第227話、セイロン島、最重要攻撃目標


 セイロン島。インド洋に浮かぶ島であり、大きさは北海道より一回り小さい。


 東西におよそ200キロ、南北に400キロほどある島であり、異世界帝国が支配するまでは、大英帝国が統治していた。

 第一機動艦隊旗艦『伊勢』、その作戦室で、神明作戦参謀は、小沢長官や参謀たちを見回した。


「――現地の異世界軍は、イギリス軍の施設を流用しつつ、この島を占領しています。東洋艦隊とその支援部隊、潜水艦隊の母港であるコロンボ港、トリンコマリー軍港を中心に、その周辺に飛行場、カンカサントゥレイにも飛行場が1つ。他陸軍が1個連隊、駐留しています」


 これは日本陸軍の偵察部隊からの報告でもあり、今回のセイロン島攻略に関しては、陸軍の魔法研究所にも大いに協力してもらっている。


「我々がまずすべきことは、セイロン島にあるE素材タワー――連中の言葉でアヴラタワーを破壊することにあります」

「油タワー」


 山田参謀長が言えば、青木航空参謀も苦笑した。絶対、兵たちの中にもそう言う者たちがいるに違いない。

 神明は続けた。


「このアヴラタワーは、大きさによって効果範囲が異なりますが、特大を除く、大サイズの塔は、半径50キロメートル範囲をカバーしているものと思われます。セイロン島には、現在この大サイズが8つ、確認されており、さらに島の中央に、特大サイズの塔が建造途中となっています」


 この特大サイズは、捕虜からの供述をもとに推測すれば、セイロン島全体をカバーできる効果範囲があると思われる。当然、これを完成させてはならない。


「現状、この8つのアヴラタワーを破壊すれば、異世界人の生存環境が失われ、E素材で作られた艦艇や兵器、個人携帯用装備がなければ、敵は死滅します」

「つまり、基地、軍港要員、1個連隊規模の敵兵の大半を、塔を排除するだけで滅ぼせるということだ」


 小沢の言葉に、一同は頷いた。上陸戦力で言えば、お世辞にも多いとはいえないセイロン島攻略部隊である。アヴラタワーを倒し、異世界人を除外しない限り、まともに戦うのは厳しい。


「青木中佐、説明を」

「はい」


 神明の指名を受けて、青木航空参謀が進み出た。


「敵に我々が塔を狙っているのを悟らせないため、遮蔽装置付きの航空隊による奇襲攻撃をかけます。目標は北からジャフナ、トリンコマリー、アヌラーダプラ、プッタラム、キャンディ、アンパーラ、コロンボ、ハンバントタ。これらにある大アヴラタワーを爆撃、破壊します」


 北部ジャフナ、東部トリンコマリー、アンパーラ、北中部アヌラーダプラ、北西部プッタラム、中部キャンディ、西部コロンボ、南部ハンバントタと、攻撃対象はバラけている。


 主な担当は、奇襲航空隊である第七航空戦隊が担う。割り振りは、ジャフナ、トリンコマリーに『海龍』、キャンディ、アンパーラ、コロンボ、ハンバントタ、に『剣龍』『瑞龍』を当てる。


 アヌラーダプラには、『大和』航空隊、プッタラムには、試製彩雲改――偵察爆撃機型を投入する。

 山田が手を挙げた。


「不勉強で申し訳ないが、試製彩雲改とは?」

「長距離偵察機である彩雲に爆装を施した試作機です」


 青木は、ちら、と神明を見た。


「彩雲には、遮蔽装置を用いての戦場航空観測機としてのテストも行われているのですが、それとは別に魔技研が開発していた新しい装備があるとか。それを実戦で使おうということで今回、運用しようという話になりまして」

「……よろしいのですか?」


 山田が小沢に確認をとった。いきなり実戦に試作機を使うのかと不安になったのだろう。しかし小沢は頷いた。


「やらせろ。これが上手く行くようなら、搭乗員不足の解決策の一つになるやもしれん」


 意味深なことを言って、ニヤリとする小沢である。これは何か知っているな、と察した山田はそれ以上言わなかった。青木は続ける。


「先に、8カ所のタワーを破壊すれば、主要な異世界人の大部分を排除することができると言いましたが、残念ながら全滅とはならないと思われます」


 死体兵や一部ゴーレムと呼ばれる機械のような人工生命体は、異世界人の生存環境とは別のところで活動している。だが、青木が言ったのはそれらではない。


「それというのも、異世界人の拠点間にある軍が移動可能な街道には、塔と同じE素材で出来た柱が設置されており、アヴラタワーの範囲外でも主要道路の周りは、異世界人が活動できる環境となっているのです」

「つまり、タワーを破壊しても、街道を使って移動していた者や、その街道に逃げ込んで難を逃れる敵がいるということだな」


 山田の確認に、青木は首肯した。


「そういうことです。もっとも、彼らとて、ずっと何もない街道にいられるわけではないのですが……。ただ戦車やその他支援車両を利用していた場合、陸軍の進撃の邪魔になります。これらも空から叩くべきだと考えます」


 第一機動艦隊の一航戦と三航戦の航空隊で、アヴラタワー消失後も活動する敵を攻撃する。少数の陸軍部隊のためにも、敵は海軍がすべてやっつけるつもりで掛かるべきである。

 青木が頷いたので、神明が引き継いだ。


「陸軍の攻略部隊はトリンコマリーに上陸後、飛行場と拠点を確保し、街道に従ってセイロン島、各地を回って主な拠点、飛行場を占領して回ります」


 空母『神鷹』に載せてきた陸軍の航空隊も、制空権確保、敵地上兵力掃討に参加する。そして戦車や魔技大隊と呼ばれる陸軍の試験部隊が地上を行く。


「異世界人の占領地の特徴として、前線や重要拠点は防御は厚いが、それ以外の部分はかなり薄いものとなっています。トリンコマリー、コロンボが敵にとっての重要拠点ですが、それ以外の場所は兵力も少なく、タワーの排除ができれば、相手にする敵も極小数となりましょう」


 第一機動艦隊は、陸軍の攻略を支援し、必要であれば沿岸部の艦砲射撃や内陸への航空隊派遣を行う。


「よし」


 小沢が立ち上がった。


「異世界軍が東洋艦隊を失い、当面、インド洋での活動が制限されているうちに、我々はセイロン島を制圧する!」


 作戦の確認を終えて、甲部隊各戦隊、各艦に通達される。そして艦隊は、それぞれ攻撃位置に舳先を向ける。


 部隊は二つに分かれる。第一部隊は、小沢の主力艦隊であり、トリンコマリー方面へ向かう。

 第二部隊は、旗艦を『武蔵』に移した武本中将が率いて、セイロン島の南へと進出。コロンボほか島の南部のアヴラタワー破壊へと動く。


 かくて、セイロン島攻略作戦はスタートした。

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