第83話 忘れ去られた聖騎士

 村に帰る用に数日分の食料や、念のためのポーション、馬の飼い葉に塩なんかを買い集めた俺達は、もちろん土産も買ったが、朝にガズリー達が絡んできた件で、確認のため衛兵の詰所までみんなでやって来た。


 詰所の奥にある牢屋に案内され、そこにあった部屋に通されると、みんなが入ると少し狭く感じる部屋があり、真ん中が鉄格子で仕切られ、ガズリー、ジャレコ、ダムドが鉄格子の向こうに並んで座っている。


 見たところ拘束は解かれているようだな。

 ジャレコとダムドは俺達が入ってきたのを見て、顔を伏せてしまったんだが、ガズリーは『チッ』とみんなに聞こえるよう舌打ちをして、俺を睨んできた。


 みんなは壁際の長椅子に案内され、俺とテルルは鉄格子に近い場所にあったテーブルに案内された。


 あのソファー座り心地良さそうなのに、あっちじゃ駄目なんか?


 衛兵のおっさんと三人がガズリー達に向かって、木で作られた、座り心地は普通の席に着くと、聞き取りした内容が書かれた紙を三枚机の上に置かれ、読むように言われたんだが……。


「……こっちの二つはは間違いねえな、ここに書かれてる通りだぞ、もう一つはもう何から手をつけて良いんか分からんくらいデタラメだな」


「そのようですね、私は荷台から降りたところからですが、こちらの二人が書かれた通りと証言します」


「ありがとう、やはりガズリーの証言の方は嘘ですか、それならジャレコ、ダムドの二人の刑は――」


 ジャレコとダムドは罰金刑で、俺とテルル対して大銀貨一枚ずつの支払いが課せられるだけで、犯罪奴隷として期限付き強制労働は無しだそうだ。


 だが、実行犯のガズリーなんだが……。


「――二人に対してガズリーは嘘の証言をしたことになりますね、現場にいた者達の証言に、ジャレコ、ダムドの証言が一致し、当事者のケント、テルルの証言が一致したのですから」


「馬鹿な事を言わないでください! 俺は嘘なんかついてないぞ! 僕は教会が認めた聖騎士ガズリーだ! 悪いことは何一つしてない!」


 椅子から立ち上がり、鉄格子まで走りよってきて、格子を掴んで俺を睨み、つばを飛ばしながらわめいてくる。


「下がれ! 大人しく席に着いておきなさい!」


「司教を連れてきて下さい! そうすれば僕の無実が証明されますから! そして害悪の外れスキル持ちのケントが悪者だと分かりますから!」


 衛兵のおっさんも、なんなんだコイツって顔で、ため息をつき、無視して刑を読み上げる。


「ガズリーはケント、テルルに対して罰金刑として大銀貨五枚ずつの支払い、犯罪奴隷として二年の強制労働とする」


「は? 大銀貨五枚に二年の強制労働? そ、そんな……犯罪奴隷に一度でもなればもう冒険者どころか、まともな職につけなくなるじゃないですか! それは僕ではなくてケントの罪でしょう! あっ! 司教様! 迎えに来てくれたのですね!」


 刑を言い渡されて、なっとくいかないのか、またわめき出したガズリー。


 いやいや、悪いのは全部お前だろ、おれのせいにすんなよな。


 だが、ガズリーがわめき終わる寸前に俺達が入ってきた扉の無い入口から、ちと高級そうな白ローブを着たおっさんが入ってきた。


「ふむ、君が……ふむ、聞いた通りです、クルトが拾ったと言うケントですね。君、クルトからナイフは受け取りましたか?」


「司教様! 聖騎士ガズリーです! 無実の罪で罰を与えられようとしています! どうかお助け下さい!」


 いきなり来て、第一声からガズリーを無視して俺の事を? クソ爺にもらったナイフの事まで聞いて来るとは何考えてんだ? ガズリーを引き取りに来たんじゃねえのか?


(きゃはは♪ 今の言葉を聞いて理解できないなんてホントにこのリー馬鹿じゃないの?)


 いや、その通りだと俺も思うぞ、後、ガズリーな。

 でも見た事もねえ司教様だが、俺の持つナイフを狙っているのか、俺から目を離さねえぞコイツ。


『あの者クルトが言ってましたね、ナイフの封印が解けたら教会が所持したがっていると』


 あー、そういやクソ爺が言ってた気がするな。


 司教はジロジロと俺の装備を見てるようだが、あのナイフは解体用と思ってリュックに入れてある。


 武器はクロセルを背負ってるだけだかんな。


(ん~と、クローセはちょっとどいててね~、あっ、これね、私が収納しておいてあげるよ♪ そうすれば見付からないし♪ この前悪者が持ってて拾った、魔道具のナイフを代わりに入れといてあげるね♪)


 アンラがふわりと浮いて、リュックに手を突っ込むと、ゴソゴソと漁り始めた。


 小さく『にゃ』と聞こえたが、俺のナイフをアンラは見付けたようだ。


 んで、別のナイフを代わりに入れてくれたみてえだな。


『そうですね、私が収納しておくより見付かる可能性は低いでしょう、ケントは収納する能力があると知っている者は知っていますので』


 アンラ、ありがとうな、だったらリュックの中身を見せてやれば早いよな。


「ん? もらってねえぞ、だがナイフなら――」


 椅子から立ち上がり、背負っていたリュックをテーブルにおろすと、まずはクローセがいたな。


 クローセに出てもらい……キラキラした目でテルルが見てくっから、隣で座っていたテルルの膝の上に乗せて、リュックをひっくり返し、中身をテーブルの上にぶちまけてやった。


「おっ、あったぞ」


 そう言ってアンラが入れであろう見たこともない、黒地に金色の魔法陣が装飾されたナイフを指差した。


「し、司教様? あの、僕を助け――」


「おお! こ、これです! 魔力を感じます! これは教会が管理すべき物なのです! 君がもっていて良い物ではありません!」


 なんか、滅茶苦茶興奮してガズリーの事はまた無視したままでテーブルに駆け寄り、宝を傷つけないようにする感じで、そっとナイフを両手で拾い上げ、掲げ持ち恍惚とした顔でナイフを見ている。


(ねえ、そのナイフなんだけど、下位のレイスなら近付いて来にくいだけのナイフだし、売ってあげたら?)


 ん? 来にくいだけで来ない訳じゃねえのかよ、まあ要らねえからやっても良いがよ、鉄格子に張り付いてるガズリーがなんだか……ちと可哀想になってくるな。


「なんだ、司教様はそのナイフが欲しいんか? それよりガズリーが泣きそうだが良いんか?」


「もちろん教会で持つべき者に持たせますので、お譲りいただきます」


 やっぱ欲しいんだな、ってかガズリーは?


 そして鉄格子に張り付いたガズリー見て、ビクっとしたと思ったら、凄い勢いで喋り始めた。


「それに……ガズリーですか? はて? どこかで見た覚えが……あっ! そう言えば悪さをした聖騎士ガズリーを引き取りに来たのでした! それよりも重大な使命を大司教から受けたので、すっかり忘れていました! すぐに教会が引き取ります、手続きを!」


 忘れてたんかい! ってかナイフ懐にしまうんじゃねえ!

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