伝説王物語~民がいればいるほど強くなる~

MIZAWA

第1話 無能王子

 俺はひたすら城の屋上から辺りを見回すのが大好きだ。

 大勢の人々が平和な営みを築いている。

 木こりは木々を切って、猟師は森から動物やモンスターを狩っている。

 鍛冶屋は武器や防具を作り、兵士は見回りを強化している。


 本当に沢山の人々を見ている。

 

 いつも通り空を見上げる。

 終わりなんてあるんだろうかこの世界には。

 空には沢山の惑星が見える。

 その惑星には色々な人種が住んでいる。


 今いる大地の惑星すら平和に出来ていない。

 それなのに何宇宙を見ているんだろうって思っていた。

 そんな当たり前な生活が今日で終わるなんて、この時思わなかった。


 人々の悲鳴が聞こえた。

 ここは小さな王国。

 壁の向こうから数えきれない大軍の兵士が押し寄せる。

 今、沢山の国々を滅ぼしているブシャルー帝国と呼ばれる人達だった。

 

 信じられない光景。

 空が割れてしまうのではないかと言う魔法の炸裂。

 ブシャルー帝国が誇る10人の滅び人と呼ばれる人々の無双。


 こちらは七代将軍と呼ばれる猛者達が立ち向かう。

 民達が一生懸命築き上げてきた建物が次から次へと玩具の積み木のように破壊されていく。


 民達は涙を流して必死で逃げる。

 その光景を俺はただ見ているしか出来なかった。

 七代将軍が1人また1人と敗れて吹き飛ばされていく光景を、王子である俺はただ見ている事しか出来なかった。


 俺は周りからぐーたらで無能な王子と呼ばれてきた。

 期待なんてされていない。

 今俺が剣を握りしめて10人の滅び人に立ち向かって勝てる保証はあるのだろうか。

 

 そもそも勝てる訳がない。


 国は夕焼け色のように燃え盛っていた。

 炎が燃え上がり、人々が1人また1人と殺されていく。

 

 俺は初めて怒りを覚えた。

 俺達が何をしたというのだ。

 帝国はこの小さな国エルレイム王国を滅ぼして何が楽しいのだ。


 だがもっと嫌なのは。


「何も出来ない俺だ」


 拳を地面に叩きつけるくらいしか出来ない。


 すると気配を感じて後ろを振り返った。


 そこには1人の王様がいた。

 俺の父親だった。

 俺には魔女の母親がいるが、母はどこかへと旅立ったそうだ。

 双子の弟をつれて。

 その弟は遥か宇宙に行ってしまったと父親がいつも笑って言っていた。


「ロイフル・ゴッド・エルレイムよ、そなたに頼みがある」


「なんだよ親父」


「いいかげん、ハルニレム王と呼んでくれんか」


「ああ、そうだな、ハルニレム王の親父殿」


「まぁいい、お前はこの国が滅ぶ事と民が殺される事どっちが悔しい?」


「そりゃあ、民が殺される事だろう?」


「よろしい、お前は今日から王だ」


「は? この国滅ぶんだろ」


「お前は散った七代将軍と民を集め、国を作るんだ一からな」


「無理に決まってんだろ」


「お前は悔しくないか」


「なぜ?」


「この世界がおかしくないかと思わないのか?」


「なんだと」


「強き者が弱き者を支配する事だ。よーく考えて欲しい、弱い者にも強き者に匹敵する力があるのじゃ、お主は武術はからっきし、頭のほうもからっきし、だが何か力があるはずじゃ」


「はぁ」


「まぁ、いい、父親としてしてやれる事はこれくらいじゃ」


 突如として父親の額に八角の文様が浮かび上がった。

 星のようなその文様は俺の額に瞬間移動した事を悟った。

 額がもの凄く熱く輝いていたからだ。


「その八角の文様が力を授けるであろう、わしは最後の役目を果たそう」


「親父、いやハルニレム王よなぜ逃げないんだ」


「ふ、それは民がいるからだ」


 次の瞬間、俺の体はまぶしい青い光に包まれた。意識が消えていくのを感じた。

 不思議と父親が死ぬことに違和感はなかった。

 これが最後の会話になる事も理解していた。

 それでもいつか会える気がしたんだ。


 意識が途絶えた。


======森の中======


 ゆっくりと瞼を開けると、どこかの森の中だと悟った。

 辺りを見回してもここがどこか理解出来なかった。

 とりあえず、ゆっくりと立ち上がり、額が燃えるように熱かった。

 近くに透明な池があったので、光の反射により自分の額に八角の文様がある事を確認した。


 そして今が朝だという事も知った。

 

