第28話 WPC普及による諸問題と僕への守銭奴非難
実のところ、僕が持ち込んだWPCは様々な問題を生んでいる。まあ、医療用のものは人の命を助けるものだから問題ないように思うのだけど、実際には結構非難にさらされ始めた。
つまり、例えば癌患者は大変数が多く、その治療は一大産業になっているわけなんだ。特に様々な治療薬だよね。さらに、IC-WPCによって薬に頼ることなく治療できている人が、どんどん増えるとまた薬の消費量が減るわけだ。また、難病の慢性病である肝臓とか腎臓とかもIC-WPCでだいたい治ってしまうんだよね。
だから、トータルとして言えば病院の収入は減っていて、はっきり数値に表れている。特に個人病院では大きな影響を受けているようで、いわば淘汰が始まっているらしい。でも、WPCで治るという病気がどんどん増えている状況で、使わないという選択肢はない。
命に係わる部分は当然であるが、慢性的な病気や骨折を含む怪我なども使えばすぐに治ることが解っていて、使わないとは患者には言えない。でも使っちゃうと従来だったら数週間、場合によっては何年もかかる病気が長くて2~3週で治るとなると、使わないことには怒るよね。
僕は病院の関係者に随分恨まれていると思うよ。面と向かってそういう人はそんなにいないけどね。でも、一線のお医者さんの何人かからは激務から解放されたと感謝されている。でも、医療関係はまだいいんだよ。患者には直接大きなメリットがあるから、WPCの使用に正面から苦情は言えない。
ただ、産業用については、なかなかそうはいかなんだよね。かつてイギリスにおいて産業革命の一環で自動織機が現れた時、それによって失業する人々から打ちこわし運動が起きている。だから、必ずしも便利なものは全面的に“善”ではなくて、ある人々にとっては“悪”の要素もある訳だ。
発電のためのWPCは、世界の温暖化を解消できるもので、人類をエネルギー源の枯渇から救う善なるものだと思うよ。だけど、ある人々にとっては自分の飯の種を奪うものであることもまた確かだ。
それは電力会社が運用する既存のあらゆる発電設備、火力、水力、原子力などの既存の大型発電機に比べ、圧倒的に持続性、コスト、設置面積、環境面で勝る。その証拠が、既存の発電所に急遽WPC方式の発電機を設置して、既存の施設の代替をさせようとしていることに表れている。
また、再生可能エネルギー利用ということで、コストの高い太陽光、風力、小水力発電が導入されようとしているが、温室効果ガスの発生が全くないWPC発電の前にはコストが高いだけに意味がないシステムである。燃料を要しない、水力発電、太陽光、風力発電は壊れるまでは使われると思うけど新規建設はないよ。
でもそうした設備を計画して、作って、売り、設置するために沢山の人々がいて、それで生計を立てているんだから、突然そんなものは要らないと言われても困ってしまうよね。
さらに電気を直接回転に変えるR-WPCによって、モーターの代替にしてしまったし、自動車なんかの回転に変えるためのエンジンの必要をなくしてしまった。それも、従来から言えばうんと安い大容量バッテリーとのセットでね。
これで、エンジン、トランスミッションとかモーターの産業を潰すに等しいことになる。まあ、バッテリーはEXバッテリーを作ってもらえばいいけど、値段は大幅に下がるよね。
また、大きい業界で深刻な影響を受けた一つは石油・ガス・石炭業界だろうね。火力発電は真っ先にWPC方式に代わりつつあって、3年で全部代わると言われている。
また、車のエンジンから電動に代わるのは早くて20年とか30年とか考えていたのが、どうも5年くらいになりそうなんだ。図体が大きくて、その値段が高いトラックとかバスまた船は多分駆動部のみが代わるかな。
工場の熱源は現状では石油かガスが多いけど、これは全部電気になるだろうね。製鉄・精錬だって時間はかかるけどそうなるだろう。つまり、燃料としての化石エネルギーの役割は終わるんだ。だけど無論潤滑油や瀝青材、プラスチックなどの高分子原料は今後も大いに必要だから、そういう用途の石油・石炭は必要だ。
だけど、燃料用に比べるとその必要量は微々たるものだ。だから、国内の燃料系の会社も大変だけど産油国は今後結構大変だと思うよ。だけど、僕は彼らの過去の振る舞いを勉強したからあまり同情はしないな。
