第87話 残念王子様の身ぐるみを剥ぐ

「あなたは? この者達の関係者なのか?」


 公爵様がなんで……ってか今は冒険者の格好だからギルマスだな。


「まあ関係者だな、私はリチウムの冒険者ギルドでギルドマスターをしているから、そこの者達が冒険者であるなら……だが」


 王子様は『あっ叔――』とかよ、叔父って言いかけたようだが、言葉を飲み込んだ。


 だが、俺の足下の従者が『こ、公じゃくぁぁぁー!』公爵様と言いかけたから、折った腕を軽く蹴っておいた。


「どうしたケント君、その者が何かやろうとしたのか?」


「おう、暴れそうだったからな、騒がせてすまねえ」


 俺はギルマスに向かって目で合図すると、コクリと小さく頷き、王子様に向かって一言。


「衛兵の言うことを聞いて大人しくしていろ」


「は、はい……」


 うつむいてるが俺の事を、睨んでやがる……今度会ったらまたなんかやりそうだなこの王子。


 その後、ギルマスはギルドに入って行き、衛兵のおっさんは一緒に来ていた同僚にまわりの見物客から聞き取りを頼み、自分は足の拘束だけほどいた従者を引き連れ行くと、王子はその後を大人しくについていった。


 俺もみんなが乗ってることを確かめてから馬車に乗り込み、門前の衛兵の詰所まで移動させる事にする。


 同じ広場内だ、移動はすぐ終わり馬車を停め、みんなを馬車から下ろして、詰所に入ろうとしたところにギルマスが一人でやって来た。


「ケント、迷惑かけたみたいだ、すまねえな、そっちのアシアには会わす顔がない」


 怪我したアシアにも深く頭を下げ『申し訳ない』と謝り、みんなで詰所に入った。


 若い衛兵の兄ちゃんに、昨日と同じ奥の牢屋に案内されながらギルマスとさっきの続きを話す。


「でもよ、身分は使うなと言われてたのに、あれはないよな、それに薬草採取に王都から出るだけで馬車を使うって、ありえねえだろ」


「まったくだ。最初は王城からも馬車で出ようとしていたからな、それも王家の紋章入りの馬車でだぞ? だから昨日の夕方になったが無理やり放り出してやった」


 呆れた顔で、案内の兄ちゃんに聴こえねえように小声でだ。


 俺達が牢屋のある部屋についた時、聞き込みをしていた衛兵達が帰ってきて、聞き取った資料も使い、王子様達の取り調べが始まった。


 内容はまあ、聞くだけで、こっちが疲れちまう内容だ。


 馬車も、いままで城下を歩いたこともなく、昨晩が始めてだったようで、そりゃ街の外に行くなら馬車が、ってなるんだと呆れ果てたが理解した。


 それと……。


「なんだと! それでは昨夜泊まった宿代も、身に付けてる装備もか!」


 ギルマスは王子様の話を聞いてバンと机を叩いて立ち上がり、鉄格子の隙間から手を入れ、格子の近くに寄ってきていた王子様の胸ぐらを掴んで引き寄せた。


 ガシャンと顔から鉄格子に叩き付けられた王子様の腰から、革袋引きちぎるように奪い取ると、突き放すように王子様を押し、押された方はたまらず床に倒れ込んでしまった。


 ギルマスは奪い取った革袋の口を開け、中身を机の上に出すと、金貨が十枚、王城から持って出たままの金貨が出てきた。


 おいおい、どこに泊まってどこで装備を買ったんかと思ったら、どちらも金を払ってないようだ……。


「あの、ギルマス、王城に代金をと言えるこの者達はいったい……」


 そうなるよな、衛兵のおっさんは、王子様達の事を見てビクビクして聞いてくる。


「今からの事も口外をしないでもらいたい」


 頷いたこの部屋のみんなを見て、この二人が王子様とその従者と教え、身分を証さずBランクになるまで帰れないと王様と約束した事を話すギルマス。


 説明が終わった後、まだ牢内の床で転げたまま、青い顔をしてこっちを見てる王子様を見下ろしながらギルマスは、低く吐き捨てるように言葉を投げかける。


「おいルテニウム、何故この金が減っていない? 宿や、装備もこれで準備しろと言ったよな? どこで泊まり、どこで装備を整えた?」


 王子様は鉄格子越しだがギルマスに怯えながら答えはじめた。


 聞いていて馬鹿らしくなるが、宿は王都でも一番の高級宿で、金貨十枚では数日泊まれるかどうかの、上位貴族や、豪商が王都に滞在する際使う宿だそうだ。


 次に武器屋、防具屋も、鍛冶ギルドが運営する店で、Aランクの鍛冶士が造る物を手に入れたそうだ。


 ……こっちは宿代が安く感じるほどで、王子様のミスリルの剣と、地龍とワイバーンの革鎧は各々大金貨五枚……Sランクか、Aランクの冒険者が頑張って購入するような装備らしい。


 それも売り物ではなく、数代前の鍛冶ギルド、グランドマスターの造ったものだそうだ、ってかよ、俺も造ってもらいてえな……、今度王都に来た時頼んでみるか。


 そしてやっぱり普通に隠す気がなかったんだろうな、自分達は王子とその従者だと身分を出して、手に入れたそうだ。


 だが馬車と馬は、宰相や財務から出る証書が無ければ買えなかったらしい。


 結局冒険者になっても王子様気分のままだったようだな。


「はぁ、ルテニウム、この金貨十枚は帰してやろう」


 ん? 返すんか?


 革袋に金貨をもどし、王子様の目の前に投げ捨てた。

 その事に王子様もそれには驚いたようで、固まっている。


「受け取れ、それから装備は全て没収だ、すぐに脱いでしまえ」


 王子様達が持っていた二本の剣はすでに回収してあり、残りは他の装備品だ。


「ですが叔父様、冒険者として装備は必需品、どうかこれはお許し――」


「脱ぐのだ! そしてその金貨十枚で装備を購入して、宿代払い、馬車に乗りたければその金か、冒険者として依頼を請け、報酬を得て買え、泊まれ! 乗るがよい!」


 許しをもらおうとした王子様の言葉にかぶせるように、まくし立てるギルマス。


「良いか、今後Bランクになるまで王族とも、貴族とも名乗ることは許さん! もし一度でも身分を使ったなら王位継承権が戻ることはない! 兄がどう言おうと、私が許さん! 覚えておけ! 分かったか!」


 そして有無を言わさず装備を脱がせると、格子の隙間から受け取り、従者の分も脱がすよう言い持ってこさせた。


(ねえねえ、ネックレスに指輪と腕輪でしょ~、それに足首にも魔道具があるわね、こっちの従者もだわ、ギルマスに教えてあげなよ)


 アンラは俺の横にいたんだが、肩をポンポン叩いて王子様達を指差しながら教えてくれた。


 は? マジかよ、魔道具なら道具屋で手に入れたんだろうな、はぁ、Eランクの冒険者が魔道具なんか持ってる分けねえもんな。


「ギルマス、王子様達、魔道具を持ってるぜ、それは良いんか?」


「チッ、ルテニウム、それはどこで手に入れたんだ? 城を出る時は平服に金貨十枚だけだと入ったはずだが?」


 結局全て回収して、王子様達はさらに傷害罪と強奪未遂の罰金で大銅貨一枚ずつをアシアと俺達に払い、装備や宿代は、借金として月々の支払いが課せられた。


 なんとかこの騒動は終わったようだし、後は署名して出発だ。

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