 ブシャルー帝国がエルレイム王国に攻めてきたのが恐らく昨日だと思われる。

 あの時は動転していたが夕方だった。


「まずはここがどこかだが」


 その時だった。1人の女性が池で水を汲んでいる所に出くわした。

 

「君、ここどこだ」


「え、あ、あなたはエルレイム王国のロイフル殿下では」


「てか、なんで知ってるの」


「だっていつも城の上で皆を見守っているではないですか」


「知ってたんだね」


「まぁそんな所です。ここはカーゼル村。エルレイム王国よりとてつもなく遠いい場所です」


「そうか」


「私は元々エルレイム王国に住んでいましたが、旅を続けて、カーゼル村で今落ち着いています」


「なるほどな」


「なぜ、そのような王子がここにいるんですか」


「俺が聞きたいよ、とにかくこの村も危険かもしれないから、村長に合わせてくれ」


「はいであります」


 その後、メレルが水桶に貯めた水を強力して運びながら色々な事を語った。

 分かった事はメレルがピロルム・ダザックとミュン・ダザックの娘である事だ。

 ピロルムとミュンは2人で1人の七代将軍とされる。


 彼等は10人の滅び人に吹き飛ばされた。

 死んだかは分からないが。


「きっと生きているはずだ」

「そうだといいのですが」


 メレルは浮かない顔をしながら小首をかしげていた。

 村はとても小さかった。

 数軒の家があり、畑もさほど大きくなかった。

 壁と呼べる存在もなく、盗賊に襲われたらひとたまりもないだろう。


 だがそれを可能にしていたのは、七代将軍の徹底した盗賊や山賊狩りだった。 

 その為、近隣周辺の村の安全は保たれていたが。

 そのエルレイム王国が滅んだことにより、それは不可能とされた。


【把握スキル:鑑定スキル:支配スキルを習得しています】


 突如として頭に響く謎の声。


「なんだ?」

 

 だが謎の声は質問には答えてくれない。


 イメージで把握スキルを発動する。


 村全体を光のキューブみたいなもので覆い、一瞬で把握した。


【男村人10名:女村人12名:子供村人8名】


 というものが頭に浮かぶ。


「この村ってさ人口30名? 君いれたら31名?」


「はい、なぜわかったのですか」


「いや、なんとなく」


 俺は心の中で冷や汗をかきつつも。

 これはつまり、八角の文様の力の1つって事なのか?


 次に鑑定スキルを発動させてみる。

 ちなみに鑑定したのはメレルだ。


【メレル・ダザック:レベル10:職業軽業師】


 このレベルってのも謎だ。

 よく冒険小説で出てきたレベルの概念だとすると、1人の少女にしては高い気がするのだが。


「あそこで、農作業しているのが村長さんです」


「お、おう、メレルかい、水はいつもありがとなー」


「いえいえ、王子を連れてきました」


「はへ?」


「だから王子です。ロイフル殿下ですよ」


「まさかーこんな辺鄙な村に応じが来るわけがないじゃないか」


「いえ、本当です」

 

 頭をゆっくりと下げつつ。ベルトの紋章を見せる。

 運よくベルトは持参しており、王家の紋章がついている。


「はわわわ、本当じゃないのかい、おもてなしなんてできないぞい」


「いえ、それを求めてる訳ではないんです。この村は即座に捨てて、近隣の国に逃げる事をおすすめします。一番いいのは元同盟国だったシルバーズ帝国でしょう」


「それは出来んのじゃ」


 村長はこくんと頷いた。


「この村は神の村と呼ばれて、わし達が守ってきた」


「ですが」


「ロイフル殿下、あなたは逃げられよ」


「それは出来ません、エルレイム王国が滅びたとはいえ、あなた達は民です民を守るのが王です。こんな無能な王でも」


「そうか、まぁ時間はあるじゃろう、ゆっくりして考えてみぃな」


「はい」


 確かに時間はあるのかもしれない。

 それは父親が最後に使った謎の魔法の力。

 あとは七代将軍の命がけの足止め。


 この村だけではない、沢山の村が滅ぼされるだろう。


 自分はいったい何をしたらいいのだろうか。

 無能でぐーたらな自分は、やはり知識がなかった。


「そうじゃ、わしが代表じゃのう、うん、わしたちはエルレイム王国が滅びたとしてもあんたに忠誠を誓うぞ、それが神の村としての務めじゃからのう」


【支配スキルが発動しました。30名の村人の力があなたに反映されます】


「はい?」


 その時、俺に与えられたとんでもない力が判明した。

 それは民がいればいるほど強くなるチートスキルだったのだから。



 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る