第1話 失敗って…
「…さん、…きみ…さん」
遠くから声が聞こえる
「ん…」
「よかった。気づきましたか?結城美里亜さん」
はっきり自分の名前を呼ばれたと認識した
でもその声に心当たりはない
最初に目に入ってきたのは真っ白な天井
少し首を動かすと白い壁と黒い家具が飛び込んでくる
「…ここは…?」
知らない場所にいることは分かる
「そうだ…足!」
弾かれたように体を起こし自分の足を見た
「ある…じゃぁあれは夢?」
夢にしてはあまりにもリアルな痛みに恐怖だった
しかも立て続けによくわからない場所で目覚めたことで自分自身があやふやになっていた
「全て説明させていただけますか?」
かけられた声に、そう言えば誰かに呼ばれていたと思い出す
顔を上げると7人の男女が黒い円卓の席に着き、1人の少年がその中でも一番偉そうな人の側に立っていた
「…あなた方は?」
「お話の前にどうぞお座りください」
一番近くに座っていた女性が空いている席を指してそう言った
流石にこのまま話すのもどうかと思いその言葉に甘えることにした
「まず、我々は世界を見守る神と呼ばれる存在だ」
「神…は?」
何、こいつら厨二?
「厨二病ではありません」
「え?」
私声に出してないよね?
「我々はあなたの心の声を聞くことが出来る」
「…」
だめだ。理解できない
このままじゃ話が進まないわね
「…あなた達がその神という存在だとして…私がなぜこの場にいるの?私はただの女子高生でしかにのに」
元々頭の切り替えは早い
分からないことをグダグダ考えても時間を無駄にするだけだとわかっているから
それならわからないのを前提に話を進めた方がいい
「あなたに謝罪とお詫びをしなければなりません」
「は?」
「まず、あなたのいた地球での出来事を覚えていますか?」
「出来事?バスに乗ってて突然変な音がして…ってやつ?」
「そうです。あの時地球、さらに言えば日本には大地震が起きていました」
「地震…」
どこかで納得できるものがあった
「そのタイミングを狙い、この神の見習いであるスムースが、我々の管理する世界の一つ、パルシノンで勇者召喚の儀を行いました」
「しかしその召喚は完全なものでは無かった。女性3名と運転手1名は成功しましたが男性2名は失敗、地球で重傷を負っていますが生きています。そしてあなたは空間の途中に放り出されてしまった」
「放りだされたって…」
「地球から飛び出し、別の世界に入る事が出来ない状態になってしまったのです」
「スムースはそれを隠蔽しようとしてあなたを我々が普段見向きもしない”破滅の世界”に送った」
「”破滅の世界”は我々が管理する世界の重犯罪者を輪廻の輪から省き放り込む世界で、町並みは直前にいた場所が見えるため人により違います」
「毎朝目覚めと共に絶対強者に追い立てられ虐殺される日々を永遠に送る世界。そのせいであなたには本来受ける事の無い恐怖と痛みを与えることになってしまった」
その言葉にあの暗い世界を思い出し体が震えた
あれは現実だったのだと言われたのだから当然だ
足を無くした後どうなったかまでは知りたくもないけど虐殺されたということは確かなのだろう
「あれが…しなくてもいい体験だったってこと?あの恐怖も痛みも?」
沸き上がったのは怒りだった
それを感じて真っ先に反応したのはスムースと呼ばれた神の見習いだった
「…俺のせいじゃない!力が暴走しただけだ!だから俺は…!」
「暴走した時点で隠蔽しようとしなければあの世界に行かなかった事でしょう?」
「それは…」
「私はあんたの失敗の尻拭いであんな思いをしたってことでしょう?」
「だから…!」
「だから何?自分の失敗を受け止められずに逃げたあなたに神になる資格なんてない!少なくとも私はそんな神ならいらない!」
「尤もだ。スムースよ、ここに同席させた理由を忘れたか?」
「そなたが謝罪したいというから同席させたはず」
「謝罪どころか自己弁護とは…反省のかけらもないと見える」
「いや…俺は…」
「勇者召喚の儀の失敗に加えその勇者への過剰スキル付与とゆがみを増長させるサブスキルの付与、保護すべきミリア殿への暴挙と暴言」
「重罪人に等しい行いだ。そなたを”破滅の世界”に送ることにする」
「嫌だ…俺は…助けてください!パーシェ様!!」
「神の力をはく奪、”破滅の世界”でミリア殿へした仕打ちをその身を以て知るがいい」
パーシェと呼ばれた神がそう言った次の瞬間スムースの姿が消えた
この時初めて目の前の人たちが人間でないということを本能で理解した
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