第182話、現部隊、突入す
攻略第二部隊が、海中から出現した。
第七十二戦隊の大型巡洋艦『黒姫』『荒海』『八海』が、30.5センチ砲でウェーク島本島に艦砲射撃を開始。
軽巡洋艦『鹿島』、第七十三駆逐隊の『黒潮』『早潮』『漣』『朧』に守られながら、特務艦『鰤谷丸』から海軍陸戦隊が大発に乗り、海岸へと突っ込んだ。
異世界帝国ウェーク島守備隊は、上陸の始まった島の東側に部隊を集めるが、そこを洋上の大型巡洋艦、駆逐艦からの砲撃が殺到した。
ウェーク島に配備されていた装甲四足型戦車15両――うち9両が本島にあったが、これらも駆けつける前に軽巡『鹿島』の15.2センチ自動速射砲、駆逐艦の12.7センチ自動砲に狙い撃たれて破壊された。欧州戦線では、かの88ミリ砲クラスでなければ、かすり傷しかできない異世界式重装甲戦車も、艦砲の前にはブリキの玩具の如く粉砕された。
そんな島の東側の戦いをよそに、本島西側に上陸した現部隊は、1個分隊を高速艇の警備、脱出路の確保に残して、残りは島へ侵入、飛行場施設へ突入した。
主要な電源が落ちているようで、辺りは薄暗い。しかし着弾する砲弾、時折上がる照明弾で視界は夜の割には悪くない。
遠木中佐率いる2個分隊は、魔法を使える能力者も多く、現部隊の中でも特に強力な部隊だった。
「第二分隊は、辺りを捜索して、異世界人を見つけたら捕虜にしろ」
「了解です、中佐」
「第一分隊は、俺についてこい。奴らの司令部にお邪魔する。……行くぞ」
遠木は第一分隊9名を連れて、飛行場から東へいったところにある守備隊司令部建物へと向かった。
その構成メンバーは、跳躍魔法の青山兵曹長。転移魔法の志堂一等兵曹。爆裂魔法の大津上等水兵。透視・透過魔法の鵜藤上等水兵、氷霧魔法の桐谷一等水兵、岩石魔法の石川一等水兵、交信魔法の立川一等水兵、破壊魔法の土橋一等水兵、治癒魔法の波川衛生兵長である。
それぞれ得意な能力が異なるが、ある程度、同種の魔法を使う者もいるので、決してその隊員しか使えないということはない。
島の東側では艦砲射撃が突き刺さり、爆音と閃光が連続していた。敵兵は、遠木たちからは背を向けて、上陸した日本軍の方を注目している。
遮蔽に身を隠し、司令部建物前が見える位置に辿り着く。近くに爆撃の跡があって、敵の輸送車両が一台スクラップになっていた。
入り口にはおよそ二十人ほどの兵と装甲兵がいて、土嚢を積んでバリケードを作っている。上陸している日本軍に備えての防御陣地作りだろう。
遠木は暗視と遠距離視野の魔法を発動し、まるで双眼鏡で見るように拡大して、入り口前の敵兵を観察する。
「一個小隊。佐官はいない。……大津、やれ」
遠木が指名すると大津上等兵は、司令部建物入り口前を凝視すると――
「エクスプロージョン!」
その瞬間、入り口とその周りが砲弾が着弾したような爆発が発生。そこにいた敵兵と装甲兵、土嚢を空中へと跳ね上げた。
「お見事」
爆発魔法は、使い方次第で戦車砲以上の火力を発揮する。
「これで表に気を取られるだろう。俺たちは裏へ回る」
遠木は索敵魔法で敵味方の位置を確認し、そのまま気づかれないように建物の側面へ素早く回り込む。
「青山、志堂、桐谷。二階のバルコニーから侵入しろ。とりあえず出くわす奴は無力化。階級の高い奴がいたら、そいつは確保しろ」
「了解です」
「了解」
それぞれ、異世界帝国製ライフルと、それに取り付けられた人間捕獲用麻痺銃のスイッチを入れた。
「行け」
高さ50メートルくらいまでならジャンプできる青山兵曹長が、軽く二階へと跳ぶ。志堂一等兵長が転移魔法で移動。桐谷は、瞬時に自身の体を霧に変えると、やはり二階バルコニーへ上がった。
