第6話 嫌な血筋だ
飛び込んできた音に驚いて、葉月の手の力が緩む。私は精一杯の力で葉月を突き飛ばした。
「はーちゃん!」
なーちゃんが葉月に体に抱きつく。
「なーちゃん、危ないっ!」
思わず叫ぶ。
「大丈夫だよ! はーは、なーのお姉ちゃんだもん」
「そうそう。はーは、なーのお姉ちゃんだからねっ」
同じ口から、二つの声が聞こえた。
「はーを返してもらったよ!」
「なー、やっちゃえっ!」
混乱してきた。
「封印術!! 姉たる葉月の名において」
「妹たるなつきの名において」
「今ここに求む大地の力」
「今ここに求む天空の力」
葉月の体を抱いたなつきの口から、呪文のようなものが紡がれていく。
「ふざ、ける、な!!」
葉月は振りほどこうと暴れるが、びくともしない。想像以上の力で押さえつけているようだ。
『母なる大地と天空の力を持ちて、ここに邪悪を封じん!!』
声がダブって聞こえた。葉月の体から力が抜ける。なーちゃんが支えきれずに倒れ込みそうになるのを、二人まとめて抱え込んだ。
「どういうこと?」
二人をぎゅっと抱きしめながら聞く。はーちゃんの体は気を失ったように力を抜けている。
「お姉ちゃん、あたしの体を守ってくれてありがとう」
はーちゃんの声だ。
「あいつの体の中でね、消えそうになってた時、必死になーに呼びかけたの。そうしたら、なーが来てくれたの」
「はーちゃんを助けるの、当たり前」
「それで、なーの体に入れてもらったの。あのままじゃ消えちゃいそうだったから……」
「何でそんなことができるの!?」
思わず聞く。なーちゃんの顔がいたずらっぽく笑った。
「なーもはーも、おじいちゃんの孫だから。お姉ちゃんと一緒」
「そうそう。あたし達は、はーとなーでやっと一人分だけどね」
「最期の封印術ギリギリだった。いつもよりうまくいった」
「二人で一人になったからかなぁ?」
そうだ、はーちゃんの体。なーちゃんから、はーちゃんの体を半ばもぎ取るようにして受け取る。
「はーちゃん、はーちゃん」
「はーい」
「いや、そっちじゃなくて」
必死に呼びかける。はーちゃんの体は死んだように冷たい。
「はーちゃん、死んでない」
「うんうん。中身ごとはーの体を封印しちゃった」
「それでいいの?」
「……元に戻す方法はわからない」
なーちゃんが初めて沈んだ声を出した。
「大丈夫。おじいちゃんに頼めば……、ってもういないんだった」
はーちゃんが慌てる。
「じいちゃん、あなた達にも、色々教えてたんだ」
「うん。なーとはー。それとお姉ちゃん。三人は才能を受け継いだって。おじいちゃんの世代? で終わりだと思ってたからびっくりしたって」
「お父さんとか、おじさんは才能がないんだって」
隔世遺伝ってヤツか……。それにしてもじーさん……。
「できれば使わないですむといいけど、まんがいちのときに身を守って欲しいって、おじいちゃん教えてくれた」
「そっか、そっか」
私は二人を力いっぱい抱きしめた。
「でもはーはこのままでもいいよ、なーが邪魔なら出て行くけど」
「邪魔じゃない。それに追い出し方もわからない」
「はーちゃんの体の戻し方は、一緒に調べよう。って、おばさん達になんて説明しよう」
やばくね? 私たちの才能のことは、じいちゃんしか知らないはずだった。じいちゃんも自分の代で終わらせるって言ってたし。
「はー、調子悪くなって寝てることにするよ」
「なーは看病してる」
「……わかった。じいちゃんの葬式が終わるまではそうしようか。そのあと一緒に考えよ?」
「よかったー、お姉ちゃんがいっしょで……」
「うん。なーもほっとした」
突然なーちゃんの目から涙が出てきた。
「そうだよね、怖かったよね」
抱きしめる手に力を込める。
「それだけじゃない。なーたちだけ変」
「ばれたら、変な人に捕まるって言われたの。でも話せなかったの」
「大丈夫。これからは全部私に話してくれればいいから」
なんだか私も涙が出てきた。でもここでゆっくり泣いているわけにはいかない。少しだけ待つと、「なーちゃん、勝手口から入って毛布持ってきてくれないかな。はーちゃん包めるくらいの」と、お願いした。
「わかった。いってくる」
「はーもいっしょに行く」
二人は同じ口から別の声を出して立ち上がる。
「はーちゃんは、おうちではしー、だよ」
「わかった!」
なーちゃんが、親指をぴっとたてた。どこで覚えた、そんな動作。……体の支配権はどっちにあるんだろうか?
なーちゃんが、出てきた勝手口に消えるのを待って、はーちゃんの体を抱きかかえる。戦いでついた汚れをそっと拭って綺麗にする。
正直言ってうまくやれる自信は全くなかったが、二人を助けるために意地でもやり通すつもりだった。
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