第68話 ダンジョンは……

『ケント、ダンジョンですと、修行に適していると思いますので、もぐる許可をもらえないか聞いてみるのも良いかもしれませんね』


 おお! そりゃ良い考えだな、聞いてみるだけ聞いてみて、駄目ならダンジョンのある街に行ってみるのも良いな。


(ダンジョンね~、私は迷路のダンジョンは苦手だよ~、いつも迷っちゃうし、面倒なんだもん。っと、こら待て逃げるな!)


 通路の先、正面に真っ白で、金の柄が浮き彫りにされた立派な扉が見えてきた。


 扉の前にはやっぱり二人の騎士が扉を護るように腰に剣、手には槍を持って立っている。


 モヤモヤに逃げられかけたアンラも、そいつを捕まえた後、天井から下りてきて、俺の横に着地。


(あの部屋には弱いレイスは入れないかもね~、あのトロールになったレイスくらいなら入れそうだけど、結界が張られてるわね)


 そうなんだ、なら倒す前は宰相にくっついて入ってたんだろうか……。


 俺達がいねえ時に殺られなくて良かったぜ、王様が死んでしまうとヤバいもんな。


 扉前に到着し、案内してきてくれた兵士が扉を護っていた騎士に、俺達が来たと伝え、それを聞いた騎士が扉を叩くとすぐに中から公爵様の声が聞こえた。


『誰だ』


「ケント殿が到着いたしました」


『入れ』


 中からの返事が来た後、騎士が扉を開けてくれたので、案内してくれた兵士と共に執務室に入った。


 中は思ってたより物は置いてない部屋で、外に出れる窓があり、壁際は本が詰まった棚がぐるりと立ち並び、真ん中には柔らかそうなソファーに王様と公爵様が座っている。


 後は立派な机と椅子があって、机の上には本や、なんかの資料みたいな物が置かれているだけだった。


 扉が入ってきた俺の後で閉まってきがついたんだが……。


 メイド! 全然気が付かなかったぞ! 気配を消してたって事か!


(ふ~ん、この子中々の強さね、気配の消し方もすんごく上手いし)


 ちと驚いてしまったが、もしかすると、王様を護る本当の護衛はこのメイドかもしんねえな。


「来たか、ケントはこっちに座って、君はすまないが壁際に下がっていてくれ」


「はっ」


 優雅にお茶を飲みながら公爵様が声をかけてきた。


 言われた通り、二人が並ぶソファーの対面へ向かい、テーブルを挟んだソファーに俺は腰を下ろした。


 アンラはいつも通りというか、本棚を物色している……手に取ったらバレるんじゃねえのかと心配だ。


 そんな心配も気にせず抜き取ってはペラペラとめくり、気に入らなかったのか、すでに読んだ事があるのか分かんねえが、元に戻して次の本を抜き取ってる。


 そして何冊か目に良いのがあったのか、そのまま手に持って俺の横まで来たと思ったら、そのままソファーに座り、本を開いて読み始めた。


 っ! いつの間に横に来たんだよこのメイド!


 フッとお茶のいい匂いがしたと思ったら、アンラを見ていた俺の横にメイドが来ていて、テーブルに俺の分のお茶を置いてくれた。


「ああ、いつもありがとう。君が入れたお茶が一番美味しいよ」


「うふふ、ケント殿が驚いていますわよ、それより私の大事な旦那様を助けた方に紹介はしてくれませんの?」


 へ? 旦那様? って事は……王妃様って事かよ!


 俺はその言葉でさらに驚いちまった。


「くくくっ、その様だな。ケント、メイドの格好をしているが、シルヴァン王国の王妃プラチナだ」


「シルヴァン王国国王の妻、プラチナ・ミル・シルヴァンと申します」


 綺麗なお辞儀、スカート摘まんで挨拶をしてくれた。


「この度は王と公爵の命、さらには王城に巣くうレイスの討伐まで成し遂げたケント殿にはいくら感謝をしても足りない思いです」


「お、おう。ケントだ、家名は無いからただのケントだな。ここにいたのはたまたまだから、自分の身を護るついでだし、そこまで感謝されっとなんか恥ずかしいぞ」


 一応立ち上がって、痒くはねえが頭を掻いて、頭を下げておく。


(王妃なんだ! 変わった王妃だね、メイドの格好なんて普通しないんじゃない?)


 俺もそう思う。


 とりあえず挨拶が終わり、ソファーに座ってお茶をちょっと飲んだ後、公爵様が話を始めた。


「宰相のワルダックをキツく取り調べをしたんだが……リチウムとの繋がりが分かった」


 ん? 暗殺ギルドのリチウムと繋がってる? ならワルダックも暗殺ギルドなんか?


 顔を歪めながら話す公爵に、真剣な顔で、お茶を口に持っていきながら怒ってる感じの王様。


 いつの間にか、王様を真ん中にして、公爵とは反対側に座っている王妃様は、優雅にお茶を飲んでいる。


「それもシルヴァン王国王都支部の暗殺ギルドでギルドマスター兼、グランドマスターという事が分かった」


「マジかよ……なら、王様達を殺ろうとしたのはリチウムを助けるためなんか? それとシルヴァン王国の乗っ取りとかか?」


 俺が思いつきで言った事は両方が正解だった。


 長年王の側近として仕え、少しずつ実権を手にしながら準備を重ねていた。


 しかし、リチウムが捕まった事で、自分の正体がバレるかも知れねえと焦りを感じ、今回の毒殺をとっさに考え実行してしまったそうだ。


 本来なら、時間をかけて絶対にバレる事がないように計画を立てるそうだが、リチウムから漏れるだろうシルヴァン王国乗っ取りの計画もあり、ずさんな計画になったとのこと。


「なら、この国の暗殺ギルドは潰せそうなんか?」


「うむ。今はこの国にいるギルド員の名簿を作成している。だが、幹部から末端、他国の者まで合わせて千人近いギルド員がいるからな、隣国や、さらに遠くへ逃亡する者もいるだろうから、壊滅は難しいだろうが……」


 顎に手をやり、天井を見上げながら何かを考えているようだ。


 そこへ公爵が身をのりだし、お茶のカップを持ち上げながら、話を挟んできた。


「兄さん、他国の名簿も多少抜けはあるだろうが作れそうなんだろ? 国境にその名簿を送れば多少は食い止める事も出きると思わないか? 出国する方も、入国する方もだ」


 確かにその通りだな、少しでも捕まえられるんならやらない手はないと思う。


(ねえねえ、ダンジョンはどうするの? このままだとそっちに話をもっていくの難しくない?)


 だよな、早く褒美の話にもっていってもらいてえが……ちと生意気だが聞いてみるか。


 俺はお茶を一口飲んでから、話し込んでる王様達に声をかけた。


「なあ王様、話してるとこ悪いんだがよ、頼みてえ事があるんだ」


 二人いや、王妃様も声を出した俺に気付いて顔を向けた。


「この城にあるダンジョンにもぐりてえんだが、駄目か?」


「「「は?え?」」」


 ん? なんかまぬけな顔になってっけど、変なこと言っちまったか?

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