第53話 謁見

 村に帰ってきた翌朝、俺達は王都に出発した。


 アシア、エリス、プリムも一緒にだ。


 七回の夜営をして、何度か魔物と遭遇したが、全て倒し、特に何事もなく俺達は今、ゆるい下り坂を進む。


 馬の休憩中に見えた王都は、大きな川が二本流れ込む大きな湖の畔にあり、リチウムの街や、通りすぎてきたどの街よりも大きく、街の外壁も二十メートルはある立派な街だった。


 休憩を終えて王都に入るため坂道を下り、ズラリと並ぶ入門待ちの人々の横を通り過ぎたところにあった、川を渡る跳ね橋に差し掛かり、俺達は流石公爵様の馬車だから止まる事もなく、跳ね橋を渡ると門をくぐる。


 十メートルほど、外壁がくり貫かれたようなトンネルを抜けると、大きな広場があり、石造りの町並みが目に入った……らしい。


「エリス! 凄く沢山の人がいるよ! この広場だけで村の人より多いじゃない!」


 箱馬車に付いてる明かり取りの窓にアシアとエリスが体と顔を寄せ、その小さな窓から外を覗いて騒いでいる。


 座っている俺からすると隙間から空がチラっと見えるだけなんだが。


「アシアちゃん、座ってないと危ないよ、人も村より多いと思うけど、この前の商業都市と変わらないからね」


 エリスはアシアの背中をトントンと叩いて落ち着かせようと頑張っているが、興奮は冷めないようだしエリスもだからな……。


「うう、私も見たいけど、届かないです、ケントさんも見たいと思いますよね?」


「ああ、見たいんだがアイツらはあの調子で、コイツが寝てっからよ、動けねえ」


 床に座る俺の左にいるプリムは、一緒に見たそうで、腰を半分浮かしている……が身長が足りねえし、窓も小さいからな。


 そしてアンラだ。


(げふぅ、ケント~、もう一枚焼いて~)


 とか寝言を言ってる……器用な事に念話で……。


 そして座ってる俺の足を枕にだ……よだれまで垂れてるしよ……。


「あはは、アンラさん朝からいっぱい飲んでましたからね、お酒臭いです」


 ガタガタと石畳走る車輪の音が大きく、さらに俺の耳元に口を寄せ、小さな声でプリムがアンラの頭を撫でながらそんな事を言う。


「だな、でも、街に入ってからはケツの痛さはマシになったな、うるせえけどよ」


 街道を走る時の半分くらい振動がなくなったが、音は石畳だからうるさくて仕方がない。


 外も見れないまま、一時間ほど走った時、馬車の速度が落ちてきた、そろそろ到着のようだ。


 冒険者ギルドは途中の街でより、アンラの登録はできてねえが、アシアとエリスの冒険者登録と、パーティー登録は済ませておいた。


 そこでカルパのおっさんとリチウムから村までの商隊護衛をした分は、その冒険者ギルドでもらい、半分ずつに分けて、心もとなかった調味料系を俺は買い揃えておいた。


 ガタンとひときわ突き上げるような振動の後、御者台から公爵邸に入ったと声がかかる。


「「す、スゴいわ!おっきなお屋敷です」」


 馬車の速度がさらにゆっくりになり、そして止まった。


『到着です、戸を開けますのでお待ち下さい』


 御者台から声がかかり、言われた通り、外のかんぬきがゴトゴトと引き抜かれる音が聞こえた。


 それに合わせて俺もアンラの頭を叩き……。


「ぷふっ、可愛いです」


 叩いた手を取られ、胸に抱き締めるよう抱え込まれてしまった。


「はぁ、すまねえが内側の閂を外してくれるか?」


「任せて」


 アシアが小窓から離れて扉に向かい、閂を引き抜いてくれた。


 俺はその間にアンラを抱えてその上にみんなの分の鞄を乗せる。


 カチャと開いた戸から外の光が射し込み、戸が開くと消えるようになっている光の魔道具が消えた。


「あっ、みんなの荷物持ってくれたんだ、ケントありがとう、ほいっと」


「ケントありがとう、重くない?」


「おう、問題ねえ、それより気を付けで降りろよ」


 アシアはぴょんと飛び降りていき、その後をエリスが慎重に置いてもらってある足場を使い降りた。


「はぁ、行くか、よいしょっと」


 鞄を下ろし、アンラを背中に背負い直して、落ちないようにロープで縛っておく。


 それを隠すようにクロセルに出してもらったローブを羽織り、手には鞄を待ち直してプリムに先に降りてもらった後、最後に俺が降りた。


うお……デ、デケえぞマジで、公爵様ってのはこんなデカい屋敷に住んでんのかよ。


俺とプリムは覗いてなかったから、初めて見る屋敷を見て呆然と見上げて動けなかった。


「なんだケント、荷物持ちか? 中々男前じゃないか」


うおっ、あまりのデカさにビビッ……ビビッってねえが、ちと驚いてしまったぜ。


「男前? ギルマス、こんくらい当たり前だろ? ってかよ、ここに泊めてくれんのか? そうじゃなきゃ宿を探さねえと」


俺達以外はあわただしく馬車から荷物を下ろしたりしている。


ギルマスは何を言ってるって顔で、俺を観てる。


「ああ、当たり前だろ泊まっていけ、デカい客間を用意してやるから王都にいる間は心配するな」


「え? ケ、ケントと同じ部屋! そ、そんな、早いと思うにょ……でも、どうしてもって言うなら……」


 ギルマスの言葉に反応したアシアは、顔を真っ赤にしてワタワタとしてるんだが、エリスは『それ良いかも』と小声で。


 ……聞こえてんぞ。


「アシアだったか、残念だが、客間と言っても、寝室は流石に別々だぞ、まあお前達が良いなら一緒でも私はなにも言わないがな」


 ニヤニヤしながら俺達を見てくるんだが、ふざけやがって。


「別々に決まってんだろ、んで、王様とはいつ会えるんだ?」


「兄さんには早馬で知らせてある、もう屋敷に謁見予定が届いてるはずだ、まずは客間に荷物を置いて来てもらうか、話はそれからにしよう」


 荷物を運ぶ者達を横目に俺達は、デカい玄関扉の前にあるエントランスに三段しかない階段を上り、大扉が開かれた先にいたのは――。


「コバルト、よく帰った、無事でなによりだ」


「なんだよ兄さん、また抜け出してきたのか?」


 ギルマスの兄さんがいたようだ。


 ………………おい!

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