人がいるのかよ」

「いるさ。でも、それは高嶺の華過ぎて無理なんだけどさ」

「誰なんだよ」

「まあ、俺は橋本美玖先生さ」

「あの先生?」

「ああ、でも、なかなか振り向いてくれなくてさ。困ってんだよな。俺が学生だからダメなのか? まあ、むしろ、恋愛対象はハードルが高い方が燃えるってもんさ」

「そうなのか?」

「そうだって。っと、噂をしていれば、遠くの方に美玖先生がいるじゃん」

「え? どこ?」

「俺の目には見えんだよ」

「いや、よくわからないんだけど」

「いずれ、お前にもわかる時が来るさ。じゃ、そういうことで」


 友人の真司は、そういうと、駆け足で、美玖先生がいるとされている場所へと向かって走っていったのだ。






 ……夢と付き合えるのか……?


 いや、まず無理だろ。


 真司はああ言っているが、そんな勇気は出せない。


 学校に到着していた浩紀は廊下を歩き、そんなことを思い、教室に向かっていると、急に右腕を引っ張られたのである。


 一瞬の出来事のように、浩紀はカーテンが締め切られた空き教室へと引きずり込まれたのだ。




「い、イテテテ……な、なんなんですか?」

「ねえ、君。私の事、好き?」

「え?」


 浩紀は、カーテンで閉め切られた教室の床に尻餅をついていた。

 なんのことかわからず、誰から話しかけられているのかわからなかったが、声質だけで何となくわかったのである。


 彼女は学校内でも有名な美少女。

 むしろ、学校一の美貌を持つ女の子であり、知らない人はまずいないのだ。


 よくよく目を凝らしてみると、そこにはショートヘアな美少女――夏芽雫なつめ/しずく先輩が佇んでいた。


 しかも、彼女はスクール水着姿だったのだ。


「私の、この姿を見てどう思う? いい感じ?」

「な、なんで、俺なんかに聞いてくるんですか……」


 浩紀はたじたじになった。

 なんせ、正面にいる彼女は、水着から見える谷間を強調していたからだ。


 ヤバいって……おっぱいが見えそうなんだが……。


 暗い場所でも、今は普通の朝のHRが始まる前であり、カーテンから入り込んでくる光も相まって、目が肥えてくると何となく色々なものを把握できるのである。


「君、私と付き合わない? 付き合うんだったら、私の色々なところ見せてあげるけど?」

「え? い、色々な……⁉」


 浩紀はドキッとした。


 ただ、付き合うという意思を見せれば、正面に佇む、水着に隠れた美少女のおっぱいを拝むことができるのだ。


 それは嬉しいことなのだが、やはり、うんとは頷けなかった。


 今は誰とも付き合いたくなかったのだ。


「もう、君は重症だねぇ。こんな美少女のおっぱいを直接見れる絶好のチャンスなのに。これは、君が真面目過ぎるってことかな? でも、安心して、私が君をエッチな思考回路にさせてあげるから」


 と、彼女は言い、スクール水着に隠れた胸元を両手で寄せ集め、その爆乳具合をさらに強調してくるのだった。


 こ、こんなの、ヤバすぎだろ。


 浩紀はいくら真面目さを装っていても、その爆乳には勝てそうもなさそうだと確信してしまったのだ。

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