南国少女と北国少年
結局、小倉彩音は学校までついてきた。
「怜也さんって脚速いですね」
「まあね」
心底驚いたような彩音。
そんな彼女も怜也のハイペースなランニングについていったせいで汗だらけである。
「じゃ、職員室は校舎入ってすぐのとこにあるから」
そういうと怜也は武道場に戻ろうと歩きだした。
「は、はい、ありがとうございます!」
綾音と怜也はそこで別れた。
「あ、怜也」
しばらく歩いて武道場にたどり着くと、宗太郎が靴を履き替えていた。
「宗太郎、おつかれ」
「おつかれ~」
「あれ、優人は?」
「トイレだって」
「ふうん、そういえば、豹宮女子のヤツが俺のとこに来たよ」
「え? 逆ナン?」
「違う」
きっぱり否定する怜也。
「怜也って女子にモテるよね」
「んなわけないし」
「でも、この間女子に絡まれてたじゃん」
「あれはそんなんじゃない、ってか絡まれるなら宗太郎のほうが多いでしょ」
「いや、あれはそういうのじゃないから」
その言葉に怜也は苦笑した。
「ま、俺の場合は、この銀髪のせいだけど」
怜也は前髪を人差し指と親指でいじる。
「ああ、たしかおばあちゃんがロシア人なんだっけ」
「まあね」
「そういえば、陽真もご先祖様がギリシャ人って言ってたね」
「たしか爺ちゃんの爺ちゃんがそうじゃなかった?」
他のメンバーが来るまでの他愛もない会話を楽しんでいると、
「ふう、スッキリした」
「あ、優人」
「よう、お前らも終わりか」
「まあね、あと何分で来るかな?」
「10分くらいはかかりそうだな」
「ちなみに優人は何分くらい待ってた?」
「宗太郎とほぼ同着くらいだったけど、怜也が来るまで5分は待ったな」
「……フィジカルモンスターどもめ」
怜也はぼそっと言った。
「他のみんなが来るまであと7分くらいだよね」
宗太郎はそういうと時計を見た。ロードワークの終わりの予定までまだだいぶ時間がある。
「じゃあ、俺らだけでも剣道場に行くか?」
「そうだね、先に準備ようか」
怜也、宗太郎、優人の3人が武道場へ向かった。
校舎を出て、武道場までの連絡通路を歩いていると、
「おい、そこのイケメン3人」
突然声がかけられた。やや高い女の声だ。
「え?」
振り返ったのは優人だけ。他の2人は自分のことではないと即座に切り捨て、歩き続ける。
「そこの銀髪と黒髪も止まって」
宗太郎と怜也は一瞬足を止めるとあたりを見回し、自分たち以外に銀髪と黒髪がいないことを確認する。そして、しぶしぶといった表情で振り返った。
「何?」
怜也がやや不機嫌そうな表情で言った。怜也の視線の先には黒い髪を短く切りそろえた少女がいた。
彼女は
「なんか関西の学校の女子がウチに殴り込みに来てんだけど」
「え? ヤンキー?」
怜也は漫画の中でしかありえない状況に啞然とした。
「やだ、怖い」
宗太郎がやや高めの声で言った。カマトトのようなわざとらしい口調だった。
「そうか、ならお前ら剣道部でこの学校を守ってくれ」
「アンタらも剣道部でしょうが」
「女子のほうに殴り込んできたんだろ、お前ら、そのヤンキー女子の彼氏に手を出したんじゃないのか?」
「そんなんじゃないわ」
吐き捨てるように恵子が言った。
「それで? その女子がどうしたの?」
怜也が話を戻そうと恵子に聞いた。
「つい十分前くらいだったかな、その子が突然女子の武道場にやってきたのよ」
「それはずいぶんと命知らずだね」と怜也。
「あんなゴリラの巣窟にやってくるなんて」と宗太郎。
「きっと動物が好きなんだよその女子は」と優人。
「そんでその子『せっかく関西から来たからここでちょっと剣道の試合をさせて欲しい』って言ったのよ」
「ずいぶんと急だね、追い返さなかったの?」
「追い返せるわけないでしょ、ウチらの一個下で、去年全中で優勝した、あの小倉彩音よ」
「へえ、アイツそんな有名なんだ」
「そんでウチの顧問も妙にやる気だして期待の1年をぶつけたけど、見事にボロ負けってわけ」
「あらら、ウチって女子も強いよね」
「そしたら今度は『黒華怜也くんって子とやりたいです』って」
「女子を指名してよ、めんどくさい」
「モテモテだな、怜也」
ニヤニヤとした宗太郎と優人。そっぽを向く怜也。
「だから怜也、10分だけウチに来て」
「やだよ」
「先輩命令よ、来い」
有無を言わさぬ言葉に怜也は溜息を吐いた。
「……はあ、今度食堂でなんか奢ってよ」
「じゃ、麻美ちゃんには俺からうまく言い訳しとくわ」
「がんばってねー」
宗太郎と優人はそういうと男子の武道場に歩いて行った。
※ ※ ※
「あっ怜也だ」
「かわいいー」
「あの子、ほんとに男子?」
女子の剣道場に入るとそんな声が聞こえた。怜也はさっさと終わらせようと竹刀を借りていく。そして、目当ての人物のほうへ向かう。当の彩音は防具を点けているので顔は見えない。
「さっきぶりですね、怜也さん」
「おしゃべりはいい、時間がないから3分でケリをつける」
「えー、もっとおしゃべりしましょうよ」
ふてくされたような声が面の向こうから聞こえてくる。
「練習あるから無理」
怜也は誰も使ってない防具を装着する。そして、彩音と向かい合う。
彼は静かに綺麗な姿勢で相手と向き合っていた。
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