第24話 WPCの活用方法の拡大2

 作業小屋で、3人のK大生から事情を聞いて僕は思ったね。多分政府は、WPCの技術で日本の世界の中での地位を高めようとしているのだと思う。情報社会の現在の社会構造では秘密をいつまでも保てないから、ある程度日本にその技術を根付かせてから、徐々に公開していこうというのじゃないかな。


 だけど、外に向かって秘密にするということは、中へもあちこちを秘密にすることになって、それを使っての自由な研究が出来なくなる。結局、そうなると国内のWPC技術の急速な発展は望めないということだ。多分政府が警戒すべき相手として、最も頭に置いているのは隣の中国だろう。


 だけど、バーラムと一緒に歴史を学んで解ったのは、中国は古くから文明が栄えて、文化も栄えて世界的に見て圧倒的に豊かな時代が長かった。

 そして、その圧倒的に豊かで、文化的にも優れた時期に、それほど周辺世界に悪さはしていないんだよね。


 日本もそうだったけど、周辺の蛮族から朝貢してくると、何倍も贈り物を持たせて帰したしね。なにしろ日本の文字は最初全て中国からだし、制度もすべてその真似だよ。その点では、比べるとヨーロッパの白人連中のほうが何倍も質が悪いだろうね。


 たまたま、遠くに行ける技術を開発し、さらに銃による戦争技術を確立した時期に、世界の裏側まで出かけて行って略奪、強姦、殺人やり放題だよね。その点では中国は被害者の立場の期間が長かった。周辺の騎馬民族からが特に長かったし、ヨーロッパからもひどかったよね。


 ほんの一時期だけど、日本も十分加害者だったけどね。アヘン戦争なんて、イギリスは曲がりなりにも文明国を自称していたんだよ。その連中のやることかね。

 その連中が、今はヒューマニズムを言い立てて、他を非難しているのだから、ちゃんちゃらおかしいよ。まあ過去の反省に立ってだったらいいのだけど、そのあたりは完全に口を拭っての話だからね。


 まあ、今の中国の自分のことしか考えていないような、共産党の連中がいいとは思えないけど、彼らが白人連中の言うことをせせら笑うのは解る。それに、過去のことを考えれば“自衛”として軍備を拡張するのも解るな。もっともそれが、日本にも向いてきそうなんで、困るのだけどね。


 僕は、今後環境やら水やら資源の問題で世界が弱肉強食になった時は、最も怖いのは白人連中だと思うよ。連中は深い所では有色人に対して差別感情を確実に持っている。だから、一つタガが外れると自分たち以外を人間扱いしない可能性がある。核なんかは平気で使う可能性があるな。

 実際に白人の国のアメリカは、核の危険性を知っていて有色人の国日本に使ったものね。すでにボロボロで抵抗のすべの殆どない日本にね。


 話が逸れたね。熱心に教えを請う彼らに、じっくり僕の描いたWPCの回路図を説明して、除去物質を特定するコツもバーラムから学んだことを教えた。彼らが中学生の僕を侮ることなく、ちゃんと教えを請う姿は交換が持てた。


 だから、真中さんを含めて3人に話をしたよ。

「どうですかね。今度は2つのテーマでWPCの応用の事で話をしましたが、まだまだ、応用が利くテーマは沢山あるのですよね。どうも、政府はあまりこれを世に広げたくないようなのですが、僕はもっと広げたいと思っています。どうですかね?」


「うん、それは是非お願いしたい。僕らの大学の先生方はWPCに関する情報が制限されていることに不満を持っている。その一方で、T大では我々が持っていない情報も明らかに持っていて、僕らが出来ない研究を進めている。

 もし、浅香君が今やってくれたように知識を広げてくれるんだったら、先生方に話をして、必ず僕らがその場をセットするよ。それは是非実現したいと思っている」


 無口の黒田が目を輝かせて言うと他の2人も深く頷く。

そして、「私もやるわ」「もちろん、僕もやるよ」と、人とも前のめりだ。


「そう言って頂けると思っていました。僕が今まで接触していたのは、父のこともあるのでほとんどT大でした。でも、あそこは政府と近すぎると思うのですよね。だから、この際お宅の大学で、その応用を広げる部分をやって欲しいと思います。

 こう言うとうぬぼれに聞こえるかも知れませんが、WPCの回路についてこの世界で一番解っているのは僕だと思いますよ。月に何回か僕が京都に行くとして、さらにこっちで場所をセットするので、こっちにも来てもらいましょうか。もうすぐ、僕も中学卒業ですが、高校には行きませんので自由は効くはずです」