「さて、俺たちはここから中へ入るとしよう。土橋、頼むぞ」
遠木は窓のない壁を親指で指し示した。
「お任せを」
丸顔でやや小太りの土橋一等水兵は、壁に手をぴたりと当てる。すると壁がぐにゃりと曲がり、やがて崩れて落ちた。即席の入り口ができた。
遠木はWER-05ライフル――オプションで取り付けられる麻痺銃を構えた。
「突入だ」
・ ・ ・
司令部建物内は、入り口で起きた爆発とその消火作業に人員が割かれていた。一方で、建物内にも土嚢を用意しているのは、この司令部に日本兵が来ることを想定しているからか。
遠木たちは侵入すると、出会った敵異世界人に次々と麻痺銃をぶっ放した。
この麻痺銃は、異世界帝国が都市や集落を制圧する際に多用しており、日本陸海軍問わず、これまでの戦場や制圧した基地などから多数を押収していた。
――人間狩りの武器で逆に狩られる気分はどうだ?
遠木はライフルを構え、麻痺銃を撃つ。黄色い光のような麻痺弾は、障害物に隠れられると効果はない。だが遮蔽のない通路では身を隠す場所はない。
さらに言えば、屋内には重装備の装甲兵はほとんどいない。通路を妨げる着ぶくれ体型はもちろん、中身がほとんど死体兵なので臭いのだ。そんな戦闘以外ではお荷物な装甲兵を屋内には置いておくわけがない。
異世界帝国兵や士官も武器を手に応戦してくる。ウェーク島に日本軍が上陸したときいて、全員に武器が支給されたのだろう。だが――
ライフルで武装した集団がくれば、石川が防御魔法でシールドを形成している間に、大津が手榴弾規模の爆発魔法で、敵を一網打尽にした。
「中佐! 盾持ちです!」
土橋が報告すれば、その視線の先に暴徒鎮圧部隊が持つ長方形の盾を持った兵が見えた。
――しかしその盾の強度ならば、異世界製WER-05ライフルで貫ける!
遠木は瞬時に武器を切り替え、ライフルを連射した。持ち主の魔力によって撃ち出される魔法弾は金属盾をミシン縫いするが如く綺麗に貫き、敵兵を射殺した。
『中佐、こちら青山』
魔力念話による連絡が頭に入った。二階バルコニーから進入させた青山兵曹長だ。
『要人と思われる佐官を二名、無力化しました。階級は……おそらく大佐と中佐です』
『ビンゴだ、兵曹長。そいつがここの司令かもしれない。志堂、その要人を転移で移動させろ。立川、「早池峰」に念話通信。これから捕虜を転送するとな!』
『立川、了解』
『こちら志堂。すみません、中佐。わたしの転移魔法で洋上の巡洋艦まで飛ばすと、たぶん、動けなくなるのですが』
――知っているよ、志堂。お前は転移すると、実際に移動させた分、全力疾走したのと同じ量の体力と魔力を消耗することはな。
つまり、一言転移魔法と言っても、彼女の場合は好き勝手飛ばせるわけではない。
「魔技研の秋田中尉からもらった転移札があるだろう。それを使え」
『あ、そうか。了解!』
まだまだ若いな――遠木は、自身も預かってきた転移札を、麻痺して倒れている異世界軍士官――中尉に貼り付けて、大型巡洋艦『早池峰』まで飛ばした。他にも下士官、兵も麻痺しているが、誰を連れて行くかは、きちんと見定めなければいけないが……。
――第二分隊のほうでも転移させているだろうし、あまり人数を連れていくのも、管理が難しいか。
ここが敵地であることを考えれば、長居は無用。上級の佐官も確保したから、占領は後続部隊に任せて、撤収するとしよう。
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