第50話 進展

 莉子ちゃんの愚痴を聞き終えた私は、しっかりちゃっかりと彼女と連絡先を交換してから別れた。

 だいぶスッキリした表情だったけど、確かに配信活動とかって意外と人に理解されないからねぇ……。

 ちなみに、愚痴の内容的に、多分九割くらいお姉さんは配信者だと思う。

 それがVTuberなのかストリーマーなのか、はたまた動画投稿者なのかは分からないケド。


「うーん、世間は狭いって言うけど意外と周りに配信者っているもんなんだなぁ。類は友を呼ぶ的な」


 この時代、まだまだVTuberや配信者は少ないし、一部の有名な者だけが台頭している状態になっている。

 勿論、肥溜めはその中でもかなりの上澄みを誇る事務所であり、VTuber事務所と言えば? と聞かれたら大抵上位に肥溜めの名前を聞く。

 VTuber黎明期に先見の明を持ってここまで事務所を盛り上げた現社長は本当にすごいと思う。


「知らない仲ではないし、何とかわだかまりを解いてあげたいとは思うけど……流石にお節介過ぎるね」

 

 家族間の問題はあまり他人が突っ込むべきではない。そこら辺はお節介大魔王の私でも流石に心得てる。

 ……本当に分かってますかぁ……? って心の中のツナちゃんがジト目で見てきてるような気がする!


───


花依琥珀『ツナちゃん。私と一週間接近禁止ね』


ツナマヨ『ファッ!? ど、どうしてですかぁぁ……!?』


───


 これでヨシ……、と。

 明日打ち合わせがあるから結局会うことになるんだけどネ! 現実世界にまで侵食してくるツナちゃんには良い罰でしょ。(ツナマヨは何もしてません)


「まあ、そんな冗談はさておき……おろ?」


 ふぅ、と息を吐くと同時にスマホに着信があった。

 これがツナちゃんからなら3コールくらい無視するけど、電話を掛けてきたのはマネージャーからだった。


「お疲れさまですー。今出先なので外の音うるさいと思うんですけど大丈夫ですか?」

『お疲れさまです。アポ無しですみません……! ちょっと緊急でお伝えしたいことがありまして』

「全然大丈夫ですよ。どうしたんですか?」

 

 何かトラブルでもあったのかなと思ったが、マネージャーの声に悲壮感や焦りといったものは無かった。

 少なくとも悪い話ではないと私は予想する。


『明日の打ち合わせなのですが、プロミネンスさんが参加なさるようで』

「おおっ、参加できるんですね。よかったです」


 私は喜色を滲ませて返答する。

 流石にそろそろプロミネンスさんと打ち合わせを挟まなければいけなかった頃合いだ。

 そういった焦りとは別に、憧れのプロミネンスさんと直に会えることが私は嬉しかった。

 

『ただ……プロミネンスさんの希望で、最初に花依さんと一対一で話したいと仰っているのです』

「ふむふむ。私は構いませんよ」

『ありがとうございます……いや、本当にありがとうございますね、花依さん……』

「随分疲れてますねぇ……私のボイス要ります? 頑張れ、頑張れって言ってるボイス」

『良いんですか!?!?!? 欲しいです。すごい欲しいです!!』

「お、おお……じゃ、じゃあ送っておきます」


 疲れた様子のマネージャーに、半ば冗談で言った提案に彼女は凄まじい勢いで食いついた。

 ……前に何かで使えないかなって感じで録ってみたボイスだけど、まさかこんなところで役に立つ日が来るとは……。

 本当に疲れてるんだね……サービスで安眠ASMRもつけてあげよう。


『これで事務所でも安眠できますし作業に集中できます。──本当は担当マネージャーとしてある程度適切な距離を置いたほうが良いんでしょうけど、花依さんは私の最推しですのでつい……』

「あははっ、マネージャーも肥溜めの一員ですからね。──堕としても私は良いんですよ?」


 外だから控えめに。それでいて花依琥珀らしい囁き声で発した言葉は──


『もう堕ちてますぅ……!』


 ──そんな言葉とともに電話を切られた。

 んー、私ってば罪な女なのかもしれない。

 

 まあ、悪いことじゃないよね!!



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