第5話 まぶしい思い出

 光と冬馬が付き合っていると知り、凪子は途中経過を確認するようになった。

「どこまでいってるの?」

 などと質問してくる。

 どこまでって。一番遠いのは冬馬の別荘だけど、あそこは凪子も行ってるし。

 光は首を傾げ、

「ゲーセンとか、映画館?」

 と、凪子は光の背中を叩いて笑った。

「とぼけんな。キスしたとか、それ以上とか、どこまで進んだか聞いてんの」

 光は真っ赤になった。


 その年は残暑が厳しく、九月下旬になっても日差しが強かった。

 ある祝日。

 光は冬馬の部屋に遊びに来ていた。

 昼食後、公園のバスケットゴールで遊んだ。ボールは外れてばかり、背の高い冬馬にカットされても、じゃれあうだけで愉しい。光は汗びっしょりになった。

 木陰のベンチで水を回し飲み。間接キスだよな、とちらっと思った。凪子に焚きつけられて、妙に冬馬を意識してしまう。冬馬もなんだかぎこちない態度で、沈黙が続く。

 部屋に戻り、光はシャワーを借りた。

「着替え置いとくよ」

 浴室ドアの向こうから冬馬の声がする。出てみると、ブルーグレイのTシャツがあった。

 青空が急に曇ったような微妙な色合いが光は気に入った。

「サイズ、大丈夫?」

「うん」

 少し長めだが気になるほどではない。冬馬のシャツだと思うと、なんだか嬉しい。


 バスタオルで髪をざっと拭いた。

 すぐに乾く、と、そのままにしておくと冬馬は、ちゃんと乾かせよ、と、ドライヤーを持ってきた。

「いいよ、そんなの」

 断ったけれど、冬馬は光を椅子に座らせ、髪に手を入れ、ドライヤーを使い始めた。

 他人にこんなことされるのは初めてだ。

 冬馬の指が髪を持ち上げ、熱風を当てる、それだけなのに。

 なんで、こんなに気持ちいい?

 冬馬の指が耳たぶに触れる。

 愛撫、なんて言葉を光は知らなかったけれど、それが気持ちいいことは分かった。

 ドライヤーの音だけが部屋に響く。

 ほとんど乾いた頃に、光は言った。

「俺、大丈夫だよ」

 何をされてもいい、心の準備はできている。

 冬馬には聞こえたはずだが、まだドライヤーを動かしている。

 座ったまま、光は冬馬を見上げた。冬馬は目を合わそうとしない、顔を近づけると逃げ腰になった。

 なんだよ、年上のくせに、そっちから声をかけてきたくせに。

 俺が可愛いんだろ、ワンコみたいに。

 再度、顔を近づける。かすかに唇が触れあい、冬馬がビクッとなる。

 三度目は、ちゃんとキスした、不思議な感覚。立ち上がった光を冬馬は受け止め、何度も何度もキスをした。

 頭の中がぼうっと痺れたようになり、光は我を忘れた。

 そのまま二人はベッドになだれ込んだ。


【あとがき】


 光と冬馬が初めて結ばれるシーン。

 ドラマの第4話の一部を文章にしてみました。自己満足です、ご容赦ください。

 二人の緊張と高まる思いが、ドライヤーで髪を乾かす場面によく表れていて、ドキドキ、ここがいちばん好きです。アップにはせず、ドキュメントみたいに二人を観察するように映すのが効果的だと感じました。

 しかしこの後、ドラマはとんでもない方向に進んでいきます。よろしかったら今後ともよろしく。男同士のラブシーンはこれ以後は書きません。

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