第20話 敵対者は忍者好き
そのあと怪人は現れず私たちは古代霊廟を目指して移動を開始した。忘れられた街道では時々ザ・マニックス、ノキアス・スイラ、モーキ・モー、テレル・アジャと名乗る怪しい男女を車輪の刑に処した。双子が勝手にやったことだけど敵対者はひっきりなしに現れる。
この底抜けの間抜けさって、敵対者の特徴じゃないだろうか。
本気でそう思ってしまう。
私達は通常ルートの街道と忘れられた街道がクロスするアクエリアン・ノーツの街に到着した。
久しぶりに人の住む町で私は油断しきっていた。
ゆっくり宿屋でダラダラしようと歩いていると侵入異物である敵対者に遭遇してしまう。
その人物とは、どこかのアニメでみたような灰色のフード付きローブに身を包む不審者。目を凝らしてみるとフード部分に大きく手書きで猫型ロボット、既視感ただよう肥満猫を描いている。
絵心のある変質者よね。たぶん。
道行く親子が危険人物に気づき、母親は冷や汗を流して凍りつく。
母親の恐怖は伝わらず、子供は躊躇しない。
「ねえ見てママ、青いオークがいるよ!」
子供が指さすと、異世界人はフードを払いのけ怒りだす。
「そこのクソガキ! ボクのどこがオークだ!!」
「頭にオーク!!」
「よく見ろよ。ボクがフードに描いたのは子供の大好きな“ミケえもん”だぞ!」
イカ墨を塗りたくり黒人のような顔色に、雷に打たれたような紅い縮れ毛アフロヘアー、目つきは悪い。
アフロアメリカン気取りのジャパニーズ少女。
親子は恐れ戦き、火事場から逃げるように立ち去ってしまう。
私は気づかれないようにそっと横を通り過ぎようとした。
それなのに台無しにする者がいる。
「キャツキャツ・キャ!」
「何で笑うんだお前! つるすぞ! コラ!!」
まっ黒くろ
クロイ女はマーメイドを逆さにぶら下げ有頂天。
「あーっ! 何してるの」
女はソフィーの尻尾を握って、両腕をしだれ柳のように揺らす妙なポーズをとる。
そこまでなら許容できた。
それなのに女は追い打ちをかけるように、私に向けて笑顔を作りゴムボールのように跳ねまわりだす。
戦慄する私などお構いなしに、灰色イカが空を舞っていた。
「お魚を陰干しよ。一夜干し! 一夜干し!! 干物っておいしいよね!!!」
「ちょっと返しなさい。その子を」
「はーっ? きこえませーん!! ワンスモアプリーツ?」
「プリーツ? 英語微妙に間違ってない?」
「そ、そ、そこは、いいのよ・よ・よっよ!」
「ところで、あなた誰なの?」
顎を上げてキメポーズをとり、跳ねることは忘れない。
どうやら、やっと名乗りを上げるようだ。
「よくぞ聞いてくれた。日陰者で闇に生きる者。拙者はメフューザス! 弛弓のメフューザスなり!!」
日陰者で闇に生きる者……。どうでもいいけど。
いつもの敵よりまともそうね? 戦力的にって意味だけど。
「黙ってないでなんとかいえよ! 無視されると傷つくぞ」
「アニメが好きで忍者好き?」
「悪いのかよ!」
「いえいえ、なんで忍者がアフロなの? そこが気になって」
「うるさいぞ! ボクの忍法が大失敗しただけさ。聞いて驚くなよ。その名も創作忍法!木っ端微塵だ!!」
「さようにございますか……」
あー、聞くだけ無駄だった。単に火炎魔法で自傷しただけね。
私は指でサインを出すと双子がそろってうなずいた。
「姫様、オークを火炙りにします。新しい魔法ですよ!!」
エリシャが手を上げ、スキリアも同じポーズをとる。まるで戦隊ものみたいね。
「仲良くキャンプファイヤー! 今日はオークの姿焼き」
黒いメフューザスは炎に飲まれて消え失せた。……ように見えたのだけど。
地面からぼろ布をかぶったメフューザスはせき込みながら立ち上がる。
前より黒くなったようだ。
「わかってんの! 髪は女の命よ! ちょっとあんた達、どうしてくれるのよ! 髪が焼けちゃったよ!!」
頭は煤だらけ。突風が吹いて炭化した毛は抜け落ち風が運んでいく。
女は器用にも黒い顔を赤く染める。
まさに活火山。
どこかのご当地キャラのようだった。
「覚えてなさい。一旦撤退よ。ボクは古代霊廟で君たちを待ってるからね!!」
「逃がすと面倒よ。総攻撃!」
エリシャとスキリアは魔法攻撃を開始した。メフューザスは器用に回避していて、今までの敵対者より高度な技能を身に着けている。
「ちょっと、死ぬかと思ったじゃない! 逃げさせてよもう!!」
「逃がさないわ」
「くそ! これでもくらえ!!」
メフューザスはマーメイドを
「忍法・観音隠れの術、土遁・土竜〇れの術、忍〇・微塵隠れ!」
隠れ潜んだかと思えばモグラに最後は爆発……技名とは異なる通常魔法だった。
結局、攻撃するも逃げられてしまう。
あなたエセ忍者ですか!?
私はエリシャがキャッチしたソフィーを受け取り、バタバタ暴れるのを気にせずポケットに放り込んだ。
この子、おとなしくしてくれないかしら。
それにしても初めて仕留めそこなった。まずい、敵の待つ古代霊廟で確実に抹殺しなければ個人情報が漏れてしまう。
非常にまずい。
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