第47話 襲撃者達の捕縛

「なんだと!」


「ギルマス、声がデカ過ぎだ!」


 副隊長を押さえていたから立ち上がるのを止められなかった。


 立ち上がったギルマスは『うおっ! そうだったすまない』とまた慌てて座り直す。


 向こうは……。




「何かいざこざがあったようだな、見たところ兵士に冒険者がたてついた感じか」


 いやいや、あんたらの事を教えたら驚いただけだぞ。


 遠目ではいざこざに見えたのか、奴らはニヤニヤと笑いながらこちらに向かい、ゆっくりとだが確実に歩き、近付いてくる。


「くくくっ、ならば、突然現れた俺達に対する警戒は低いと見える。ならばさっさと近付いて始末してしまおう」


 ギルマスの動きを勘違いしてくれたんだな、歩く速度が上がったし。


 それに、手前の者はまだだが、後ろの奴らは見えないと思っているのか剣を抜いている奴らまでいる。


「奴ら……ギルマス、剣を抜いた奴がいるぞ、もう眠らせても良いか?」


(ほいほ~い、眠りヒュプノスね~、やっちゃうよ~♪)


 待て待てアンラ! 合図するまで待ってろ!


 嬉々として奴らに向かって手を伸ばし、手のひらを向けて眠りヒュプノスの魔法を使おうとするアンラを止める。


「何? チッ、そうだな、なるべく近くでやってもらった方が良いな、……街道から先頭が夜営地に入ったところで頼めるか」


 少し考えた後、ギルマスは態々わざわざ来てくれるんだから、眠らせた後、運ぶ手間がないところで眠らせてくれと言う。


 アンラ、聞いた通り頼めるか?


(いいよ~、こっちに入ってからだよね、任せて、んじゃ、それまであのレイスでも八つ裂きにしてくるね~、ひゃっほーい♪)


 ふわっと浮かび上がった後、俺の横から奴らの上に向かって飛んで行き、両手の爪を伸ばしたかと思った瞬間――。


 腕を、いや、体の全体を使って踊るようにモヤモヤを切り裂いていく、アンラの爪が振るわれるたび、夜の闇より黒かったものを浄化していく。


 無謀にもアンラに向かって反撃しようとしたのか、向かっていくものがいるが、指先をくいっと曲げるとモヤモヤは、いとも簡単に切り裂かれ、力なく宙に登り消えていく。


 その躍りを眺めている内に奴らは街道に出て、夜営地に入ってきた。


 ん? おい……まさかアンラ……眠らせんの忘れてねえよな……。


 どんどん近付いてくるんだが、一向に寝崩れない。


(きゃはは♪ ほらほらかかってきなさいよ、こんなんじゃ楽しめないじゃない、ぬははははは♪)


 完全に忘れてるだろ! アンラ! さっさと眠らせろや!


 もう目と鼻の先、先頭のニヤニヤ野郎まで五メートルほどしかねえ。


(あっ!)


「夜分に失礼を、では、さようなら――っ!?」


 先頭の男が剣の柄に手を掛け、カチャと抜き掛けた時、やっと今の状況に気付いたアンラは慌てて掴んでいたモヤモヤを握り潰して浄化、そして――。


眠りヒュプノス!)


 やっと唱えた眠りヒュプノスで、目の前にまで迫っていた奴らを、一人残らず眠らせた。


(あはは……ごめんごめん、ちょ~っと忘れちゃってた~。……ケント怒ってる?)


 はぁ、なんとか作戦通り、それより運ぶ距離が短くなったから今回は良いけどよ、気を付けてくれよなまったくよ。


 アンラは残りのモヤモヤを浄化しながら『あはは~、危ない危ない』とかあんまり反省はしてねえみたいだが、残りを浄化してくれるんなら許すことにして、ギルマスに向き直る。


「ギルマス終わったぞ、しばらく起きねえと思うからよ、縛るんだろ?」


「お、おう、もっと向こうで寝かせると思っていたから少しばかりヒヤヒヤしたぞ」


「す、すまねえな、とりあえず、持ち物とか装備は俺が脱がしてしまうからよ」


 クロセルすまねえが頼めるか?


『分かりました、収納! まったく、アンラは少しばかりお仕置きが必要ですね』


 クロセルは頼んだ次の瞬間には寝ている奴らをパンツだけの姿にしてしまった。


「うっし、縛ってしまうか」


 裸になった奴らを立ち上がって見下ろしたギルマスは、副隊長に命令して隠れて待機していた兵士を呼んでもらう。


 副隊長の号令でぞろぞろと馬車の影やテントの影から兵士達が出てくる。


 ぐるりと囲うように寝ている者と同じ程度の兵士が集まった。


「飼い葉を乗せている馬車の飼い葉を他の馬車に乗せかえ馬車を空けるんだ」


「はっ、それですとリチウム達二人を乗せている馬車とあわせ、二台でなんとか乗せられそうですね」


 ギルマスは次々と命令を出し、一時間かからずリチウムを奪い返しに来た奴らの拘束と、馬車への積み込みが終わった。


「ケント、誰も負傷する事なく、これほど簡単に暗殺ギルドの者を捕まえられるとはな、こりゃCランクには審査無しで上がれるかもな、私が推薦しておいてやる」


 俺の肩に手を置き、そう言ってきたギルマス。


「マジかよ! そんな簡単に上がって良いんか? 嬉しいけどよ」


「ああ、上がるための条件も、文句言う奴はいるだろうが、大丈夫だろう」


 俺は縛るのは手伝えたが、積み込むのはなぁ、デカいおっさんばかりだから邪魔だとやらせてもらえなかった。


 ぜってえデカくなってやる。


 何だかんだで、夜警の時間が終わり、俺達は、交代して寝る事にした。


 翌朝、公爵様、ギルマスの馬車列が先に走りだして夜営地を出た後、俺達も出発した。


 暗殺ギルドによるリチウム奪還騒ぎの後は、何度か魔物の襲撃はあったが際立つ事件も起こらず、明るい時間に村に到着した。

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