それで、これらが世の中に取り入れられるに当たって、僕は実はあまり関わっていない。医療用は僕がパフォーマンスを見せて、病院側が欲しがったというのが実態だから関わった方かな。だけど、電力やら自動車については、これらの産業化自体には僕としては直接かかわっていないからね。
T大を通じて政府、経産省が主体的に関わってのことだと思う。まあ、温室効果ガスの国際的な約束を果たすためというお題目もあったのだろうけど、もう少し導入には慎重であった方が良かったかもね。
発電のWPCとR-WPCの実用化の段階では、国も様々な手で負の影響を抑えようとした。まずやったのは、負の影響と共に正の影響も大いにアピールしたことだ。それは、発電設備にしても、自動車にしても、明らかにメリットがあるので転換が起きるためにそれに相応した莫大な需要が生じる。
負の影響としては、発電所や様々な工場設備が負の資産と化すこと、さらに淘汰される様々な業種が縮小及び消滅するこということが主になる。正の影響としては、まず転換が迫られる電力会社の発電所と自動車会社と関連会社の工場の建設であり、自動車については莫大な買い替え需要である。
さらに、見込まれる電力料の大幅低下に基づき、加えて政府の排出ガス規制による工場や様々な燃焼装置の電気化によるこれまた莫大な設備投資がある。加えて年間15~20兆円に及ぶ莫大な燃料輸入が、最終的には90%以上がなくなることによる日本経済に及ぼす影響は極めて大きい。
だから、トータル的また中長期的には日本全体の経済・雇用についてはプラスになることは間違いない。だが、短期的には特定の業種に極めて大きな負の影響が及ぶ。
その影響については相応した手当が必要であり、税制上の手当に、業種転換の援助、設備転換により生じる特需に不利益を被る業界への割り当てなどを、国として行っている。
にもかかわらず、その実際が知れるとまず株価が大きく変動した。さらには、大手企業はそれなりに対応できたが、下請け、孫請けの中小の企業では職を失う者も出始めた。
それを問題視するマスコミが出始め、なんでも政府のやることにケチをつける野党が騒いだ。彼らも、さすがにWPCそのものにケチはつけなかったが、特定業種の株価の暴落、失業者の発生について非難した。
このことでマスコミがさらに騒ぎ、その中で僕のことはWPCの火付け役としてある程度漏れており、週刊誌の記者から何度か取材の申し込みがあった。
当然僕は断固として断ったが、あちこちから情報を仕入れたらしく、僕のことが週刊真実に書かれた。曰く、“少年A、日本の産業界を引っ掻き回す”という見出しで、書かれたその記事は1)僕が“いのちの喜び”の発売、WP能力の処方、WPCの開発に携わった人物で、2)碌に中学にも通っていないこと、3)医療用のWPCを作っている、4)K大学の技術研究所に関係している、などの内容で概ね事実である。
さらに、少年であることをいいことに、様々な暗躍をして莫大な利益を上げているとして、いかにも怪しげであることを強調している。内容的には週刊Bが以前に書いたことを一部使っているが、基本的には伝聞的内容であり、僕の家ではほうっておいた。
しかし、野党が騒いでいる案件とマッチしているために、テレビのバラエティー番組でも取り上げられて、いかにも怪しげな“少年”として扱われた。まあ、中学を卒業して、高校にもいかず就職もしていないプー太郎と言えばその通りだもんな。でも、そのうち消えるだろうとこれもほうっておいた。
ところが、週刊Bが参戦してきた。今度は、医療用WPCの活性化の報酬について突っ込んできたのだ。
“医療用WPCの製作で2億円以上を稼いだ少年”というキャプションで、いかにもけしからんという論調であり、それを支払ったWPC製造㈱を問題視している。記事は『15歳の少年に、公的な資本が入っている会社がそのような大金を支払うことが国民感情に沿うものだろうか』と結んでいる。
そして、またそれに野党が乗っかった。WPC製造㈱には政府資本が入っていることは知られているので、政府の失策として突いたのだ。だが中身としては週刊誌と同じで、僕という少年A個人にそのような大金を払うことを国民感情が許さないという訳だ。
表に出てきたのはタレント上がりの帰化女性議員で、いろいろ言った挙句最後に言ったよ。
『13歳から始まって現在15歳の少年に、いくら医療用WPCと言っても2億円以上の報酬を払うなんて許されません。国民感情からも許されません。今後WPC製造のこうした報酬には徹底的にメスを入れます!』
