第6話 行くべき一つ目の道
和姫との出逢いを経て、
夕食には、ハンバーグや親子丼が出るわけではない。白飯に味噌汁、漬物、そして川魚を焼いたもの。そんな、現代の学生である
目を瞑って苦手な野菜を頬張るバサラに、
「バサラ、野菜食べられるようになったのか?」
「苦手なままだけど、食べれるようにならなきゃって思って食べてる」
「そっか」
「うん。だって、ここはオレたちがいた『日本』じゃないもんな」
「……ああ」
思わず思い出したのは、何気ない家族との団欒。
バサラは一人っ子で、両親と共に暮らしていた。両親は共働きだったが、隣の
ゲームもなく、学校もなく、家族もいない。そんな場所に放り込まれたのだと改めて実感しながらも、
何となく箸が止まってしまった
「改めて、オレからも謝る。烏和里のためとはいえ、きみたちのような少年たちを戦の世へ引きずり込んだ。……申し訳ないと言ったところで意味もないのだろうが、ここにいる限り、悪いようにはしない。どうか、力を貸してはくれまいか?」
「お館様……」
「信功様、顔を上げてください!」
髷を結った頭を下げられ、
「お館様。和姫は、おれたちがこの国を救う存在だと言いました。……おれたちがそんな大それた存在だとは思えないです。でも、実際この国に何が起こっているのかお訊きしても良いですか?」
「あ、それ。オレも訊いてみたかった!」
「和がそんなことを言ったか」
眉間にしわを寄せた信功は、皿を下げに来た侍女に人払いを頼む。侍女が下がると、周囲の人の気配が遠退いた。信功の傍には、見えなくとも何人かが控えているらしい。
一時瞑目した信功は、ゆっくりと瞼を上げる。そして、頭の中でまとめた言葉を吐き出した。
「烏和里は、ヤマトの中でも小国だ。しかし鉄が取れるために他国から狙われやすく、昼間のような戦は日常的に行われる。……この度はバサラのお蔭で難を逃れたがね」
「助けなきゃって自然に思って体が動いてたんだ。オレは、信功様や姫様のために何が出来ますか?」
真っ直ぐなバサラの言葉に、
隣を見詰めれば、いつになく真剣な顔をする幼馴染がいる。日本にいた時には見たことのない表情だった。
「バサラ」
「
「マンガの読み過ぎだ。甘くない世界だって、お前もあの時知っただろう?」
それこそ、血で血を洗う死を目の前に、肌に感じる戦場だ。バサラは目を輝かせていたのかもしれないが、
「だけど、オレたちはもう逃げられない。姫様の口振りじゃ、この国を救わないと元の世界には戻れなさそうじゃん? だったら、オレにやれることをするよ」
「バサラ……」
「だからさ、信功様。オレに何が出来ますか?」
ニカッと笑ったバサラは、くるっと顔を信功へ向けた。
信功は少し驚いた様子を見せたが、すぐに気を取り直す。こほん、と一つ咳をした。
「ありがとう、バサラ。きみは幾分、若い頃のわしに似ているようだ。無鉄砲で不器用だが、人を惹き付ける……などと言えば、自慢に聞こえるかも知れんがな」
クックと笑った信功は、パンパンッと
それから数分後、
「克一。来てくれたか」
「ええ、克一です。お館様」
「入れ」
信功の許可を得て、克一がのしのしと部屋に入ってくる。そして信功とバサラたちの真ん中程に腰を下ろし、両方が見える位置で胡座をかいた。
「お前たちの泊まる部屋は確保してある。広くはないが、二人部屋だ。後で案内しよう」
「ありがとうございます」
「ありがとうございます、克一さん」
「何てことはない。……それで、御用とは何でしょう?」
「うむ」
自分の方へ体を向けた克一に、信功は頷く。そして、ちらりとバサラに目を向けた。
信功の視線を辿り、克一もバサラと目を合わせる。
「実はな……バサラをお前の下で育ててはくれまいか、と頼みたいのだ。わしを助けた時の身のこなしといい、心構えといい、克一に学ぶのが一番だろう」
「宜しくお願いします、克一さん!」
「
「はい!」
満足げに微笑んだ克一が去り、部屋には三人だけが残る。
幼馴染に先んじられてしまった
「あ……」
「どうかしたか、
「いえ」
口をつぐみ、
そんな
「
「光明さんのところへ? ……わかりました」
きょとんとしつつも、
「では、また明日。ゆっくり休め」
「はい、ありがとうございます」
「おやすみなさい」
二人が目を覚ましたのは、明け方になってからだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます