第04話 謎を呼ぶ赤いファントム
鈍い頭の痛みのせいで意識が戻る。
なぜか視野に飛び込んでくるのは白一色の空間。
瞬きしても変わらない。そこは一面が白い霧で覆われている世界。死んでしまったのかしら。
引き寄せられるように視線は下に向かう。
足元には澄んだ水たまり。
かたちは気味が悪いほど真円で青と緑と茶色い色が混じりあっている。
覗き込むと、体ごと持っていかれて……水の中。
もがきながら考える。
何やってるのよ。我ながらどんくさい。
『……記憶が目覚めることになります。では……』
は、誰かが私の心に話しかけたの。念話かな。
いやいや、そんなはずはないから、やっぱり死んだのね。
私の頭に断片的に過去の知識が流れ込む。これって前世なのかな?
私は地球、日本で生活していたようだ。記憶は鮮明なのに一部斑のように記憶の欠損がある。
どうやら感情は一切来ない。他人に憑依されなくて一安心。
体を盗られたくないし。
花吹雪が舞い上がってくる。桜、記憶にあるサクラだ。実際に見るとこんなにきれいなんだ。
花びらを運ぶ嵐が私を連れ去ろうとする。
あぁ、夢から覚めそう。
忘れてしまう? この記憶も忘れるのかしら? いったいどうなるの。
「あっ!」
慌てて起きると頭痛がする。薄暗い中、キョロキョロと見回すと自室で眠っていたようだ。パーティー会場から運ばれたに違いない。
ともかく侍女を呼ぼう。
「エレナ、エレナ起きてる?」
誰かの足音がする。
「すみません。エレナ様は先ほど眠られたばかりで、わたくしローラが承ります」
「あ、ローラ。パーティー会場で私はどうなったのかしら。今はいつ」
「会場で怪我をされて、若い男性がここまで運んでくださいました。あれから3日になります」
「思ったより長く眠っていたのね」
「はい、皆さま心配されておいでです。ところで、お食事か何かご用意いたしましょうか?」
家族を不安にさせたことは申し訳ない。
それにしても空腹感はないし食事って気分じゃないわね。
「まだいいわ。えっと、送ってくださった方はどなたかしら。お礼しないと」
「お名前は名乗られず去ってしまわれて、赤髪でワイルドな好青年だったとか」
「赤い髪でワイルド……知らない人ね。パーティーに招待されていたなら貴族だろうけど」
「馬車の家紋から東西どちらかの辺境伯家と門衛が言ってました」
「どちらの辺境伯も紋章は似ていたわね。紋章の中心に小さく描かれた熊とライオンの違い」
どちらの辺境伯にも男子はいるけど赤い髪はいないはず。
一人は明るい茶髪のオスカー君で、もう一人はイケメン金髪でワイルドとはかけ離れている。両家の著名な騎士に赤髪はいない。
該当者がいないじゃない。
とりあえず、恩人のことは一時置いておいて、殿下と婚約解消が成立したか聞かなければ。お父様に会ったほうがいいけど。体調的に後回しね。
「ローラ、少し眠るわ。起きたら食事の準備と目覚めたことを家族に伝えて」
「はい、お嬢様」
とりあえず、蘇った記憶のことを考えながら眠りにつく。まだ忘れてないけど前世の記憶って定着するのだろうか。せっかく思い出したのだから忘れたくない。
その日の昼過ぎになって目が覚め、医者や両親と会ってお見舞いされたり情報交換したりして午後は潰れてしまった。
殿下との婚約は無事解消されたようで、殿下は謹慎中、メアリーは修道院送りになったようだ。
まあ、ろくでなし共と縁切りできたので良しとしよう。
喜びも束の間、医師からは当分安静にするように言われてしまった。
強く頭は打っていないけどショック状態だったのだろう。
目撃者情報では赤毛の青年が魔法で干渉して大怪我を負わなくて済んだという。謎なのは招待者に赤髪がいないと王都で話題になっているらしい。
それって謎のヒーロー誕生だよね!
どうやら巷では恩人のことを赤いファントムと呼んでいるらしい。
ぷぷっ、ファントムよ!
でも、私の壁紙よりはましよね。ちょっと恥ずかしい名前だけど。
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