第754話、転移を活用する敵
51センチ砲搭載する戦艦部隊が取り舵をとり、方向転換した。対するヴォルク・テシス大将の紫星艦隊主力戦艦群もまた、同航戦を維持して、針路を変えた。
水柱が乱立する中、その変針した先には、第一艦隊のもう一つの部隊――山本 五十六連合艦隊司令長官率いる戦艦部隊の正面であった。
『敵艦隊より、熱線砲発射の兆候あり!』
紫星艦隊旗艦『ギガーコス』の司令塔に飛び込んだ報告に、テシス大将は口元を僅かに歪めた。
「転移ゲート
「はっ!」
戦艦ギガーコス艦長のディレー少将は、ただちにこの超戦艦が搭載するゲート装置の緊急発動を命じる。だがすぐに、テシスを見た。
「巡洋艦戦隊が、ゲート範囲外ですが――」
「時間がない。ゲート開け」
戦艦『ギガーコス』を中心に、黄金色のゲート光が展開。それは魔法陣のように戦艦部隊の中心である『ギガーコス』とその前後の戦艦部隊を輪の中に収めた。
次の瞬間、補給船団からおよそ23キロの地点に潜んでいるキュクロス級転移ゲート艦のアルファ・4がゲートを開いたことで、転移が発動した。
・ ・ ・
「熱線砲、発射せよ!」
第一艦隊旗艦『敷島』の命令により、『敷島』、そして左右に四隻ずつ並ぶ芦津型砲撃戦艦と、大沼型軽巡洋艦八隻が、艦首より熱線砲の光を放った。
その光は、当たれば大艦すら一撃で大破、撃沈に追い込む。防御シールドであれば、1、2発は耐えられるそれだが、播磨型やその護衛と砲撃を繰り返している敵戦艦や巡洋艦はシールドを常時展開していない。
まんまと特殊砲撃艦の正面に出た紫星艦隊に、熱線が襲いかかる。その光によって吹き飛んだのは、高雄型、久慈型巡洋艦を一方的に撃ちまくっていたプラクスⅡ級重巡、メテオーラⅣ級軽巡だった。
まさに問答無用の一撃だった。あれだけ盛んに砲門から火と煙を噴いていた異世界帝国の巡洋艦が、木っ端微塵になった。
熱線砲は、異世界帝国の改メギストス級大型戦艦の列にも向けられる。だが、ゲート装置を積んでいる超戦艦『ギガーコス』の転移が発動。先頭の一隻が間に合わず、直撃を受けて吹き飛んだが、残りは間一髪躱されたしまった。
「やったか……!?」
旗艦級戦艦改の大爆発で一瞬、目がくらんだ第一艦隊旗艦『敷島』の艦橋。渡辺先任参謀が思わず口走る。
爆発が消えた時、紫星艦隊主力の戦艦群の姿は見当たらなかった。
しかし――
『対水上電探に反応! 艦隊後方17キロに、大型戦艦級8隻、出現!』
「こちら後方見張り! 敵戦艦群が現れました!」
電探に加え、見張り所からの通報に、連合艦隊司令部は、そこから見えないのに反射で後ろを見てしまった。
源田航空参謀が歯噛みする。
「まさか、転移で逃げたのか! 後ろに!」
・ ・ ・
「全艦、一斉回頭。目標、距離1万7000の日本戦艦部隊」
超戦艦『ギガーコス』とその前後を単縦陣で進んでいた改メギストス級大型戦艦が、方向転換する。
その主砲は、播磨型との砲撃戦ですでに右舷方向に向いていて、射撃までの時間を節約する。
『レーダー連動。射撃用意よし!』
「撃て!」
ヴォルク・テシス大将の短い号令は、ただちに『ギガーコス』の50センチ連装砲を轟かせた。
僚艦の改メギストス級も45.7センチ砲を発砲する。狙われた日本艦隊は、熱線砲射撃隊形というべき横列に展開し、『ギガーコス』にとって都合のいいことに、その中央には、プロトボロス級改装の日本戦艦――連合艦隊旗艦『敷島』があった。
巨大な水柱が、こちらに背を向ける航空戦艦を取り囲む。
「命中!」
パッと爆発の光が見えた。『敷島』の艦尾、飛行甲板を貫通した50センチ砲弾は、格納庫を突き抜け、その下の航空機用ガソリンタンクを吹き飛ばした。派手な爆発と共に『敷島』の艦尾をもぎ取る。
熱線砲を使用した反動で、防御障壁を張るエネルギーはなかった。
葦津型砲撃戦艦にもまた、改メギストス級の45.7センチ砲弾が降り注ぐ。三連装四基、十二発。レーダー射撃に加え、戦艦の砲撃距離としては近い1万7000という距離である。
たちまち『宇賀』『弥栄』『名栗』が一発ないし二発が命中。対41センチ砲弾防御の装甲を穿ち、艦に深刻なダメージを与えた。
他の五隻――うち、敵戦艦一隻を熱線砲で撃沈したことで、どの艦からも砲撃されなかった『葦津』という幸運艦もあったが、他四隻は水柱に囲まれ、いつ攻撃が当たってもおかしくない状況に陥った。
「手早く済ませよう。推定50センチ砲搭載の戦艦群がこちらに向かってくるだろうからな」
テシスはさらに指示を出す。
「パコヴノン隊を、ゲート・アルファ5に再転移。第二次攻撃隊を展開させろ。目標は――」
『日本艦隊より、水雷戦隊が、こちらに艦首を向けつつあり!』
見張り員からの報告が、『ギガーコス』の司令塔に響く。
敵艦隊の旗艦を守る護衛部隊――第十三水雷戦隊が波を切り裂き、転進してくる。
軽巡洋艦『揖斐』を旗艦とし、その後ろに第十三駆逐隊の『霜風』『沖津風』『初秋』『早春』が37ノットの快速で突っ込んでくる。
改揖斐型である古座型軽巡洋艦として再生した『揖斐』は、60口径15.5センチ砲を振りかざし、最高速度37ノットを誇る、次世代の水雷戦隊旗艦用巡洋艦である。
同時に転移中継装置を持つ転移巡でもある『揖斐』は、自艦の周りに他の駆逐隊を呼び寄せることができる。
最高速度38ノットの朝霜型は、『揖斐』に随伴するが、十四駆の陽炎型など艦隊型駆逐艦や二十八駆の白露型など、35ノット前後の艦を、転移中継で先導するのである。
これらが、戦艦戦隊だけで転移移動したテシス大将の『ギガーコス』や改メギストス級に迫る。
「旗艦を守る、か。何とも甲斐甲斐しいじゃないか」
テシス大将は相好を崩す。ジョグ・ネオン参謀長は感情を込めずに言う。
「彼らもまた戦士なのです。その忠誠心には敬意を表します」
「忠誠心だけで戦争には勝てんよ」
冷めた調子でテシスは告げた。
「艦長、副砲で応戦。この『ギガーコス』に近づくことが至難の業であることを、彼らに思い知らせてやれ」
命令は実行される。超戦艦『ギガーコス』には、50口径20センチ連装ルクス三連砲が八基十六門、搭載されている。それらは艦首、艦尾、艦側面方向に最低八門を向けることができるように配置されている。
そしてその三連光弾砲は、すでに射程内にある軽巡洋艦『揖斐』に向くと、その恐るべき威力を発揮した。
突撃のために防御障壁を張っていた『揖斐』だったが、三連光弾の二発に障壁に穴を開け、残る一発の20センチ光弾が、15.5センチ砲に直撃し破壊した。重巡級のパンチを受けて、8620トンの軽巡洋艦はよろめいた。
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