【17】カッコつけていこう

「カッコつけんな」


 素直な子供を見つめながら、素直でない大人で彼の優しさを一蹴した。

 薄ら笑みで予想外なことを言われてしまい、メイドはキョトンとする。

 それでも、その腕は離さなかった。


 ──から、パッとアイリの体から離れると、私は強気に一笑してみせた。

 充電完了! みたいな感じで。


「ロマンチッストな厨二紳士発言を言うじゃないか~、アイリ! しかし、しかし、しかーし!」


 そして、彼の小さな頭にポンッと手を乗せ。


「元気になった、ありがとね」


 と、お姉さんらしく振舞って見せた。

 内心、いまだに凄く恥ずかしかったけど。


 しかし、結果これで良かったようだ。

 私の呆けた様を見て、アイリは笑みを浮かべてくれている。

 美々的美少年女の復活だ。


 二人はこれで良い。


「よし、じゃあどんどん行こかー! さっさと死んじまおうー!」

「はいっ!」

「だけど」


 と、私は美少年女へ手を差し出した。


「……エスコートはしてよね」

「……ええ……もちろん」


 王子様の手を取るように、そのメイドは私の手を握ってくれた。

 普通は立場が逆なのだが、やはり今はこれで良い。

 そして、二人の死への進行は再開した。


「じゃ、互いに不安にならない様に『しりとり』をするってのはどうですか?」

「しりとり?」


 歩きながら、私は見知らぬ言葉に首を傾げる。


「自分が言った言葉の、最後の文字から始まる言葉を相手は喋るんです。『ん』が付く言葉を最後に言った人の負けです」


 なるほど、そういう地球の遊びか。


「んあぁ、解った」

「じゃあ、僕から……では、りんご! 最後の言葉が『ご』なので、『ご』から始まる言葉でお願いします」

「あー把握した。ご……ご、ごごごごごごごごごごごごごごごごごごごご」


 案外思いつかないぞ、これ。


「ごごごご……あ! ゴアリズム!」

「ご、ゴアリ……え、えーっと、じゃあ……む、むむむ……ムカデ!」


 ※


 古びた赤いドアの前に、二匹は着いた。

 互いに相槌を打つかのように一瞥し、今度はアイリから扉を開いた。

 扉の古びた開閉音が心地よく感じてしまう程の生を実感し、同時に死を直感した。

 しかしと歯を食い縛り、店内へ入って行った。

 中はまたまた暗い一方通行の通路で、何もない。

 かと思っていたが──足下から滑りのある異音を聞き取り、どうしたものか。と音先に視線を向けた。

 そこには、呻りながらこちらへと向かってくる“赤黒い触手”が幾つも蠢ていた。


「きゃ」


 アイリは小さな悲鳴を上げ、私の後ろの方へと隠した。

 しかし私は、きっと受付なのだろうと思い、話しかけてみることにした。


「二名なんですけど」


 と、指を二本立ててみる。


「くj9巣{?} m8sga.今/ft錐年越と7」


 金切り声の様な深いうねり音、言葉の意味は無論理解できなかった。

 どう反応したものかと少々困っていたが、触手は私たちから見て前の方へと道を指示した。

 そのまま触手は「ごゆっくり」と言わんばかりに、正体もわからぬまま闇へと消える。


「……行きましょう」


 アイリは私の手を握り、キッとした表情で話しかけてきた。

 私は頷くと、彼はそれを了解とみなし、共に歩き出した。


 すると突然──『通路1メートル先へ、通路と店内を仕切る一つのベールがある』と直感が流れる。

 それは脳に、謎の冷たさと共に入って来た一つの情報。

 そのベールを通れば、店に入る事ができる。


 正体不明で信憑性の無い強制受信情報であるが、それを信じて進むしかなかった。

 ベール前に辿り着くとアイリはすっと手を伸ばし、触れてみた。


「あ、あります」


 では、やはりこの先に──。


「入ろ」


 アイリがコクリと頷き、私たちは漆黒のベールを通り抜けた。

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