第38話:官位官職

1627年5月13日:江戸城中奥:柳生左門友矩14歳


「あああああ、、いい、きもちい、もっと痛くして!」


「上様、何故あのような事をされたのですか?」


「左門たちが喜んでくれると思ったから、嫌だった?」


「嫌ではありませんが、あまりに優遇されると徳川恩顧の譜代衆からの妬み嫉みが激しくなってしまいます」


「うう、ああ、いい、いい、気にしなくて、いい。

 あんな連中、何時でも取り潰せるわ。

 左門たちに意地悪するようなら、明日にでも潰してあげる」


「そのような事は止めてください!

 そんな事をしたら、上様の評判が悪くなってしまいます。

 父が処分を申し出ない限り何もしないでください」


「ああ、いい、いい、もっと、もっとちょうだい!」


 もう何を言っても上様に届かない。

 快感の深い海に沈んでおられるようだ。

 この状態の時にお願いをしたら、なんでも叶えてくれるだろう。


 部屋の外の見張る宿直を増員しなければいけない。

 拙者や兄上は悪用しないが、堀田と酒井は悪用するかもしれない。


 今回上様が拙者達に与えてくださったのは官職だった。

 忠輝公のように、一度剥奪された官職を取り返してもらった方もいる。

 父上のように分不相応な官職を頂く者もいる。


 まあ、大名に成ったなら従五位下になるのは当然だし、従五位下相当の但馬守を名乗ってもおかしくはないのだが、普通はもっと低い官職を名乗る事が多い。

 実際の官職ではなく、名乗りの為だけの官職名を使うのが普通だ。


 薩摩大隅の国主である島津家は、位階では正六位下相当の薩摩守を優先的に名乗る事が多い。

 前田家は加賀守を優先し、毛利家では長門守を優先する。


 将軍家の世継ぎが初名乗りとして使うのは武蔵守だし、東照神君の出身国である三河守は親藩でも限られた家しか名乗る事を許されない。


 兄上は従五位下と大和介の官職を頂いた。

 延喜式では上国に相当する国の介職だが、とてもありがたい。


 柳生家は大和の出身なのだが、大和守は従五位上に相当する上に、既に別の人が名乗っているので、大和介となったのだ。


 三枝殿も兄上と同じように延喜式では上国に相当する国の介職、正六位下に相当する河内介を頂きとても喜んでおられた。


 朽木殿は先祖代々が名乗りに使っていた民部少輔の官職名を正式に頂き、上様にとても感謝されていた。

 民部少輔は従五位下の相当する官職で、仲の好い者達からは揶揄われていた。


 酒井は隠岐守の官職をもらってとても喜んでいた。

 延喜式では小国に相当する国の守職で、従六位上に相当する官職なのだが、それでも酒井には分不相応だ。


 それは堀田も同じだった。

 延喜式で小国に相当する国の守職、従六位上に相当する官職、壱岐守をもらってとても喜んでいたが、従五位下の官位同様二人には分不相応過ぎて怒りを感じる。


 だが、分不相応なのは拙者も同じだった。

 親王任国である上野の介職など荷が重すぎる。

 これでは忠輝公に匹敵すると思われかねない。


 親王任国の守は、文字通り親王に与えられる官職だから、部下が名乗る介職がその国の最高官職と言える。

 位階的には正六位下に相当し、上総介、常陸介、上野介とある。


 従五位上を頂いた拙者には低すぎるように見えるが、忠輝公と同じというのが大問題で、上様からの信頼感が同じと思われると妬み嫉みが今まで以上に激しくなる。


 本来従五位上で就ける官職は、大和守、河内守、伊勢守、武蔵守、下総守、近江守、陸奥守、越前守、播磨守、肥後守、少納言、権少納言、中務少輔、図書頭、雅楽頭、玄蕃頭、主計頭、木工頭、左馬頭、右馬頭、兵庫頭、左衛門佐、右衛門佐、左兵衛佐、右兵衛佐である。


 父上達のような従五位下が就ける官職は、山城守、摂津守、尾張守、三河守、遠江守、駿河守、甲斐守、相模守、美濃守、信濃守、下野守、出羽守、加賀守、越中守、越後守、丹波守、但馬守、因幡守、伯耆守、出雲守、美作守、備前守、備中守、備後守、安芸守、周防守、紀伊守、阿波守、讃岐守、伊予守、筑前守、筑後守、肥前守、豊前守、豊後守、侍従、式部少輔、治部少輔、民部少輔、兵部少輔、刑部少輔、大蔵少輔、宮内少輔、大膳亮、左京亮、右京亮、修理亮、内蔵頭、縫殿頭、内匠頭、大炊頭、主殿頭、掃部頭、勘解由次官である。


 微妙に拙者が一番寵愛を受けているようで、憂鬱だ。

 堀田や酒井を一番の寵臣にするわけにはいかないが……どうする?


松平忠輝35歳:相模小田原藩五万石・従四位下・上総介・左近衛権少将

松平正之16歳:播磨明石藩十万石・従五位下・肥後守

保科正光63歳:信濃高遠藩四万石(保科正之改め松平正之の付家老)

      :従五位下・肥後守

柳生宗矩56歳:総目付:一万三千石陣屋大名

      :従五位下・但馬守

三枝守恵31歳:小姓組番頭:一万石陣屋大名:上野を中心に点在

那和藩   :三枝虎吉の孫、三枝昌吉の五男

那和陣屋  :父昌吉が辞退した上野一万石で大名になる

      :取り潰された上野豊岡藩一万石を加増されて二万石に。

      :従五位下・但馬守

朽木稙綱21歳:小姓組番頭:一万石陣屋大名:近江朽木を中心に点在

朽木藩   :朽木元綱が関ヶ原で石田三成を裏切って許されるが減封

朽木谷城  :二万石から九九五〇石にされる

      :兄二人を押しのけて当主になるのではなく、別家として継ぐ

      :本家は九九五〇石の旗本として移封される。

      :軍功により武蔵相模の飛び地一万石を加増されて二万石となる。

      :従五位下・民部少輔

柳生三厳20歳:書院番頭:一万石陣屋大名:武蔵に点在

      :軍功により一万石加増されて武蔵六浦藩に転封二万石となる。

      :築城権が与えられた。

      :従五位下・大和介

金森重澄19歳:書院番頭:一万石陣屋大名:美濃国武儀郡上有知

      :従五位下・隠岐守

堀田正盛16歳:小姓組番頭:一万石陣屋大名:相模・常陸・上野に点在

      :従五位下・但馬守

柳生友矩13歳:出羽上山藩四万石

上山城   :従五位上・上野介

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