「ええ、修はん、高校いかへんの、なんでまた?」

 諸屋嬢が聞くがそれに対して、さつきが答える。


「時間の無駄ということになりまして。すでに、高校の過程はやってしまって、大検も受かったし」

「だけど、学業だけじゃありませんわね、高校は。ちょっとどうかと思いますわ」

 と言う諸屋嬢。


「いや、僕もそう思いますけど、時間がないというのも事実なのですよ。複雑な思いはありますが……、でもお陰で京都に行く時間も取れるし、来られる方々へのこっちでの話もできます」


 実のところバーラムにも高校には行くべきでないと言われたのだ。彼の意見は、『しょせんオサムでは、高校生はあまりに感性が合わない』ということだ。まあ、バーラムと日常語りあっているのだから、そうだよね。それに、間もなくアジャーラが来るし、寂しくはないよ?


「はあ。まあ僕らは助かるけどね。では早速帰って先生方に運動しなきゃ、たぶん一度だれか先生がこちらに来ると思いますが、その場合はよろしくお願いします」

 今度は黒田が言うのに、僕は応じた。


「そうでしょうね。中学生から教わるなんて言っても『正気か!』と言う感じですよね。ですから、本当の話をしておきます。ただこれは人に言っては困りますのでその点はご承知下さい」

 そして、僕はバーラムの話をして、彼が取り憑いている僕が普通ではないことを説明した。普通でないと言うのもなあ、複雑。


「なるほど、そうでないと、WP能力とかWPCなどが出てくるわけはないですね。信じがたい話ですが、そのようなことがないと、今起きていることの説明ができませんね」

 僕の話を聞いた後で言った真中に、他の2人も頷いている。そこで、僕は付け加えて言った。今後のコミュニケーションの話だ。


「今後実際の行き来や研究の話は、スマホは使わず、さらにインターネットは、危ないので絶対に使わないようにしましょう。電話の代わりは、これが念話のためのWPCです。

 皆さんは、実際に念話ができるほどのWPの出力はありませんので、これでWPを増幅して念話を行うのです。

 特定の人のWPの特性を思い起こして呼びかければ繋がります。ただ、無論相手の都合が悪ければ、その旨を伝えて切ることになります」


 僕は3人に、小さめのマウスサイズのWP増幅機を渡して、さらに付け加える。

「また、インターネットについてはこれを電話回線に取り付けて、相手の番号を呼び出せば普通に通信できます。

 秒速で1GBはいきますから相当の容量でも大丈夫です。電話線の中の通信はWPの一種ですが傍受はできません。電話料金は掛かりますが、時間が知れているのでまあ、問題はないと思いますよ」


 僕は、今度は彼らにスマホ程度の大きさの別のコネクターを渡した。これはT大で開発されたものだ。


 このようにして、彼等は帰っていったが、さてどうなるかと思ったが、事態は思ったより早く進んだ。翌月曜日の午後、黒田から念話がありK大の教授たちが僕と話したいというのだ。それで、こちらに来ると言うことだったが、この際は視察も兼ねて京都に行くことにした。


 桐川調整官は僕の説明に「ふふふ、面白い。修君もようやく自分で動くつもりになったのね」そう言って笑って、続ける。


「確かに、政府がWPCのことを秘密にするのは解るけど、実用化を進め、広げるには思い切って情報を広げるしかないわ。その意味で言えば、実質的にT大に限っている情報が多いのだけど、実際にはそれに対応する成果がでていない。これは、一つにはあなたとの接触が足りないのだと思うわ。

 だから、あなたがWPCの実用化を進める気になって、K大と当面組むならいいじゃないの。それで、成果が出始めるでしょうから、T大のみならず他の研究機関や大学からも情報公開の要求が高まり、貴方との協業の要求も高まるでしょう。いいのじゃないかな。行きましょう、京都に。ウズベキよりましよ」


 僕は、桐川女史にウズベキと同じメンバーの護衛の2人を連れて、翌日の新幹線に乗った。また学校は休みであるが今更だ。経費は僕持ちだよ。まあ、こういうことのために、稼いでいるからいいんだけどね。でも、当然のような態度の桐川さんには、少しイラっと来るのは僕の心が狭いのだろうか。


 ちなみに、K大の3人には、僕と一緒に行くメンバーに係る費用と、村山市での費用は心配ないと言っている。ちゃんと稼いでいますからってね。彼らもR-WPCの活性化をやっているらしく、僕の医療用のWPCの活性化の報酬の話をすると、まあ納得していたが、羨ましそうではあったな。


 駅には、諸屋女子が迎えに来ていた。それで、今日の予定を聞いたが、どうも先生方が20人ほど集まって話がしたいということで、学生の出る幕はないそうだ。だけど、先日の3人は仕掛け人ということで出席するそうだけど、しゃべる場面はないだろうということだ。