僕はいささか頭にきたよ。一つにはWPC製造㈱から、僕に払われた金の正確な数値が漏れていることだ。これは会社の誰かが漏らしたとしか考えられない。それとWPCの活性化に正当な報酬を取ることは、WPCを産業の一環として根付かせるために必要なことだ。
だから、少々額が大きいと言われて引いていたんでは、話にならない。だから、僕は極端な手に出た。まずは、WPC製造㈱への縁切りの声明文だ。
『貴社は、私に対する過去の支出という個人情報を、明らかに悪意を持って外に漏らした。組織としての行為でないにしても、社員にそのような行動を許す相手をもはや信頼することはできない。
従って、貴社との医療用WPCの供給の契約は解除する。また、国民感情が許さないようなので、過去貴社から受けとった報酬のうち、リストにある寄付金を除いた〇〇〇円を返還する』
僕は会社と医療用WPCの供給の契約をしているけれど、僕の意向でいつでも解除できるようになっている。
さらに、週刊Bと女性議員にWPC製造㈱と同様にネットに声明文を出した。
『貴殿は、私が医療用WPCをWPC製造㈱へ有償で供給することを不当であると断じた。私はそれが正当であると信じ、かつ人々のためと思って無理を重ねつつ、供給要請に応じてきた。しかし、貴殿はそのように断じ、それに同調する意見も多いようなので、私は医療用WPCの供給を停止する。
今後は、世界の人々がこれを待っていることを承知して、貴殿が私に代わってその供給をされることを望む』
差し当たってWPC製造は困っただろうね。アジャーラが、活性化を開始したと言っても、現状ではその供給数は僕の精々1/3だ。すぐに大々的に犯人探しが始まったらしいね。
WPC製造㈱は、僕の声明文を受け取って2日後に記者会見を開いた。週刊Bの記事と女性議員の声明はそれなりに注目を集めた。両者とも同じ趣旨のネット記事を出したので、様々な意見が寄せられている。
6割くらいは彼らの意見に同調するものであったが、3割くらいは反対またはあいまい、1割は強烈に両者を非難している。強烈に非難している彼らは、大体が医療関係者または本人または近親が医療用WPCで治療された人々である。
さらに、これはすぐに英訳されて国際的な話題になっており、海外にも飛び火して両者には英語での強烈な非難が寄せられている。海外からのコメントは、ほぼ100%が両者を非難するものであった。
記者会見の出席者は、WPC製造㈱からは社長の野上健三氏、医師会会長山名春樹氏、アメリカ大使アラン・ピーターソンであった。アメリカ大使には通訳がついており、司会進行はWPC製造㈱が行っている。
それなりに話題になっているテーマとあって、50人ほどの記者やカメラマンが出席しているが、週刊B社も来ている。
なお、ライブ中継はUチューブのみである。
まず、野上社長から陳謝の言葉があった。
「この度は、弊社の管理不行き届きのため、このようないわれのない騒ぎを引き起こし、かつ俎上に挙げられた浅香修氏には不愉快な思いをさせたことを深くお詫び申し上げます。週刊B社に対し、悪意を持って重大な個人情報を抜き出し渡した社員は特定しまして、すでに〇〇検察庁に告発しました。
さて、週刊B社はこのように違法に得た情報を用いて、浅香氏を非難中傷したわけですが、この場でその非難が全くの的外れのあることを明らかにします。そのために、ここに同席された医師会会長山名春樹氏、アメリカ大使アラン・ピーターソン氏の助けもお借りすることになります」
野上は一旦言葉を切り、会場を見渡した後に再度続ける。
「さて、浅香修氏は、まだ少年でありますが、すでに様々に話題になっているように、この世界にWP能力を紹介し、WPCの概念を持ち込んだ人物であります。他の分野のWPCは置いておいて、ここでは医療用のWPCのみに限って話題を絞らせていただきます。
さて、最初に医療用のCR-WPC、IC-WPCの名をつけ開発したのは浅香氏であります。そして、現時点では彼一人が、それを活性化というか制作ができます。(アジャーラのことは意図的に伏せている)これは、浅香氏がその製法を隠しているわけでなく、単に他の人ではWP能力が足りないのです。
CR-WPCとIC-WPCは、現在当社から国内では100万円で医療機関等に売っており、海外では2万ドル空港渡しで国家機関に売っております。これは公表されているのでご存じだと思います。この国内向けの100万円という価格は、浅香氏本人が周りと相談して決めたと聞いております。山名先生いかがですか、この値段は?」
