第24話:柳生宗矩
1626年4月5日:江戸城中奥:柳生左門友矩13歳
「よくぞ来てくれた、又右衛門。
十兵衛から又右衛門も忍者を使う事ができると聞いた。
実際どのような方法で忍者を使えばいいか教えてくれ」
他の徳川恩顧の譜代衆、特に駿河大納言様に擦り寄っていた連中は上様の敵だ。
自分の弱みを敵に見せたくない上様が分からない事を下問される事はない。
父上は上様の剣術指南役だ。
常に剣術に関する下問をされているから、忍者についても抵抗なく下問できる。
兄上はそれも考えて父上から聞くように上様に勧められたのだな。
「十兵衛からも聞いておりますが、忍者隠密を敵地に潜り込ませるには、十分な準備が必要でございます。
時間も費用も余裕をもって準備しなければなりません。
既に知識と技、気概を失った伊賀衆や甲賀衆では不可能です。
新たに子供の内から鍛えなければなりません」
「今いる伊賀衆や百人組の子供を鍛えろという事か?」
「さようでございます。
当主には幕府のお役目がございます。
それを休ませては目立ってしまいます。
部屋住みや隠居を敵地に潜入させるのでございます。
そのための費用は、上様のお手元金を与えるのです。
あるいは隠密として商人になる事を許して稼がせるかしかありません」
「商人として働かせるなら、手許金を渡さなくてもいいのか?」
「密偵の役目は、使える金の量でできる事が大きく違ってきます。
密偵に自分で稼げというのなら、稼ぐための知識を習得する時間と金が必要です。
また、商人としての時間を沢山使わなければ、密偵の役目ができず、商人として時間を使えば、密偵として働ける時間が無くなります」
「……余が費用を与えない限り忍者や密偵など使えないというのだな」
「吝嗇な主君に心から忠誠を尽くす家臣は少ないのです。
私に目付の役目を頂けたなら、各藩に剣術指南役として送り込んだ者達を使って、多くの情報を集める事ができますが、新たに作るとなるとどれだけかかるか……」
父上?!
剣術指南役以外の役目を手に入れようとされているのか?
兄上が衆道で万石大名になった事を腹立たしく思っておられたのか?!
「又右衛門の弟子達が忍者と同じ働きをしてくれるというのか?」
「豊臣家に家を潰された時に、一時的に伊賀で暮らした事がございます。
その頃から伊賀者とは交流がございます。
柳生荘の者達は、伊賀者と同じ働きができると思ってください。
ただ、今の石高では十分な働きができません。
一万石の大名にして頂けるのなら、伊賀者や甲賀者に頼る必要はありません」
「又右衛門が忍者と同じ働きをしてくれるというのなら何も言う事はない。
総目付として全ての大名を監視してくれるというのなら何よりだ。
まずは左門の屋敷を襲おうとした者達を見つけ出してくれ。
どうやら探索を命じた百人組の連中が色々と知っているようだ。
必要なら上意を与えるから、頭以下全員を処刑しても構わない。
連中が隠している真実を暴きだしてくれ」
「承りました。
必ず左門を襲おうとした者を探り出しますので、ご安心ください。
上様も百人組の組頭達が犯人を知って隠していると知っておられたのだな。
いや、もしかしたら、襲撃犯が百人組だった可能性もある。
だからこそ、忍者や密偵に拘っておられたのかもしれない。
敵に能力のある忍者がいるとなれば色々厄介だ。
もしいたのなら、正面から戦うよりも寝返らせて味方にする方が良い。
上様が忍者を使いたいと言われたのはそういう意味だったのだ。
だが、父上の話しを聞いて気が変わられたのだろう。
知識も技も気概も失った忍者などまったく怖くない。
それならば力技で叩き潰した方が簡単だ。
問題は、上様が百人組頭達を上意討ちしようとした時に、待ったをかけられた大御所様だ。
それが上様の暴走を心配した親心ならいい。
そうではなくて、黒幕をかばう為だったら……
拙者を襲い、上様の威信を地に落とそうとしたのは大御所様か?
あるいは駿河大納言様という事になる。
上様もそれに気がつかれて証拠を固めようとされているのだろう。
徳川家を二つに割る大戦になってしまうのだろうか?
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