 だから、黒田と真中の2人は部屋の準備と先生方の世話で、とても迎えに来る状態ではないらしい。大学まで、2台のタクシーに分乗して、大学に入って当該の部屋のある棟まで乗り付ける。


 諸屋女子についてその建物に入り、入口近くの部屋に入ると長机が四角に並べられ、20人ほどのいかにも学者という感じの人々が座っている。白衣の人も多い。女性はそのうちの5人だけど、理系だから少ないのだろう。


 黒田さんと真中さんが事務局という感じの席に座っていたが、彼ら2人は立ち上がって、僕を迎え、正面の被告席に座らせる。前のCS病院での会議を思い出させるな、と思ったよ。

 先生方は、愛想よく頷いてくれる人もいるけど、立ち上がる人はいない。まあ、そうだよね、中学生の僕が入ってきたからって立っては迎えないよ。


 僕は案内された椅子の前に立って挨拶した。

「浅香修です。今日はお集まりいただき有難うございます。ええ、そこの黒田さん、諸屋さん、真中さんにはお話しましたが、僕はWPCに係る諸々の知識を持っており、それが盛んに使われた世界のことを知っています。

 その世界はWPとWPCの活用には長けていましたが、反面地球のように物理や化学の知識については遅れていました。ですから、僕が知っているWPCの応用とは違う活用がありうると思っています。また、WPCは使い方によっては極めて優れた成果が得られます。ご存知のWPC発電などはそのいい例ですね。


 しかし、当然地球の科学の産物のほうが優れている場合もあります。たぶん、エレクトロニクスを駆使した情報関係はそのことが当てはまるかと思っています。私は、この世界でWPCの優れた点を生かした応用を広げ、進めていきたいと思っています。その点で、貴大学に協力して頂く、いや僕が協力してそれを進めて頂きたいと思っています。よろしくお願いします」


 当然先生方からいろんな質問あったよ。曰く、①父親がT大なのに、何でT大でなくて本学か?具体的にはどういう開発を考えているか?②具体的にはどういう協力を考えているか?③回路学についてその程度の情報が開示できるのか?そのような質問で、それに一つ一つ答えていった。


 そして、②、③の質問について、僕は回路学についてT大が作ったものでなく、自分なりに作ったより実践的なもの、そして必要な機器やインフラでWPCの応用が可能なもののリストと、物によってはその回路図を冊子にまとめていたので、秘密であることを念押ししてそれを配布した。


 結構な好感触だったね。だから、僕は更に提案した。

「ええと、もう一つ提案があります。今のところWPCの開発に関しては、T大と政府が主導して進めており、どうも情報が細切れにされているような気がします。たぶん、世界的に起きている最近の情報に関してのセキュリティの強化の一環であろうと思っています。


 でも、僕はWPCの応用を進めたい立場ですので、一定の枠は必要ですがもっと範囲を広げたいと思っています。それで、先生方はWPCについて情報を得られる立場ということは、セキュリティ面では政府が認めた信頼性のお墨付きがあるわけです。

 他大学や研究所でも、同様な先生方が沢山おられるかと思いますので、出来たらこちらから方々に参加を呼びかけて頂きたいと思っています」


「ということは、本学以外にも広げて良いということですか?」

 一人の若手の先生が聞く。


「はい、そうです。とりあえず近場のO大学なんていかがでしょうか?」


 そういうことで、K大学において、一般社団法人WPC応用研究所が立ち上がった。そして、村山市には、廃業した会社のビルを買ってWPC応用研究所の研究棟が設置された。京都での活動は、大手の電子機器企業が自分の工場内のビルを提供して使っている。


 この研究所には、みどり野製菓が3億円を出資したほか、様々な企業から合計で30億円もの出資が集まった。その基本的な役割は、WPCを応用した機器の研究開発であり、その権利の使用料が収入源であるが、3年後には500億円を超える収入があり、さらに10年後には1兆円を超えるとされている。


 この研究所の余剰金は、多くの研究者の研究費に支出しているが、そのような活動から認められて、3年後には公益社団法人に鞍替えしている。


 このような動きは、主としてK大の先生方が院生を使って進めているため、僕はもっぱらセミナーを開いて資料のより深い解説を行っている。さらには、その都度各研究の個別の相談に乗っているということで、様々な手続きや出資の折衝などの雑務からは解放されている。


 ちなみに、桐川調整官は、こうした動きも含めて政府の方針に逆らったために、“査定”が下げられたことで憤慨して、公務員を辞職した。そして、一般社団法人WPC応用研究所の対外部長に就任し、生み出された数々のシステムの売り込みに辣腕を振るい、世界中の企業から恐れられるようになった。

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