第13話:敵対
1626年1月23日:江戸城中奥:柳生左門友矩13歳
「おのれ三四郎、あ奴が我らの役目と加増を奪っていたのか?!」
昨晩上様から聞き出した話を小姓達に話した。
最年長の三枝殿が怒りのままに荒れ狂っている。
身勝手で上様の寵愛を鼻にかける堀田は、小姓仲間にも嫌われていた。
更に皆の立身出世まで邪魔していたのだ、増悪されて当然だろう。
「一番年長の三枝殿が、三十になっても小姓頭取のままなのは、全て三四郎の奴が上様を誑かしていたからだったのだな!」
二十歳の朽木殿が、怒りをぶちまける三枝殿に賛同している。
本当なら堀田の言いなりになる上様が一番悪いのだが、上様は非難できない。
だから全ての悪事は堀田の責任にされる。
「御両所、それだけが理由ではありません。
上様が御両所を側から手放し難いと思われていたのです。
そうでなければ堀田が何を言っても上様が聞かれる訳がありません」
「そうか、そうだな、左門殿の申される通りだ。
我も朽木殿も、上様に心から信頼されているから小姓のままなのだ」
「……そうですな、左門殿の申される通りですな。
上様が三四郎の言いなりになる訳がなかったですな」
「昨晩上様からお聞かせしたいただいた話では、小姓組番頭の役目は堀田の願いを聞き入れたが、他の小姓達に役目を与えないのは、心から信頼できる者を自分の周りから手放したくないからだとの事です」
「そうですな、上様のお立場だと、信頼できる武勇の士が側に必要ですな。
武勇の面では、三四郎など全く役に立ちませんから」
三枝殿はそう言って自分を慰めている。
だがそうなると、兄上が書院番頭になって小姓から離れた理由が必要になる。
ここは一言上様をかばう事を言っておいた方が良いだろう。
「上様には皆様方の想いを伝えさせていただきました。
兄十兵衛の書院番頭就任は、拙者が小姓になった事も影響しております。
兄弟で上様の側に侍るのは少々問題があったのです。
それに、三四郎一人だけを番頭にするわけにはいきませんでしたから」
「確かに左門殿の申される通りですな。
兄弟で上様の小姓を務めていたら、譜代衆の嫉妬が激しくなり過ぎます。
自分達が駿河大納言様を担いで上様を蔑ろにしていた事を棚に上げて……」
最年長の三枝殿が、珍しく内心の怒りをぶちまけておられる。
長く上様のお側近くに仕えてきた方には、拙者に分からない悔しさがあるのだな。
そんな忠臣よりも堀田の糞野郎を寵愛する上様は暗主としか言えない。
「近々上様が方々を寝所に呼ばれると思われます。
その時に方々の正直な想いを上様に伝えられてください。
上様も嘘偽りのない本心を話されるでしょう。
その時の話し合い次第では、方々のも立身出世の機会があります」
俺がそう言うと、三枝殿と朽木殿だけでなく、金森殿も梶殿も、いや、全ての小姓衆が真剣に悩んでいた。
全員が一度は上様の寵愛を受けて事がある者達だ。
上様の、他人には絶対知られるわけにはいかない性癖も知っている。
それを受け入れた者だけが非常識なほどの立身出世をする事も実体験している。
今彼らにできる事は、堀田の糞野郎が抜けた後で、上様の性癖のはけ口を自分が引く継ぐか引き継がないかの決断だ。
拙者も受け入れる覚悟が定まるまで葛藤したからな。
それに、上様の性癖全てを受け入れても必ず立身出世するわけではない。
現に堀田よりも二歳年長の金森殿は、全てを受け入れているのに小姓のままだ。
唯々諾々と受け入れるのではなく、適度な拒否などの駆け引きが必要なのだろう。
彼らはどのような決断を下すのだろうか?
拙者はもう覚悟を決めた。
武芸者として旗本として、上様を護るためなら嫌な事でも飲み込んで見せる!
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