第635話、ベンガル湾転移奇襲戦
ムンドゥス帝国のポース級転移装甲艦は、ヴラフォス級戦艦の艦体を利用して作られた改装艦であった。
組となっている転移装置の間のみ移動可能な、いわゆるゲート式転移の改良型を搭載したポース級は、基準排水量3万トン。全長230メートル、全幅36メートルと、改造前の戦艦に比べ、軽くなっているが、寸法自体は変わらない。
指向性転移装置を2基装備。転移する艦に転移光線を照射したり、あるいは照射した空間を出口に、転移してきた艦が出てくるという仕組みだ。
なお、この光線は通常は目に見えないため、遮蔽で隠れている状態で使用しても、その位置が発覚することはほぼないと、ムンドゥス帝国内では思われている。
カルカッタから撤退した元ゲート守備艦隊を囮にした、日本艦隊の待ち伏せ、殲滅作戦で、ポース級装甲艦は3隻が投入された。
いずれも紫星艦隊の所属で、最新の装備ではある。転移装置を入れる箱としては、旧式とはいえ戦艦なので、積極的に前に出ない艦としては最上級の装甲を持っていると言える。
遮蔽によって姿を隠していれば、まず被弾することはないし、仮に当たっても装甲が防ぐ。……そう思われていたのだが。
天から降ってきたのは、ヴラフォス級戦艦の水平装甲を容易く撃ち抜く46センチ砲弾。さらに内部は転移装置へのエネルギー供給用動力で詰まっていたから、その誘爆たるや凄まじいものがあった。
この内部の脆さ故、装甲が破られないように戦艦艦体を使ったのだ。しかし主砲などを全て撤去してスペースを確保したポース級だったが、想定外の一撃には耐えられなかった。
深山Ⅱからの爆撃により、まず1隻が轟沈した。
そして残る2隻は、T艦隊の伊号潜水艦の雷撃を受けた。伊701からの魚雷により、下方から突き上げられたポース級装甲艦は、落下、叩きつけられたことで艦体をへし折られ、内部装備――供給用動力が破断、爆発した。
やや手間取ったのは、艦隊後方に単独行動していたポース級であった。他艦との位置関係で、予測できていた2隻と違い、比較するものがない故に、攻撃を担当する伊702は、まず遮蔽で隠れている敵位置をある程度割り出す必要があった。
そこで使われたのは、マ式誘導機雷である。これを放ち、艦隊針路に合わせて追尾している遮蔽艦の前に機雷の壁を構築した。
そして、これに引っかかり、ポース級の艦首で水柱が上がったところで、伊702は満を持して装填済み誘導魚雷の一斉発射。
遮蔽で隠れている異世界帝国艦は、防御シールドを展開していない。そこへ連続して誘導魚雷を艦首に集中して撃ち込まれた結果、ポース級装甲艦は、艦首からの大浸水によりバランスを失い、あっという間に海へと突っ込むように沈んでいった。
こうして3隻の転移艦は、葬られた。
これで、残存ゲート守備艦隊、そして待ち伏せ艦隊の増援は現れない。
日本軍の狩りの時間が始まった。
高空の深山Ⅱ大型攻撃機は、転移爆撃装置による46センチ砲弾爆撃を開始。雲を突き抜けて落ちてくる砲弾は、大雨に紛れて、航行する異世界帝国艦に突き刺さる。
航空輸送艦が、たちまち爆沈し、さらに手近な駆逐艦が次の犠牲になる。3発立て続けに46センチ砲弾が落ちてきて2発が、メテオーラ級軽巡洋艦の防御シールドで弾かれたが、3発目が貫通し、全長180メートルの艦体に着弾、吹き飛ばした。
日本軍の奇襲!
