第20話:上屋敷襲撃
1626年4月1日:江戸柳生左門家屋敷:柳生左門友矩11歳
「左門様、敵が屋敷の周りに集まっております」
兄上が柳生荘から集めてくれた裏柳生の一人が起こしてくれた。
「何人だ?」
刺客が屋敷の中にまで侵入し、寝ている近くにまで来たら、拙者も気配を感じる事ができる。
だが、まだ屋敷の外にいる段階で気付く事などできない。
これが野中の一軒家なら、虫の鳴き声などで察する事ができる。
だが江戸城の近くにある武家地では不可能だ。
「屋敷の周囲を見張っている者の話しでは、十人以上はいるそうです」
俺達に立身出世の邪魔をされた堀田が何かやって来る事は予想できていた。
どこに狙いを定めるかも大体わかっていた。
元々九九五〇石もの領地を持ち、戦国乱世から続く譜代家臣を数多く抱える朽木家は、刺客に対する備えも万全である。
それは武田家と共に一度没落したにもかかわらず、見事に東照神君の信頼を勝ち得て復活した三枝家も同じだ。
朽木家ほどではないが、多くの忠誠心厚い譜代家臣を抱えている。
柳生家も同じように信頼できる譜代家臣が数多くいる。
戦国乱世で一度領主から滑り落ちたものの、父上が何とか三千石旗本として復活させ、今では兄上が万石の大名として復活させられた。
拙者も同じ柳生ではあるのだが、本家から独立している。
五百石の旗本としては少し大きい屋敷を江戸城近くに賜っている。
だが、しょせん五百石の旗本に過ぎない。
屋敷は五百石旗本としては少し大きい八百坪だが、大名と成られた兄上の二千五百坪とは比較にならず、隠れられる場所も家臣の数も比べ物にならない。
堀田が屋敷の襲撃をかけるとしたら拙者以外いない。
兄上もそう考えられたからこそ、柳生家ではなく兄上個人に忠誠を誓う者達を拙者の護衛につけてくださった。
本当は兄上個人に忠誠を誓う者からだけでなく、柳生荘全体から腕の優れた者達を集まるべきなのだが、父上に知られては困る事があるのでできなかった。
ピィイイイイイ
「呼子を吹いたのか?
周囲に襲撃を悟られない方が良いのではないか?」
拙者に忠誠を誓ってくれた者達ではないので、少々気を使う。
兄上の命令を何より第一に聞く者達だから、拙者の方針に従わせられない。
まあ、拙者よりも兄上よりも、この者達の方が実戦経験が豊富だ。
余計な事を言っても邪魔になるだけだ。
「無用な争いをする必要などありません。
左門様は上様の小姓でございます。
上様の小姓を狙うなど、御公儀に対する宣戦布告と同じでございます。
徹底的に叩き潰すためにも、天下に知らせなければなりません」
「それは兄上の考えなのか?
兄上は秘密裏に事を運べと申されたのではないのか?」
「急遽方針が変わったのでございます」
「理由を教えてくれ。
納得できなければ兄上に直談判しなければならない」
「上様より殿に命令があったのでございます。
余に逆らう者を徹底的にあぶり出して潰す。
そう申されたそうでございます」
「それは、上様が堀田を切る決断をされたという事か?」
「それは分かりません。
上様が断罪したい相手が、堀田様なのか徳川恩顧の譜代衆なのか、我々のような下々の者には分からない事でございます」
「裏柳生が総力を挙げて調べても分からなかったのか?」
「残念ながら、裏柳生を支配しているのは大殿でございます。
柳生荘は大殿の領地でございます。
領地も農地も持たぬ部屋住みの多くは殿に召し抱えられました。
ですが、それでも、裏柳生の支配者は大殿でございます。
何と言っても、他藩に潜入している剣術指南役達は大殿の弟子ですから」
「そうか、そうだな、他藩の情報を集められるのは父上の弟子達だな。
そうなると、上様の考えを知る術はないのだな」
「いえ、左門様が寝所で聞かれればいい事でございます。
それが一番信用できる情報でございます」
それが嫌だからお前達に聞いているのだろうが!
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