「安いです。安すぎます。いいですか、今国内には1812台のCR-WPC、IC-WPCがそれぞれ半数ずつあります。それらには、よほどの大病院以外はどこかに常設されることなく、専門の輸送部隊によってさまざまな病院に運ばれ使用されます。
強奪事件があったこともあって、自衛隊がその警備の専門部隊を作っています。現在までに、これらの使用された回数は100万回を超えており、52万人の患者の治療に使われました。
その結果として、ほぼ確実にこれらがあったから命を救われた人が8万2500人おられます。残りも大部分が完治して、従来の治療に比べかつ1/3程度の時間で治療を完了しています。
これらによって、効果がある病気や症状が未だにどんどん増えており、我々は海外を優先して現在絞られている国内への供給を増やすことを熱望しています。しかし、日本の状況に照らして海外でどれほど望まれているかわかるだけに我慢をしているところです。
私は、最初に浅香氏が医療関係者に囲まれてこれらの医療用WPCの供給を約束した場面を何度か聞きました。彼は供給した値段を聞かれ、100万円と言ったそうです。実はその時、大部分の私の仲間は1千万円以上を覚悟したそうです。実のところ1億円と言っても買ったでしょう」
その言葉に記者席はざわついたが、週刊Bの記者の顔はこわばっている。
「実際に、海外の闇市場では100万ドルを超えていると言います。私の同僚たちは、その浅香氏に値打ちが解っていないからだと思ったものが多かったようです。しかし、彼が入札を否定したことから、解ってのことで患者にできるだけ負担を掛けないということのためと気が付いたと言います」
そこで、再度野上社長が代わって話し始める。
「さて、医療用WPCの当初の話が出ましたが、わが社WPC製造㈱は、当初はみどり野製菓の関連会社だったのを政府も入って経営権を譲りうけました。その時点で、浅香氏とは契約を結んで素材を提供してその活性化を1台10万円としたわけです。
そして、彼は2年余で2千3百台余りのWPCを製造してくれました。
週刊Bと参議院議員の永豊氏は、その価格を法外と非難されているわけです。そして、浅香氏には受け取った報酬は母上に渡し、母上はその8割を国境なき医師団や、赤十字社などに寄付されておられます。
さらに、2日前に残りのお金を私どもの口座に返金されました。つまり、個人としては現在一切お金を受け取っていません。
私は、週刊Bと永豊氏に抗議します。あなた方は何をもって、その報酬を法外と言って非難したのでしょうか?その点を明らかにしてほしい。私がいま述べたことをあきらかにした以上、曖昧な国民感情なるものはないはずです。そして、責任を取ってあなた方が閉ざした医療用WPC入手の道を再度開いて頂きたい。
その点は駐日アメリカ大使閣下からもお願いしましょう」
白人のアラン・ピーターソンがしゃべり始めるが顔が赤い。
「私は、まずこうした場を与えてくれた野上氏に感謝する。ただ、彼には自分の会社の統制できなかった点に苦言を呈したい。さて、私は我が国において、浅香氏によって供給されるWPCがいかに待たれているか紹介したい。
現在我が国に入っている医療用WPCはわずかに186台であり、3億人以上の人口に比して日本にある1800台以上と如何に少ないかお分かりであろう。
そして、わが国では1台のWPCに対して3人の輸送部隊が付いており、ヘリ、飛行機が常時用意されている。我が国は少なくとも3千台のWPCが早急に欲しい。それを待ち望んでいるところであるが、最近新しいタレントが見つかったということで大いに期待しているところだ。(アジャーラのことをばらしている)
しかし、そこに今回のニュースである。週刊Bと、議員である永豊氏は、世界中の国地方そして医療機関から激烈な非難を浴びることを覚悟してほしい。そして、私は彼らを代表して言う。
週刊Bは廃刊しなさい。議員である永豊氏は直ちに議員を辞めなさい。君らにはプライオリティが解っておらん」
そして、その言葉は国内のあらゆる医療機関、100以上の国の大使館そして無数の個人から、メール、ライン、電話、文書をもって週刊B、永豊の個人事務所に浴びせられた。
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