第07話 出会いは不自然

 翌日になって医者から外出許可をもぎ取り家から抜け出した。組合にリハビリを兼ねた奉仕活動にいくと言い張り、いささか強引だが無理やり押し通したのだ。


 行先は王都で貴族街と商業区の境界にある中立地帯、そこに目的地の組合会館はある。貴族や商人、はてには町のごろつきまで訪れるのが組合だ。

 貴族の令嬢が訪れる場所ではない。


 モザイカが言うには組合で守護者と遭遇するイベントが起きるらしい。

 まるで前世のゲームと同じである。


「エレナ、ここでちょっと待っていて。すぐ戻るから」

「いけません! お嬢様! 私もまいります」

「エレナ、命令よ! ここにいて私を待つの。馬車とお馬がかわいそうでしょ。わかったわね」

「馬?? は、はい、でも護衛だけは、護衛をお連れください」

「うん。行ってくるね」


 私は組合の開き戸から室内に入る。中は煙たく朝っぱらから酒の匂いが充満して、ザワザワ落ち着かない雰囲気だ。予想したように控え目の衣装にしたのに私は悪目立ちしているようだ。

 いや、後ろにいる強面の護衛が目立っている。運がいい。


 私は受け付け目指して特攻をかける。

 遮る者はいない。


 カウンターまであと少しなのに私の耳が子供の悲鳴をとらえてしまう。

 横を向くと小さな2人の子供。双子の少女で10歳くらいか。

 厳つい大男に首元を掴まれている。


 殴られた跡があるし、あぁぁ、またしても体が止まらない。


「ちょっと! か弱い子供に何してるの。いい大人が興奮して見ていられないわ」

「は? 小娘は黙ってろ! こいつらは罪人だ。魔女の子だからな」

「え、もう一度言ってくださるかしら! 聞き間違いかしら? 魔女って、過去の迷信ではなくて!?」


 周りの男たちの笑いを取ってしまった。笑われた男は激高して私に向かって来るが、私の身なりと護衛が目に入り動きを止める。


「くっ! 箱入り娘のお貴族様かい。せいぜい夜道には気を付けることだな」

「夜はお家ですよ。ご親切にも心配ありがとうございまーす」

「くそ!」


 男が組合を出るのを見送って少女たちに話しかける。


「人のことは言えないけど、どうしてこんな危ないとこに来たの?」

「私たちは勇者、お姫様を守る薔薇の騎士でもあるの。女神さまのお告げなの」

「え、女神にお姫様?」

っていう女神様! ここにいるとお姫様が助けてくれるって」


 何もしゃべらないほうの少女Bが私を指さしてとろけるような笑顔を浮かべている。

 私が首をかしげたまま見つめると、少女Bは迷うことなく走ってきて私に抱き着いてきた。


 かわいい。


「あ、お姫様だ」

「二人とも……くっつかない。でも、これがイベントなの? 守護者!?」

「はいっ! はいっ!!」

「そうなの……で、あなた達、お名前は?」


 双子の喋るほう少女Aが顔を上げて私に自己紹介を始める。


「わたしはエリシャです。お姫様。この子はスキリア、恥ずかしがりなの」

「そうなのね。ところでご両親はどこに?」

「孤児だよ。8歳になったばかりだけど森に住んでたの。おばあちゃんは死んじゃったから、昨日の夜に死の森?から町まで歩いてきたの」

「歩ける距離と時間じゃないけど……えっと、どうしましょ。ねえ、おばあさんの葬儀は?」

「死の森の奥で死ぬってきかないから、さよならしたの」

「なるほど、危険地帯の死の森で過ごし、老婆に育てられ、それで男は魔女の子と言ったわけか……」

「ばあちゃん魔女じゃないもん」

「わかったから、興奮してつかまない!」


 判断が数秒遅ければ骨が折れたところだったわ。

 私の知る限りトップクラスの怪力。

 勇者って本当かもしれない。


 死の森は古代王朝の墓所があり、異世界につながるといわれる場所だ。

 王都の海側にある封印された場所だったはず。


 魔王が帰還した場所で破壊の痕跡が残る戦争跡地。

 そんな場所に自分の意志で出入りできるのだから只者ではない。


 守護者に間違いない。でも大丈夫なの。まだ子供よ。


「私の名前はカーラよ。カーラ・エレーンプロックス。それで、あなたたちは……」

「あっ、お告げの侯爵様の名前。やっぱり私たちのお姫様だった。言ったとおりでしょスキリア」

「うっ、喜んで振り回さないでちょうだい。手がちぎれそうだから」

「ごめんなさい」

「いいのよ。ところで、あなたたちのお告げでは、この後は何をする予定なのかな?」

「組合に加入して、お姫様のお手伝いだよ」

「私は成人だから問題ないとして、8歳で組合員になれるのかしら?」


 二人は幸せそうにまとわりついてきて何も考えてなさそうだ。

 どちらにしても私の登録が必要だし受付で聞いてみよう。

 カウンターの受付嬢で黒髪のフランス人形のような女性と目が合う。


 こちらからアクションを起こさなければ凡人は私を識別できない……これも運命のようね。


 私は迷いない足取りで、二人を連れて先ほどの受付嬢のもとに行く。


「お待ちしておりました。新規登録でございますね。カーラ様」

「あら、知り合いだったかしら?」

「一方的に良く存じております。登録名は“白百合のカーラ“でよろしいでしょうか?」

「白百合ってどこからきたの……」

「英雄エバートの直系ご子孫で、ご誕生の時に季節外れのユリが咲き誇ったこと、それは識者が記録に残すほど有名なお話です!」

「あなた妙にマニアックね。わたくしは真実とは思ってなかったけど」

「お待たせしました。組合カードです」

「はやっ! 本当に白百合のカーラで登録……」


 出会いは不自然だったけど登録は不思議なほど簡単に終わり、私は少女二人の後見人となることで全員が組合員と認められた。


 それは間違いなく、認定試験の実技判定で二人の能力が超人的だったことから認められたのだろう。


 とりあえず、おすすめの依頼を何個か受けて組合会館から出ることにした。

 別れ際に受付嬢がすべてわかっていますよと、目で訴えてきたのが印象的だった。



 おそらく、彼女も同じ陣営なのだろう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る