第118話 怒りの濁流と変化
『ケント! そちらに行っては駄目です! 踏みとどまりなさい!』
動かない……
ガラガラとなにか……
笑わない……
ガラガラ崩れる……
喋らない……
ガラガラ……
真っ白になった頭が黒く塗り潰されていく。
じわりじわりとまわりから白が黒に染められて白いところが消えた。
『ケント様! 私を使ってはいけません! 離してください! クロセル様! このままでは!』
『ケント! 戻りなさい! ダーインスレイブを離すのです! 駄目!』
ドゴン!
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
『エリスちゃん、結局アンラに取られちゃったわね』
『そだねアシアちゃん。アンラちゃんを初めて見た時からそんな気がしてたもん』
『わ、私はリチウムで捨てられ仲間にしてもらった時からお似合いの二人だと思ってましたが、少し……結構残念です』
『きゃはは♪ ごめんね~、アシアにエリスとプリム。あっ、テルルとセレンも、ケントが格好いいからってみんな好き好きだったけど、私の勝利♪』
『…………』
『モテモテだねぇ~ケン――』
「――ト! ケント! ねえケント! しっかりしてケント! ほら! ちゅーしてあげるから! んー! ぷはっ! わ、私は大丈夫だから! 目を開けてよケント! お願いだから戻ってきて!」
あれ……
なにしてんだ俺……
ランタン伯爵……
敵……
アンラ……
ナイフ……っ!
そうだ! アンラの首に光るナイフが!
「――アンラ……?」
「ふえっ……ゲ……ゲンドぉぉぉ! よがっだよぉぉぉー!」
目を開けると、涙と鼻水でぐしゃぐしゃになったアンラの顔が。
笑顔のみんなと、物凄く笑顔のアンラの夢を見てた気がするけど、どうなったのか……。
地面に寝転んでるようだ。
アンラが覆い被さって俺の胸にドンとおでこを当てる。
顔が見えなくなって星空が目に映った。
「アンラ……無事だったんだな。良かった……死んじまったのかと思ったぞ」
「ふぐっ、ふぐっ……」
嗚咽を漏らし、胸に顔を埋めるアンラのキラキラした銀色の髪の毛を右手で撫で付け、手櫛で乱れを整える。
『はぁ、戻ったようですね。クローセ、あなたのお陰です』
『うむ。少し力を入れすぎだとも思ったが、ケント様が私を手放すことが困難な場面では、ああしてもらうしか無かった。クローセ殿、感謝する』
「なぁ、どうなったんだ? クローセがアンラを助けてくれたみてえだし、ありがとうな」
空いてた左手で、顔の横にいるクローセも撫でておく。
『ケント。あなたは覚醒したのを覚えていますか?』
「……いや、アンラの首からナイフを引き抜いたところまでしか覚えてねえな」
クロセルの話はこうだ。
アンラの怪我を見て、覚醒した後
その時はいつもの銀髪青目だったのが、アンラが動かなかったため取り乱して、ダーインスレイブをその状態で握ったそうだ。
『ダーインスレイブの魔性と私の神性が混ざり、髪の毛が銀色と暗い赤に半分ずつになって、目の色も、片方ずつ青色と赤に……』
そしてクロセルとダーインスレイブを持ってナイフを投げた男、コイツは不眠のスキルを持っていたそうで、ナイフを俺たちの隙を見て投げたそうだが、ソイツと倒れている奴に向かって俺は斬りかかろうとしたそうだ。
まあ、悪者だからやっつけるのは良いんだが、全員を殺してしまいそうな勢いだったらしい。
そこをクローセが俺のことを叩いて気絶させてくれたそうだ。
「そうだったんだな。なんにせよ心配かけたみてえだ。よいしょっと」
アンラごと起き上がり、まわりを見てみると、ぐるぐる巻きの奴が一人と、残りは……とりあえず誰も死んでいるようには見えない。
「ん? ならそのスキル持った奴はあれか? 一発くらいはシバかねえと気が済まねえんだが」
『心配ないです。あの通りしっかり捕まえてありますから後で気の済むまでシバいてください。それより、ケント、なんともないですか?』
『破壊衝動や吸血衝動は無いでしょうか? その、ケント様、今もまだ覚醒したままなので』
「ん? そういうんわ無いけどよ、毛が伸びたまま……なんだこの色は。なあ、ダーインスレイブを握って赤くなったんなら、手離してんのになんでまだ赤と銀色となんだ?」
下を見るとアンラが抱き付いてるが、銀色になってるはずの長髪なのに赤色が混ざってる。
いや、混ざってるというか、半分だけ赤だ。
予想だと、頭の真ん中で左右に分かれて赤と銀色っぽい。
「ってことは目もおかしいんか?」
目も左右が色違いになってるらしい。
「はぁ、まあ覚醒を解けば戻るんだろ、っと。アンラ、とりあえずコイツら縛っちまうからちと離れてくれっか?」
その後、アンラは離れず結局どうせ起きないのと、ナイフを投げた奴はぐるぐる巻きに縛られて転がされてるからなにもできないだろうと諦め、アンラを抱っこしたまま馬車の荷台に飛び乗り中へ。
時間も遅いことだし、流石に眠いから今夜は寝てしまうことにした。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
朝、起きてから、馬車の荷台から御者台へ出てから気が付いたんだが、フルフルがデカくなって俺たちの馬車の横に座ってた。
そういや見張りもしてなかったな。
フルフルが大きくなってんならそりゃ魔物も近付けねえか。
「ありがとうなフルフル、疲れてたんか、熟睡しちまったよ」
「ありがとうねフルフル。助かったわ」
アンラも俺の後に続き外に出てきた。
明るくなった夜営地の真ん中に乱雑に固められた昨夜の襲撃者達。
クロセルの話ではそれもフルフルが集めてくれたそうだ。
ささっと朝ごはんを食べた後、ぐるぐる巻きの奴はとりあえず残して他の奴らの手足を縛っていく。
「ねえケント。心配かけてごめんね、あのナイフさ、クロセルみたいな神剣じゃ無いけど、そこそこの聖剣だったの。だから抜いてもらっても、痺れていたからすぐには起きれなかったんだ」
「そっか、アンラは悪魔だもんな」
『ええ。五分も動きは止められない程度の力しか無さそうでしたが、刺されてすぐは仕方ないでしょうね』
アンラに刺さったナイフを取り出し、じ~っと見ると、なにか力を持ってるように感じられた。
この感じを覚えておかねえとな。
今後人を相手にする時にこの感じが見えたら注意しておこう。
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