異世界帝国艦隊は、見えない敵に備え、防御シールドを展開を徹底。その正体を掴もうと、大雨と風という最悪の視界の中、レーダー、ソナーを駆使するが、敵の尻尾も掴めない。
そうこうしているうちに、艦隊で唯一残っていたグラウクス級軽空母が、連続攻撃に耐えきれず爆発、四散した。
「敵は、空から攻撃してきているかもしれない」
軽空母がやられる直前、シールドの上方で爆発が起きていたと観測報告があった。つまり真上からの攻撃である。
異世界人たちの注意が上に向き始めた頃、ポース級転移装甲艦を撃沈した伊701、伊702、そして伊350、呂401、呂402が、それぞれの位置に移動した上で、浮上。転移中継装置を作動させた。
かくて、第七艦隊、そしてT艦隊が、戦場に転移する。
「目標、右舷側、敵戦艦! 照準次第、撃ち方始め!」
T艦隊、栗田中将は命じる。航空戦艦『浅間』『八雲』はすでに右舷に指向していた50口径40.6センチ三連光弾三連装砲を、敵オリクト級戦艦に合わせて発砲した。
防御障壁を貫通し、ダメージを与える三連光弾砲は、近距離ではほぼ狙った箇所に命中する。
狙われたオリクト級戦艦だが、シールドを上方からの爆撃に対して向けていた結果、横っ面をノーガードから殴られる格好になった。
18発の光弾は、5万トン級主力戦艦の左舷を突き破り、右舷側にまで突き抜けて、派手に艦体をまき散らした。
たちまち2隻の敵戦艦が大破、沈没していく。航空戦艦の後ろを単縦陣で続くT艦隊の巡洋艦、駆逐艦も攻撃を開始して、敵巡洋艦や護衛艦にダメージを与えていく。
一方、伊702の転移中継装置に沿ってやってきた第七艦隊は、敵艦隊後方から砲撃を開始した。
戦艦『扶桑』と、第九水雷戦隊の攻撃は、T艦隊からの横やりに注意を向けた異世界帝国艦隊の背後を衝く形となる。
混乱が加速する中、それでも異世界帝国艦隊も反撃に移る。雨のせいで見難いが、これらは紫星艦隊に所属し、その練度も決して低くはなかったのだ。
だが、T艦隊は一撃を与えた後、次の行動に移った。
転移したのである。
残存するオリクト級戦艦が、左舷に砲を向けた時、風雨に紛れて消えたよう見えた。
だがT艦隊は、敵艦隊の左舷側から、右舷側――呂402潜水艦のそばに現れた。異世界帝国側はT艦隊を見失う一方、T艦隊は敵の反対側へ移動。
しかも先ほどまでは同航していたが、転移で移動した際は、呂402の艦首方向を向いて出現したため、反航の状態となってT艦隊は現れた。
つまり主砲は右舷側に指向したまま、そのまま発砲できる状態だったのだ。転移後、速やかに攻撃ポジションを確保、そして三連光弾砲が光を放った。
またも2隻のオリクト級戦艦が、瞬時に戦闘不能ないし、轟沈する。愛鷹型重巡洋艦も、異世界帝国重巡を瞬時に吹き飛ばし、筑波型大型巡洋艦の30.5センチ砲が、健在な敵巡洋艦の艦体を抉り、行き足を止めさせる。
残る2隻のオリクト級が防御障壁を展開し、脅威と見た浅間型航空戦艦へと主砲を再び旋回させた。すでに左舷側の砲が向いていたが、艦首の主砲が揃うのを待って、一斉射撃をする腹だ。
発砲まではシールドで攻撃を弾くつもりだっただろうが、浅間型の主砲は、その防御を貫通する!
障壁を貫いた三連光弾は、砲撃準備を進めるオリクト級の甲板に命中し、打撃を与えた。
守ってくれるはずの防御が働かず、動揺する異世界人たちをよそに、第七艦隊が追い上げてくる。
重雷装巡洋艦である『九頭竜』や初桜型潜水駆逐艦の雷撃が襲いかかり、トドメを刺した。
転移奇襲により、異世界帝国艦隊は壊滅した。待ち伏せして日本艦隊を撃滅するはずだった彼らは、逆襲されてしまったのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます