第27話:人斬り
1626年4月6日:江戸松平丹後守上屋敷:柳生左門友矩13歳
「上意である、門を開けよ!
開けねば御公儀に対して叛意があると断じて攻め落とす!」
「何事でございますか?!
御公儀に対して叛意があるなどと、言い掛かりでございます!」
門番中間なのだろうが、なかなか根性がある。
完全武装の幕府の使者に対して堂々と答えている。
「今この屋敷に入った者は、上様の小姓を襲った不逞の輩だ。
上様が罠をしかけて叛意のある者を誘き寄せられたのだ。
素直に黒幕の名を言えば本人だけの罪にしてやる。
主君である忠輝公を裏切った卑怯者の一族には過大な温情だ。
黒幕の名を言わぬどころか手向かうというのなら、一族一門ことごとく首を刎ねて忠輝公に送ってくれる!
そのように藩主に伝えよ!
いや、伝えぬともよい、とにかくすぐに門を開けよ!」
何時も思慮深く感情を表に表さない三枝殿が、内心の怒りを面に表している。
松平忠輝公の名前をここで出したことに意味があるのだろう。
忠輝公に先立って処罰された大久保長安は武田家縁の者だったな。
「お待ちくださいませ、直ぐに上役に聞いて参ります」
「上意に対して即座に従わぬのは疚しい事がある証拠だ!
時間をかければ証人を殺し証拠を隠蔽する。
上意に従わない者は謀叛人の一味と断ずる。
上様の親衛隊たる小姓組の番士なら命を捨てて討ち入れ!」
「「「「「おう!」」」」」
ぎぃいいいいい!
密かに塀を乗り越えて入った裏柳生が中から門を開けてくれた。
これで時間をかけて門を打ち破る必要が無くなった。
「「「「「うぃおおおおお!」」」」」
「上意である!
上様の謀叛を企てた者を捕らえろ!
手向かう者は容赦なく討ち取れ!」
「「「「「おう!」」」」」
「隣家の方々に物申す!
我らは上様の上意にて謀叛人を捕らえに参った。
そちらに逃げ込む者を庇い立てするなら、貴家も謀叛人一味として討伐される。
ゆめゆめ考え違いされるな!」
「上様に謀叛を企むような家の者を庇い立てなどいたしません。
当家に入り込もうとした者は容赦せず叩き斬ります」
小姓組の番士達は全く役に立たない。
有利な馬上にいるのに徒士侍を槍で突き殺す事すらできない。
馬上での戦闘が苦手なら馬から降りればいいのに、そんな事すら考えられない。
戦いで役に立たないになら、他の事で役に立てばいいのに、何もできない。
逃げられないように隣家を脅す事すら裏柳生に先を越される始末だ。
これでよく上様の親衛隊だと偉そうにできるものだ。
愚痴を言ってもしかたがない、今回の件をいい機会にするしかない。
徳川恩顧の譜代衆だと言って、能力もないのに役目に就いている者を放逐する。
親戚縁者が何を言ってきても、今回の失態を理由に放逐する。
あまり五月蠅く言うようなら、親戚縁者事叩き潰してやればいい。
「うぉおおおおお!
ぎゃっ!」
「愚か者!
その程度の腕でかかって来るな!」
目を血走らせ襲いかかってきた徒士侍を一刀のもとに叩き斬ってやった。
初めての殺人に何か感じるかと思ったが、全く何も感じない。
幼い頃から人殺しの鍛錬を繰り返してきたからだろうか?
生きた人間を斬ったのは初めてだが、死体は何度か斬った事がある。
非人から買った死体を斬る事が鍛錬の一つだった。
あまり気分のいい鍛錬ではなかったが、役に立っているようだ。
生きているのものなら、犬猫はもちろん狐や狸も斬っている。
騎馬武者としても戦えるように、犬追物で数多くの犬を射殺しただけでなく、槍で突き殺した事も数知れぬ。
「上様を誑かす妖童、ここで成敗してくれる!」
「ほう、拙者を妖童扱いする事で、自分達の行いを正当化しようというのか?
このような卑怯な言動を誰が考えた?
松平丹後守が直々に考えたのか?
それとも、駿河大納言が上様に取って代わらんと考えたのか?
あるいは、鬼母が考えたのか?」
理由を知らせられる事もなく、主命というだけで拙者を襲った者ばかりではなく、上様を衆道で誑かす佞臣を成敗すると言われていたのか。
「死ね!
ぎゃっ!」
「その程度の腕で、将軍家剣術指南役の柳生新陰流を打ち破れると思ったのか?!
やれ、ただの一人も逃がすな!
老若男女を問わず、手向かう者は皆殺しにしろ!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます